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エッグバトル始動!

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「じゃ、そっちから自己紹介して」

 講師がすっと向かって左側を指差し、二ノ宮が立ち上がった。

「ども。二ノ宮ひかるです。金曜にいます。よろしくどうぞ~」

 気だるげな雰囲気を持つ二ノ宮輝。周りから不思議ちゃんと呼ばれているが、実はかなりのしっかり者だ。そんな二ノ宮の挨拶に、一ノ瀬が「軽すぎね?」とまたもツッコむものだから、太一達の周辺エッグはぐっと笑いを堪えた。その軽さが二ノ宮の持ち味だと分かってはいるのだが、やはり軽いと思う。

 次いで立ち上がったのは天然ブロンズヘアのクォーターアイドル猫居だ。

「火曜の猫居鈴音レオンです。ほらほら、笑顔だよ、小形くん」

 そう言って自分の頬を指差し、猫居は柔らかく小形に笑いかけた。

「よろしくね」

 これぞアイドル。路線は確実にセクシー分野。祖母がロシア人である猫居は隔世遺伝を色濃く受け継ぎ、肌も白く、日本人離れした顔立ちをしている。こればっかりは誰も真似出来ない生まれつきの色気だ。

「やっぱ、さすがに猫居くんはツッコむとこ無いな」
「いやいや、そういうゲームじゃないから」

 一ノ瀬が小首を傾げて悔しがるものだから、今度は太一がツッコむことになった。周辺エッグ達もクスクスと笑う。そんな中立ち上がったのは、トップナインの中でも野獣扱いされている黒野だった。

「黒野影虎かげとら。俺も火曜。死にもの狂いで付いて来いよ。ライバルは腐るほどいるぜ」

 そう言って不意に太一達のいるバックを振り返るものだから、クスクス笑っていたエッグ達は一瞬にして無表情へと戻った。

 黒野は怖い。雪村の次に怖い。この事務所のアイドルにとって敵に回したくない相手は間違いなくこの二人なのだ。だが、雪村は正当な理由でしか後輩を叱りつけないが、黒野は少し違う。ただ単純に喧嘩っ早いだけ。
 どちらに目をつけられても恐ろしいが、エッグたちにとって雪村は黒野よりも確実に格上。事務所歴も、人気も実力も雪村の方が勝っている。黒野もそれを重々承知しているが、素直にそれを認められるほど大人でもない。かと言って二人は犬猿の仲というわけではなく、同じ事務所の同胞としてそれなりに気の合う間柄であったりもする。ただ黒野が一方的にライバル視していることだけは理解していただきたい。

 黒野が腰を下ろしたことで、エッグ達の緊張は一気にほぐれ、みんなで顔を見合わせると、一ノ瀬が我慢出来ずに吹き出してしまった。

「しぃぃっ!」

 慌てて人差し指を立てる。
 これがいつもの楽しい日常だ。カメラが回っていても、みんなが一緒だと楽しい。こうやって自分と同じ場所にいるエッグ達と他愛なく笑い合っていることが、太一はすごく好きだった。雪村と一緒にいる時も確かに楽しいけど、自分と同様、名もないアイドル達と笑い合う時間も、太一には同じくらい大事だった。

 だからこそ、太一はアイドル達のアイドルと言われているのだろう。
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