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少年達の夏

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* * * * *

 授業中、太一の携帯がズボンの中で震えた。

(あ、しまった。こんなとこに入れっぱなしだ)

 優等生の太一は授業中に携帯を触ることはまずない。鞄の中にしっかりしまい込み、授業に集中し、板書に命をかけている。いや、言い過ぎかもしれないが、太一のノートは中学に入ってから一冊たりとも捨てられずに残っている。その理由は出来の悪い弟に回すため。運動神経だけは馬鹿にいい弟だが、頭の方は良いとは言えない。テストに出たところを書き記した過去のノートは、弟の最高のテキストと化している。
 しかしながら、陽一の成績が伸びることはない。太一のノートをもってしても、彼の頭は馬鹿なままだ。

 教壇に立つ国語科の教師の後ろ姿を確認し、太一は右のポケットに入れっぱなしだった携帯電話を取り出し、メールを確認した。送信者はエッグ全体のマネージメントをしている木嶋マネージャーだった。

(珍しいな)

 ドラマや映画のオーディションのお誘いメールを、事務所に入って二年目くらいまではよく貰っていた。しかし太一の演技が大根なのだと分かってからは、オーディションの話を一切通してもらえなくなった。木嶋マネージャーから連絡が入る時は大抵、先輩アイドルのレコーディングのお手伝いか、コンサートのバックにつく時くらいだ。

(またデモかな)

 太一は先輩アイドルのデモテープへの声入れを任されることが多い。もちろんコーラスとして正規に入ることもあるのだが、近頃はメンバーがコーラスまできっちり録ることの方が増えてきたため、デモ用の録音にスタジオ入りすることの方が圧倒的に多かった。
 だがメールを開いて、太一ははっとする。

【明日13時より たまご気分の収録有り。黒野欠席のため、代役出来ますか?】

「えっ……!」

 思わず声が出てしまった。
 教室後方に位置している太一の席。驚いて出てしまった声は教師にまでは届かなかったが、隣の席の草野がチラリと太一に目配せし、後ろに座る中原が「どうした?」と背中にシャープペンの頭を押し当ててきた。

「あ……いや。オレ、明日……」

 明日は終業式。まさか一学期最後の日を仕事で休むことになるとは思ってもいなかった。それ即ち、今日中に荷物を纏めて持ち帰らなければいけないということ。

「テレビの収録……だって」

 草野と中原が目を見開き、静かな歓声をあげた。

「おい、まじかよ!」
「うそ! 何のテレビ?」

 昨日放映された第一回目のエッグバトルで学校全体が太一に向ける目の色を変えた。それだというのに早速テレビ収録という仕事が舞い込んで来ては、いつも仲良くしている二人だって興奮しないわけがなかった。
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