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熱帯夜
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カラオケは多いに盛り上がった。太一と志藤のデュエットに加え、ダンスセッションまで行い、中原のやかましい合いの手で爆笑する場面も多々あった。
序盤。太一と志藤のダンスの振りが違うじゃねぇか!と中原がツッコミを入れたが、野瀬が的確な答えを中原へと向けた。
「志藤くんのはメインダンスで、沖のはバックダンスだよ」
「お前、平然と言ってのけたな」
志藤にはまだ自分がアイドル好きだとバレていないのに、それを匂わすようなことを自ら口にした野瀬へ、中原の方が目を丸くした。
「いや、まぁ……。普通に考えたら、そうだろ」
中原のツッコミに野瀬もハッとしたが、これが当然のような態度を貫き通した。そんな野瀬の姿を見ながら志藤は思うのだ。
さては、野瀬先輩。ずっと前からたいちゃんのこと狙ってたな、と。
太一を追いかけ、エッグコンサートに来たり、アンプロショップに顔を出したりしているのではないだろうかと。
あながち間違ってはいない。なんなら大正解である。腐りかけた脳内だが、起死回生のごとく勘が良くなり出していく。人をそういう目で見出すと、こうやって稀に予想が大当たりしてしまう。もちろん、これが大当たりだとは志藤はまだ気づいていない。
「浴衣、よく似合ってるよ。たいちゃん」
中原が歌っている最中、志藤が太一をそう褒めると、彼は照れ笑いを浮かべた。
「野瀬の浴衣なんだ、これ」
へへっと恥ずかしそうに笑う太一に、志藤はこめかみを撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
野瀬の浴衣!? しかも照れ笑い! それイコール、恋コゴロ!
(ちょっと待て! それは飛躍しすぎだ!)
自分で自分の思考回路をぶった切り、志藤はバッと太一に背を向けると、冷静さを取り戻すべく深呼吸を繰り返した。
(何が何でもそれはぶっ飛びすぎだろ俺。……でも、例えば……)
哀れなほど志藤はノイローゼにかかっている。
(例えば、たいちゃんだって男を好きな可能性もあるわけで)
そう思い、やはり思い出したのは美月の紹介を即座に断った太一の態度だった。
(違う違う違う! んなわけない!!)
だけどなんとも言葉にしがたい敗北感。それは孤独感にも似ていて、苛立ちや悲しみも追い打ちをかけてくる。大きな声で叫びたいほどの感情が溢れ出し、頭を抱えて項垂れた。
太一が男を好きだった場合、志藤の存在は疑うことなく “鬱陶しい” だろう。近づく男を排除しようとしているわけだから、太一からしてみれば迷惑千万。勝手にナイト気取りをしてくれる志藤など、お払い箱である。
そう考え出すと、もうどうすればいいのかさっぱり分からなくなった。
ここははっきりと太一に男が好きかどうかを聞くのが手っ取り早いが、そんなぶっちゃけた話をさらりとカミングアウトしてくれるとも到底思えない。この際、他の男に取られるくらいなら自分が太一を奪ってしまおうか、なんて危険なエリアに考えが及び、志藤はガッとヒステリックに頭を仰け反らした。
「ど、どうしたの?」
太一だけでなく野瀬まで志藤の挙動にビクっと肩を揺らし、二人はおずおずと彼へ声を掛けた。
「なんでも……ないっ」
頭を冷やそう。
志藤は立ち上がり、一旦部屋を出ると一人トイレへと向かった。
序盤。太一と志藤のダンスの振りが違うじゃねぇか!と中原がツッコミを入れたが、野瀬が的確な答えを中原へと向けた。
「志藤くんのはメインダンスで、沖のはバックダンスだよ」
「お前、平然と言ってのけたな」
志藤にはまだ自分がアイドル好きだとバレていないのに、それを匂わすようなことを自ら口にした野瀬へ、中原の方が目を丸くした。
「いや、まぁ……。普通に考えたら、そうだろ」
中原のツッコミに野瀬もハッとしたが、これが当然のような態度を貫き通した。そんな野瀬の姿を見ながら志藤は思うのだ。
さては、野瀬先輩。ずっと前からたいちゃんのこと狙ってたな、と。
太一を追いかけ、エッグコンサートに来たり、アンプロショップに顔を出したりしているのではないだろうかと。
あながち間違ってはいない。なんなら大正解である。腐りかけた脳内だが、起死回生のごとく勘が良くなり出していく。人をそういう目で見出すと、こうやって稀に予想が大当たりしてしまう。もちろん、これが大当たりだとは志藤はまだ気づいていない。
「浴衣、よく似合ってるよ。たいちゃん」
中原が歌っている最中、志藤が太一をそう褒めると、彼は照れ笑いを浮かべた。
「野瀬の浴衣なんだ、これ」
へへっと恥ずかしそうに笑う太一に、志藤はこめかみを撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
野瀬の浴衣!? しかも照れ笑い! それイコール、恋コゴロ!
(ちょっと待て! それは飛躍しすぎだ!)
自分で自分の思考回路をぶった切り、志藤はバッと太一に背を向けると、冷静さを取り戻すべく深呼吸を繰り返した。
(何が何でもそれはぶっ飛びすぎだろ俺。……でも、例えば……)
哀れなほど志藤はノイローゼにかかっている。
(例えば、たいちゃんだって男を好きな可能性もあるわけで)
そう思い、やはり思い出したのは美月の紹介を即座に断った太一の態度だった。
(違う違う違う! んなわけない!!)
だけどなんとも言葉にしがたい敗北感。それは孤独感にも似ていて、苛立ちや悲しみも追い打ちをかけてくる。大きな声で叫びたいほどの感情が溢れ出し、頭を抱えて項垂れた。
太一が男を好きだった場合、志藤の存在は疑うことなく “鬱陶しい” だろう。近づく男を排除しようとしているわけだから、太一からしてみれば迷惑千万。勝手にナイト気取りをしてくれる志藤など、お払い箱である。
そう考え出すと、もうどうすればいいのかさっぱり分からなくなった。
ここははっきりと太一に男が好きかどうかを聞くのが手っ取り早いが、そんなぶっちゃけた話をさらりとカミングアウトしてくれるとも到底思えない。この際、他の男に取られるくらいなら自分が太一を奪ってしまおうか、なんて危険なエリアに考えが及び、志藤はガッとヒステリックに頭を仰け反らした。
「ど、どうしたの?」
太一だけでなく野瀬まで志藤の挙動にビクっと肩を揺らし、二人はおずおずと彼へ声を掛けた。
「なんでも……ないっ」
頭を冷やそう。
志藤は立ち上がり、一旦部屋を出ると一人トイレへと向かった。
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