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壊れた信頼
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レッスンスタジオに取り残された一ノ瀬だけあんぐりと口を開け、「まじかよ」と呟くとグチャグチャに頭をかき回した。
「どんだけユキくんに対してどSなんだよ、たいちゃん! くっそー! 俺に任せてどうなってもしんねぇかんなっ!」
一ノ瀬はそう叫ぶと太一とは反対側の廊下を駆け出した。雪村の後を追って。
カメラは一台しか入っていない。どちら側を追おうか迷い、まずは志藤と太一の後を追いかけていった。
何処にいるのか必死に探して、太一は漸く非常階段の前で小さく蹲っている志藤を見つけた。
その背中は丸まっていて、とても小さく頼りない。
小刻みに動く肩の動きで、泣いているのもよくわかった。
自分の後ろに番組スタッフがいる。その気配を感じながら、太一は静かに志藤の名を呼んだ。
「……歩くん」
ぴくんと動いた小さな体は、太一の声にイヤイヤと首を振り、こっちへ来るなと完全に背を向けてしまった。だがそんなことをされたって、このまま帰るわけにもいかない。太一は静かに志藤の元まで歩み寄り、そっと斜め後ろにしゃがみ込んだ。
「歩くん……」
そして優しく触れた志藤の背中。
泣き声を堪え、息もろくろくまともにしていない志藤の背中を、太一はただ優しく優しく撫でた。
掛けてあげたい言葉など腐るほどあった。愛おしくてたまらないその小さな体だって、志藤が安心して大声で泣けるくらい、強く強く抱きしめてあげたいとも思った。
けどそのどれも……、太一は志藤にしてやることはできなかった。
沖太一という男は、カメラの前でそんなことが出来るような人間ではないのだ。
口から出てきた言葉は、無神経にして一番大切なこと。
「今歩くんは、何に泣いてるの?」
そんなこと聞くなよ。
そんなこと聞かなくても分かるだろ。その場に居ただろ、見てただろ、聞いてただろ!
けど、違う。
志藤の心の中は、そう大声で叫びながらも……その言葉の真意をちゃんと理解していた。
泣いているのは、うまく踊れなかったことじゃない。雪村に怒られたことじゃない。
「……ぉ…っ、俺……、酷いこと……、言った」
雪村に酷いことを言ってしまったからだ。
そう答えると、ポンポンと太一が頭を撫でてくれたから、志藤はまたボロボロと涙を落とし、堪えきれなかった泣き声を漏らして泣いた。
「歩くんにとってのユキと、ユキにとっての歩くんはきっと……全然違ってたんだろうね」
突き刺さるような言葉。志藤は「違う……」と認めたくないかのように首を振ったけど、太一はきっぱりと言い切った。
「ユキは歩くんに甘えすぎてて、歩くんはユキから目を逸らし過ぎてたんだ」
そんな言葉、今は聞きたくなくて、志藤は太一の手を振り払うとそのまま耳を塞いだ。
「ひとりにして……。何も聞きたくない」
「どんだけユキくんに対してどSなんだよ、たいちゃん! くっそー! 俺に任せてどうなってもしんねぇかんなっ!」
一ノ瀬はそう叫ぶと太一とは反対側の廊下を駆け出した。雪村の後を追って。
カメラは一台しか入っていない。どちら側を追おうか迷い、まずは志藤と太一の後を追いかけていった。
何処にいるのか必死に探して、太一は漸く非常階段の前で小さく蹲っている志藤を見つけた。
その背中は丸まっていて、とても小さく頼りない。
小刻みに動く肩の動きで、泣いているのもよくわかった。
自分の後ろに番組スタッフがいる。その気配を感じながら、太一は静かに志藤の名を呼んだ。
「……歩くん」
ぴくんと動いた小さな体は、太一の声にイヤイヤと首を振り、こっちへ来るなと完全に背を向けてしまった。だがそんなことをされたって、このまま帰るわけにもいかない。太一は静かに志藤の元まで歩み寄り、そっと斜め後ろにしゃがみ込んだ。
「歩くん……」
そして優しく触れた志藤の背中。
泣き声を堪え、息もろくろくまともにしていない志藤の背中を、太一はただ優しく優しく撫でた。
掛けてあげたい言葉など腐るほどあった。愛おしくてたまらないその小さな体だって、志藤が安心して大声で泣けるくらい、強く強く抱きしめてあげたいとも思った。
けどそのどれも……、太一は志藤にしてやることはできなかった。
沖太一という男は、カメラの前でそんなことが出来るような人間ではないのだ。
口から出てきた言葉は、無神経にして一番大切なこと。
「今歩くんは、何に泣いてるの?」
そんなこと聞くなよ。
そんなこと聞かなくても分かるだろ。その場に居ただろ、見てただろ、聞いてただろ!
けど、違う。
志藤の心の中は、そう大声で叫びながらも……その言葉の真意をちゃんと理解していた。
泣いているのは、うまく踊れなかったことじゃない。雪村に怒られたことじゃない。
「……ぉ…っ、俺……、酷いこと……、言った」
雪村に酷いことを言ってしまったからだ。
そう答えると、ポンポンと太一が頭を撫でてくれたから、志藤はまたボロボロと涙を落とし、堪えきれなかった泣き声を漏らして泣いた。
「歩くんにとってのユキと、ユキにとっての歩くんはきっと……全然違ってたんだろうね」
突き刺さるような言葉。志藤は「違う……」と認めたくないかのように首を振ったけど、太一はきっぱりと言い切った。
「ユキは歩くんに甘えすぎてて、歩くんはユキから目を逸らし過ぎてたんだ」
そんな言葉、今は聞きたくなくて、志藤は太一の手を振り払うとそのまま耳を塞いだ。
「ひとりにして……。何も聞きたくない」
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