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現在:命日の過ごし方

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「俺が……臣にバイクの免許取れって勧めたんだ。臣が……バイクにさえ乗らなきゃ、死なずに済んだんだよ。だから……全部俺のせいだ」
「直人さん! それは違いますって!」

 のぶが間髪入れずに否定した。

「そうだ、直人。それは違う。臣はお前に言われる前からバイクに乗りたがってた」
「でも……っ!」
「そんなこと言い出したら、何が過ちだったかなんて……分からなくなるだろ」

 あの五月の朝……。
 俺がカツアゲされている優臣を最後まで無視していれば良かったのか……って、そういう話になってくるじゃないか。でもそれは違うだろ? あの時俺は優臣を助けようと思ったし、お前らだって優臣を音楽室に引き込んで、一緒にご飯を食べることを選んだんだろ? 一緒に過ごした一年四か月を……そんな風に否定したくないんだよ。

「とりあえず、臣の家には今年も俺一人で行く。いつか許してもらえる時が来たら、その時はお前らにもちゃんと声かけるから。……な?」

 二人は唇を噛みしめ、納得いかない様子で、それでもしぶしぶ頷いた。

 優臣に会いたいのは俺だけじゃない。優臣に謝りたいのだって俺だけじゃない。分かってるつもりだ。直人だって、のぶだって、優臣の最期を見ていた小泉だって、会いたいだろうし、謝りたいだろうし、そして……許して欲しいと思ってるだろう……。

 優臣はチームで唯一の真面目な男だった。髪を染めることも、ピアスを空けることも、制服を着崩すことも、生活指導に呼び出されることも、成績不振ってこともなく、もちろん喧嘩だってしなかった……。なのに……一番誠実に生きたあいつが、誰より先に死んでしまったから……。

 もう絶対に答えてはくれないけど、……なぁ臣……。俺と出会った事、後悔してるか? 恨んでるか? 俺の事……嫌いになったか?

 俺はさ、お前と出会えたこと……お前と過ごした高校生活、奇跡だと思ってる。忘れられなくて、今でも会いたくて、話をしたくて、悲しくて、寂しくて仕方ない。
 毎月お前に会いにお墓に行くけど、墓石の前じゃお前の声……聞こえないんだよ。冷たくてさ……、そこにお前がいるってなんだか思えなくて……。それでも俺は墓石の前でしかお前に会えないから……。何時間だって謝り続けてしまう……。

 例えば優臣に嫌われてしまっていても、恨まれていても、俺は必ず仏壇に手を合わせるって決めてるんだ。どれだけの年月をかけても、どれだけ親父さんに殴られ蹴られ、罵倒されたって、絶対に会いに行くって決めてんだよ。

 だって……、信じてたいんだよ……。優臣が俺を待ってるってさ。じゃなきゃ……俺今……ここに息をして立っている意味が……分からなくなるから。
 夢でも、幻想でも……お前が俺を待ってくれてるって、「会いに来て」って……今も家で待ってくれているんだって、そうでも思わなきゃさ……、生きてけないだろ。

 厚かましくて、図々しくて、自分勝手で、無神経……。分かってるけど、俺は……許して欲しいんだ。優臣にも、優臣の家族にも、俺を許して欲しいと思う。大事に想っていたから、優臣を好きだったから、このままなんて絶対やなんだよ──。

 会いに行くから……、絶対、諦めないから。

 優臣……、何年かかるか分からないけど……待っててくれ……。必ず、必ず会いに行くから──。
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