上 下
38 / 58
現在:10年目の再会

しおりを挟む
 9月21日。優臣の10回忌。
 そして俺の、最後の一日。

 色々考えた。だけど、やっぱり最後は優臣と同じ場所で死のうと思った。あの山の、あのS字カーブの、あのガードレールで……。愛車と共に、優臣に会いに行こう。

 朝。
 いつかに梓から貰ったブーツを履き、いつものように近所の花屋に花束を買いに行く。だけど、いつもよりもっと豪勢な花束をお願いした。
 店主のおばちゃんは、「えらく立派にするんだね」と笑うから、今年で10年経つんだと素直に伝えた。おばちゃんは眉を垂れ、「そうかい」ってどこか寂しそうに頷いてくれて……。けど、俺は言った。

「大丈夫。今日はなんだか、笑って墓参りに行ける気がするんだ」

 もうすぐ会えるから。優臣に。

 おばちゃんは俺の言葉に安心したように笑うと、「きっと彼女も喜ぶよ」っていつものように俺の腕をカウンター越しに叩いてくれた。

 去年と違うのは、今日が少し肌寒いこと。去年は確かまだまだ夏日が続いていたはずだ。
 鼻歌を歌いながら優臣の墓参りに向かう。気温は秋に近づいているが、天気はいい。こんな日に優臣のところへ行けることを、俺は嬉しいと思う。

「来たぞ、臣。今日もいい天気だな」

 花束を手向け、汲んできた水を墓石に掛けてやる。

「もうすぐ会えるぞ、臣。お前の所に行くからな。待っててくれよ? 俺が道に迷わないように、迎えに来てくれよな」

 こんなに晴れやかな気分で墓参りをするのは初めてだった。

 家の中は綺麗に片づけて来た。
 家具の一切合切を捨てたわけじゃない。綺麗に整頓しただけなんだけど、手紙は残してきた。
 家族と、直人と、仲間宛てへの手紙。

 そして、梓には……ヘルメットを残した。付き合う前に渡した、梓専用のヘルメットを。
 手紙で直人に託した。渡して欲しいと。そして、俺を……忘れないでいて欲しいと……。愛していた……と。

「久しぶりに優臣に会えるな。楽しみだ。だから怖くない。悲しくない……。悔いも……ない」

 そう口にしたけど、俺から去って行く梓の後ろ姿が脳裏を掠めていく。悔いは……ある。
 優臣の両親に許してもらうことが叶わなかった俺だけど……、せめて、梓には全部話して……梓にこんな俺を……許して欲しかった。大丈夫だと……抱きしめて欲しかった。ずっと傍に居て欲しかった。

 俺が何も話さなかったから……。だから振られたんだろう。梓はもしかして勘付いていたのかもしれない。俺の心が梓だけに向いていないことを……。
 後悔してるよ……。今こんなにも後悔している。
しおりを挟む

処理中です...