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現在:生きる

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 こんなことなら、怖がらず……全部包み隠さずに言えば良かった。優臣が好きだったことも、今尚忘れられないことも、これから先もずっと好きでいたいと思うこの気持ちも……、全部梓に言えば良かった。そして、全部許して欲しいとお願いすべきだった……っ!

 それをしなかったから……っ、だから、だから……。

「梓……っ!」

 梓の家に一直線に向かう俺のバイク。その目の前。それは突然だった。

 優臣が現れたんだ。

『こっち』

 そう言って優臣が俺のバイクの前を飛ぶように走る。

 信じられなかった。

 梓の隣にしか現れなかった優臣が、俺の目の前に、しかも……全然見せてくれなかったその表情を隠さずに見せてくれる。

『こっちだよ』

 笑ってた。

 顔いっぱいに花を咲かせたような笑顔で、俺の前を走ってくれる。そして梓の家の前まで誘導するように連れて来てくれて……。俺の右隣で……俺の右手を……握ってくれた気がした……。

「……あぁ、分かってる……。俺は梓を選ぶよ……。それでいいんだろう、優臣……?」

 ぎゅっと右手を握り込む。
 ただ拳を作っただけだったけど、俺は……俺達はしっかり手を繋いで、優臣の優しさと、強さを少し……分けてもらった。


 生きる──。


 優臣のところには行かない。

 俺は……梓と歩く人生を選ぶ──。


「恨むなら恨め……。ごめん、優臣……」

 けど、隣の優臣は笑顔で俺の前に走り出ると、「おいで」と言うように手招きして、笑顔のまま、梓の家の玄関に消えて行った。


「……ありがとう……、優臣……」


 俺は、玄関チャイムを鳴らす。
 梓ともう一度やり直せるように、と願いを込めて……。

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