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陰キャぼっちアメーバと快活少女
私のヒーロー
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杖を構えてゆっくりと間合いを図る。
相手はミナミよりも格段に大きい魔物、手には曲剣を持っており近接戦が得意なのは明白だ。
自分は魔法使い、身体能力は普通の人間と大差はなく近づかれれば終わりということは彼女自身よくわかっていた。
「フレイムバレット!」
杖の先から火の弾丸を撃ち出す初級魔法、そんなもので貫通できる鱗ではないと言わんばかりにリザードはこちらへと曲剣を振りかざす。
何とか横へ飛び込んで避け急いで距離を取り魔法を放つ。
「ファイアブレイク!」
杖の先から炎の球体を発生させ相手に放つ。
先ほどよりも強力な魔法であるためかリザードが少し怯んだ。
それでもリザードの硬い鱗を突破することは叶わない。何発も同じ場所に今の魔法を当て続ければ可能性がなくもないがミナミの魔力と腕では現実的ではないだろう。
(このままじゃ魔力が切れちゃう。あの魔法ならいけるかもしれないけど使ったらもう動けなくなるだろうし、それに倒せるかどうか...)
「グアァァァァァァァァァァァァ!」
「まずっ!」
魔物の攻撃を間一髪で避けた時その場にあった柱が砕け破片がミナミに襲い掛かり彼女の体中に傷をつけ、大きな破片が肩へ突き刺さって激痛が走った。
「痛ったい!」
ズキズキと痛みが広がり思わず声が漏れる。痛む箇所を触って確かめると自分の血がべっとりと付着して痛みよりも背筋にぞわりと寒気が走るような感覚があった。
あの時と同じだ。自分が死んだときと同じような寒気と怖気、孤独。
「いやぁぁぁ!」
必死に恐怖を振り払い闇雲に魔法を乱発する。
それをもろともせずにリザードはミナミへと曲剣を振り下ろした。
直撃こそしなかったが叩き付けられた衝撃波により吹き飛ばされ床へ叩きつけられる。
破片が突き刺さって、打ち所が悪かったのか口から血液を吐き出した。
「ゲホッ、おえっ!がはっ!」
血を吐き、必死に立ち上がろうとするも力が入らない。そうしている間にも目の前に死が迫ってくる。
思考がまとまらない、どうすればいいか分からない。何をすれば助かるのか、どうすれば生き残れるのか、その問いだけが答えもなく彼女の頭へ濁流のように流れてくる。
彼女の命を奪おうとリザードが一歩、また一歩と近づいて剣を振り下ろそうとリザードが踏み込んだ瞬間、足元が光った瞬間強烈な閃光と爆裂音が迷宮の中に響き渡る。
先ほどセネルの命を奪ったトラップと同種のモノだろう。ミナミが叩き付けられた数メートル前に設置されていたトラップを踏み抜いた片足は吹き飛び倒れてジタバタともがいていた。
(今しかない!)
ミナミは痛みを堪えて走り出す。
ジタバタとしているリザードの体へ飛び乗り顔面に向かい渾身の魔法を放つ。
自分が使うことができる最大火力を持つこの魔法は一日に二回が限度、魔力と体力を消費した今この状況では一回が限界だろう。これで仕留めきれなければもう勝ち目はない。
リザードの顔面に杖を向け魔力を込める。杖の先端に四方から炎が集まり凝縮されて行きすさまじい熱量が迷宮内に広がっていく。これぞ彼女が今できる全身全霊、全力全開、出し惜しみなしの最大火力。
「メテオストライク!」
杖の先から発生した炎の奔流がリザードを飲み込んでいく。
魔法の衝撃で吹き飛ばされるが今度は先ほどよりも打ち付けられる痛みは少なく済んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
煙がなくなった場所には上半身がなくなったリザードグレイヴの死骸が転がっていた。
いくら高ランクに分類されている魔物でも至近距離から高火力魔法を食らえば無事では済まないだろう。
「やった...勝った...ははは...」
身の丈に合わない強力な魔法を使った代償に彼女はその場にぺたりと座り込む。
脅威は去った。強力な魔物を幸運が重なったとはいえ自分一人で討伐した。
いつもの彼女なら全身を使い喜びを表現することだろうが、今の彼女にそんな感情は欠片もなかった。
残ったのは助けられなかった仲間への懺悔、自責の念、そして誰もいない孤独。
ごめんなさい、何もできなくて、助けられなくてごめんなさい。
でも今は、ほんの少しだけ休ませてほしい。ほんの少し休んだらみんなを連れて帰るから、みんなをこんなところに置いて行ったりしないから。
言い訳するように体はぐったりと床は倒れた。
全てを出し切った彼女にはもう立ち上がる力すら残されていなかった。
その時だった。
ドスンッドスンッと重たい音が聞こえて来たのは。
グルグルと喉を鳴らす、脅威の音が聞こえて来た。
地獄が、絶望が広がっていた。
何とか倒したリザードグレイヴや他の魔物たちがこの場所に一気に全てを出し切った彼女を轢き潰すことが容易にできるであろう数が押し寄せていた。
「あぁ...」
口から出たのはたったそれだけの、言葉にも満たない音。
叫ぶ力すら彼女には残されてはいなかった。
両目と股下から何かがじんわりと広がっていくような感覚も彼女にはどうでもよかった。
胸の奥で何かが完全に壊れたような、そんな感覚。
残されたのは終わったという事実だけ。
彼女ができるのは光が消えた目でただ魔物の群れをぼーっと眺めるのみ。
両手を組んで神に祈るそんな些細な力さえ、彼女には残されていない。
「...け....て...」
言葉にならない彼女の願いは迷宮の暗闇に消える...はずだった。
目の前にいたリザードグレイヴの首がどこかへ飛んで行った。
何が起きたのか状況が読み込めない彼女の目の前に黒い何かが降り立つ。
薄暗いこの迷宮の中でもしっかりと分かる漆黒の存在はミナミの体を起こし語り掛ける。
顔を見た瞬間、明かりが消えた彼女の目に光が灯り凍結した感情が急速に熱を取り戻していく。
「カツラギさん!大丈夫ですか!カツラギさん!」
「アズ、ミヤ君...アズミヤ君っ...」
コミュ障で、陰キャで、ボッチで少し頼りにならない。
でも、必ず自分を助けてくれるソルがそこにいた。
相手はミナミよりも格段に大きい魔物、手には曲剣を持っており近接戦が得意なのは明白だ。
自分は魔法使い、身体能力は普通の人間と大差はなく近づかれれば終わりということは彼女自身よくわかっていた。
「フレイムバレット!」
杖の先から火の弾丸を撃ち出す初級魔法、そんなもので貫通できる鱗ではないと言わんばかりにリザードはこちらへと曲剣を振りかざす。
何とか横へ飛び込んで避け急いで距離を取り魔法を放つ。
「ファイアブレイク!」
杖の先から炎の球体を発生させ相手に放つ。
先ほどよりも強力な魔法であるためかリザードが少し怯んだ。
それでもリザードの硬い鱗を突破することは叶わない。何発も同じ場所に今の魔法を当て続ければ可能性がなくもないがミナミの魔力と腕では現実的ではないだろう。
(このままじゃ魔力が切れちゃう。あの魔法ならいけるかもしれないけど使ったらもう動けなくなるだろうし、それに倒せるかどうか...)
「グアァァァァァァァァァァァァ!」
「まずっ!」
魔物の攻撃を間一髪で避けた時その場にあった柱が砕け破片がミナミに襲い掛かり彼女の体中に傷をつけ、大きな破片が肩へ突き刺さって激痛が走った。
「痛ったい!」
ズキズキと痛みが広がり思わず声が漏れる。痛む箇所を触って確かめると自分の血がべっとりと付着して痛みよりも背筋にぞわりと寒気が走るような感覚があった。
あの時と同じだ。自分が死んだときと同じような寒気と怖気、孤独。
「いやぁぁぁ!」
必死に恐怖を振り払い闇雲に魔法を乱発する。
それをもろともせずにリザードはミナミへと曲剣を振り下ろした。
直撃こそしなかったが叩き付けられた衝撃波により吹き飛ばされ床へ叩きつけられる。
破片が突き刺さって、打ち所が悪かったのか口から血液を吐き出した。
「ゲホッ、おえっ!がはっ!」
血を吐き、必死に立ち上がろうとするも力が入らない。そうしている間にも目の前に死が迫ってくる。
思考がまとまらない、どうすればいいか分からない。何をすれば助かるのか、どうすれば生き残れるのか、その問いだけが答えもなく彼女の頭へ濁流のように流れてくる。
彼女の命を奪おうとリザードが一歩、また一歩と近づいて剣を振り下ろそうとリザードが踏み込んだ瞬間、足元が光った瞬間強烈な閃光と爆裂音が迷宮の中に響き渡る。
先ほどセネルの命を奪ったトラップと同種のモノだろう。ミナミが叩き付けられた数メートル前に設置されていたトラップを踏み抜いた片足は吹き飛び倒れてジタバタともがいていた。
(今しかない!)
ミナミは痛みを堪えて走り出す。
ジタバタとしているリザードの体へ飛び乗り顔面に向かい渾身の魔法を放つ。
自分が使うことができる最大火力を持つこの魔法は一日に二回が限度、魔力と体力を消費した今この状況では一回が限界だろう。これで仕留めきれなければもう勝ち目はない。
リザードの顔面に杖を向け魔力を込める。杖の先端に四方から炎が集まり凝縮されて行きすさまじい熱量が迷宮内に広がっていく。これぞ彼女が今できる全身全霊、全力全開、出し惜しみなしの最大火力。
「メテオストライク!」
杖の先から発生した炎の奔流がリザードを飲み込んでいく。
魔法の衝撃で吹き飛ばされるが今度は先ほどよりも打ち付けられる痛みは少なく済んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
煙がなくなった場所には上半身がなくなったリザードグレイヴの死骸が転がっていた。
いくら高ランクに分類されている魔物でも至近距離から高火力魔法を食らえば無事では済まないだろう。
「やった...勝った...ははは...」
身の丈に合わない強力な魔法を使った代償に彼女はその場にぺたりと座り込む。
脅威は去った。強力な魔物を幸運が重なったとはいえ自分一人で討伐した。
いつもの彼女なら全身を使い喜びを表現することだろうが、今の彼女にそんな感情は欠片もなかった。
残ったのは助けられなかった仲間への懺悔、自責の念、そして誰もいない孤独。
ごめんなさい、何もできなくて、助けられなくてごめんなさい。
でも今は、ほんの少しだけ休ませてほしい。ほんの少し休んだらみんなを連れて帰るから、みんなをこんなところに置いて行ったりしないから。
言い訳するように体はぐったりと床は倒れた。
全てを出し切った彼女にはもう立ち上がる力すら残されていなかった。
その時だった。
ドスンッドスンッと重たい音が聞こえて来たのは。
グルグルと喉を鳴らす、脅威の音が聞こえて来た。
地獄が、絶望が広がっていた。
何とか倒したリザードグレイヴや他の魔物たちがこの場所に一気に全てを出し切った彼女を轢き潰すことが容易にできるであろう数が押し寄せていた。
「あぁ...」
口から出たのはたったそれだけの、言葉にも満たない音。
叫ぶ力すら彼女には残されてはいなかった。
両目と股下から何かがじんわりと広がっていくような感覚も彼女にはどうでもよかった。
胸の奥で何かが完全に壊れたような、そんな感覚。
残されたのは終わったという事実だけ。
彼女ができるのは光が消えた目でただ魔物の群れをぼーっと眺めるのみ。
両手を組んで神に祈るそんな些細な力さえ、彼女には残されていない。
「...け....て...」
言葉にならない彼女の願いは迷宮の暗闇に消える...はずだった。
目の前にいたリザードグレイヴの首がどこかへ飛んで行った。
何が起きたのか状況が読み込めない彼女の目の前に黒い何かが降り立つ。
薄暗いこの迷宮の中でもしっかりと分かる漆黒の存在はミナミの体を起こし語り掛ける。
顔を見た瞬間、明かりが消えた彼女の目に光が灯り凍結した感情が急速に熱を取り戻していく。
「カツラギさん!大丈夫ですか!カツラギさん!」
「アズ、ミヤ君...アズミヤ君っ...」
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