5 / 25
5話:就任
しおりを挟む
「いやー、そんな大げさなー。 聞いてくれればその都度相談に乗りますよ、時間があれば」
アドバイザーなんて言っても、つまりは勇者のお守りその二ということだ。 そんなストレスが多そうで、楽しくなさそうなことしたくない。
カリストロのような王女様のファンなら一緒の時間を過ごせるだけで万々歳なんだろうけれど。
「いえいえ、せっかく協力していただくのですからキチンとしませんと」
「いやいや、学生の本分は勉強ですから。 私のような不出来ものにはそんな余裕はないんじゃないかなー」
「勉強ならお手伝いしますよ?」
「王女様にそんなことさせられませんって」
「お気になさらず頼ってください! 私たちはクラスメイトじゃないですか!」
「いやいやいや」
「いえいえいえいえ」
どうにかこの場をやり過ごしたいが、王女の絶対に逃がさないという気迫を感じる。 これはゲーム的に言うと、回避不能イベントなのだろう。
面倒で無駄な時間を過ごすことになりそうではあるが、メリットもかなりある話ではある。 王女と懇意になれるし、勇者とも知り合える。
「頑なですね……では率直にお聞きしますが、何を置けばあなたの天秤はこちらに傾きますか?」
何が欲しいか、金か? 権力か? 土地か? 仕事か? 力か? 誰もが欲しいものだ。 俺だって欲しい。 けれど平穏な日常に釣り合うかと言われると、俺の価値観ではまだ足りない。
「本当に困ってるんです……出来る限りのお礼はいたします。ですからどうか、どうか――
――助けて。
「あああああ、わっかりました! やりますよ! 不肖ラブル・フランツがお手伝いさせていただきます!」
異世界でも男の子は女の子の純粋な弱音に弱いのだ。 それが可愛い、隣の席の子ならなおさらだ。
「ありがとう」
「……(その顔はずるいわ)」
「?なんですか?」
「いや、なんでもないです」
俺はそう言って三回深呼吸した。
鼓動がうるさいくらいに鼓膜を叩く。
王女が不思議そうに「大丈夫ですか?」なんて言って覗き込んでくる。
「近い近いって」
「あ、はい。 申し訳ありません?」
頬の熱が落ち着いてから、俺は咳払いして何事もなかったように話を再開する。
もう手伝うことは決まった。 せっかくやるのなら最大限に利益を引き出したい。
「お礼の話をしてもよろしいですか?」
「はい。 ところでまた敬語になっていますが」
「そんなことは今は置いておいて! 俺が欲しいものは――」
〇
「ぐふふふ」
俺は王女から渡された契約が記載された羊皮紙を眺めて気色悪い声を漏らした。
「これがあれば今まで諦めていたあれもこれも出来る……」
人間生きるには金がいる。 楽しむためにはもっと金がいる。 そして俺の趣味である物造りにおいて希少な素材が手に入らないから、技術者にコネがないから見送ってきたアイディアがたくさんあるのだ。
「ああー、モチベーション上がってきたああああ」
俺が王女に求めたのはまず勇者取り扱いアドバイザーの存在を積極的に公表しないこと。 契約はしたし、しっかりと役目をこなすつもりではいるが周囲に知られることで変なプレッシャーを受けたくない。 平穏な日常は出来得る限り継続したいから。
そして本題の報酬。
俺が求めたのは王女アリストテレスに魔道生活向上研究会のスポンサーになってもらうことだった。 内容は希少な素材、技術の援助。
俺はこのチャンスを趣味に全振りするということだ。
後悔はない。
ない。
〇
憂鬱な朝が来た。
いつもはのんびりした様子で働いている我が家のメイドに「馬車が坊ちゃんを! 王家の紋章が!」とたたき起こされた。
「お迎えに参りました。 どうぞこちらへ」
執事に促され、抵抗もできずキンキラキンの馬車に乗り込んだ。
逃げるなよ、逃がさねーぞという本気を感じた。
俺は売られた子牛の気分で揺られていく。
そして、
「マジで来ちまったよ」
この国のほとんどの人間が足を踏み入れることなく一生を終えるだろう、王城の敷地を俺は恐る恐る進む。
通された部屋で高貴なティータイムを空元気で楽しんでいると、扉がノックされドレスを着た王女が登場した。
「ごきげんよう。 本日は勇者様と顔合わせを」
いつも見る制服姿とは雰囲気が全く違った。
やっぱり俺みたいな一般人とは世界が違う人だと理解してしまう。
「しようと思っていたのですが」
どうやらいきなり面倒になりそうだと、俺はため息を吐いた。
「問題発生です。 アドバイスをお願いします」
アドバイザーなんて言っても、つまりは勇者のお守りその二ということだ。 そんなストレスが多そうで、楽しくなさそうなことしたくない。
カリストロのような王女様のファンなら一緒の時間を過ごせるだけで万々歳なんだろうけれど。
「いえいえ、せっかく協力していただくのですからキチンとしませんと」
「いやいや、学生の本分は勉強ですから。 私のような不出来ものにはそんな余裕はないんじゃないかなー」
「勉強ならお手伝いしますよ?」
「王女様にそんなことさせられませんって」
「お気になさらず頼ってください! 私たちはクラスメイトじゃないですか!」
「いやいやいや」
「いえいえいえいえ」
どうにかこの場をやり過ごしたいが、王女の絶対に逃がさないという気迫を感じる。 これはゲーム的に言うと、回避不能イベントなのだろう。
面倒で無駄な時間を過ごすことになりそうではあるが、メリットもかなりある話ではある。 王女と懇意になれるし、勇者とも知り合える。
「頑なですね……では率直にお聞きしますが、何を置けばあなたの天秤はこちらに傾きますか?」
何が欲しいか、金か? 権力か? 土地か? 仕事か? 力か? 誰もが欲しいものだ。 俺だって欲しい。 けれど平穏な日常に釣り合うかと言われると、俺の価値観ではまだ足りない。
「本当に困ってるんです……出来る限りのお礼はいたします。ですからどうか、どうか――
――助けて。
「あああああ、わっかりました! やりますよ! 不肖ラブル・フランツがお手伝いさせていただきます!」
異世界でも男の子は女の子の純粋な弱音に弱いのだ。 それが可愛い、隣の席の子ならなおさらだ。
「ありがとう」
「……(その顔はずるいわ)」
「?なんですか?」
「いや、なんでもないです」
俺はそう言って三回深呼吸した。
鼓動がうるさいくらいに鼓膜を叩く。
王女が不思議そうに「大丈夫ですか?」なんて言って覗き込んでくる。
「近い近いって」
「あ、はい。 申し訳ありません?」
頬の熱が落ち着いてから、俺は咳払いして何事もなかったように話を再開する。
もう手伝うことは決まった。 せっかくやるのなら最大限に利益を引き出したい。
「お礼の話をしてもよろしいですか?」
「はい。 ところでまた敬語になっていますが」
「そんなことは今は置いておいて! 俺が欲しいものは――」
〇
「ぐふふふ」
俺は王女から渡された契約が記載された羊皮紙を眺めて気色悪い声を漏らした。
「これがあれば今まで諦めていたあれもこれも出来る……」
人間生きるには金がいる。 楽しむためにはもっと金がいる。 そして俺の趣味である物造りにおいて希少な素材が手に入らないから、技術者にコネがないから見送ってきたアイディアがたくさんあるのだ。
「ああー、モチベーション上がってきたああああ」
俺が王女に求めたのはまず勇者取り扱いアドバイザーの存在を積極的に公表しないこと。 契約はしたし、しっかりと役目をこなすつもりではいるが周囲に知られることで変なプレッシャーを受けたくない。 平穏な日常は出来得る限り継続したいから。
そして本題の報酬。
俺が求めたのは王女アリストテレスに魔道生活向上研究会のスポンサーになってもらうことだった。 内容は希少な素材、技術の援助。
俺はこのチャンスを趣味に全振りするということだ。
後悔はない。
ない。
〇
憂鬱な朝が来た。
いつもはのんびりした様子で働いている我が家のメイドに「馬車が坊ちゃんを! 王家の紋章が!」とたたき起こされた。
「お迎えに参りました。 どうぞこちらへ」
執事に促され、抵抗もできずキンキラキンの馬車に乗り込んだ。
逃げるなよ、逃がさねーぞという本気を感じた。
俺は売られた子牛の気分で揺られていく。
そして、
「マジで来ちまったよ」
この国のほとんどの人間が足を踏み入れることなく一生を終えるだろう、王城の敷地を俺は恐る恐る進む。
通された部屋で高貴なティータイムを空元気で楽しんでいると、扉がノックされドレスを着た王女が登場した。
「ごきげんよう。 本日は勇者様と顔合わせを」
いつも見る制服姿とは雰囲気が全く違った。
やっぱり俺みたいな一般人とは世界が違う人だと理解してしまう。
「しようと思っていたのですが」
どうやらいきなり面倒になりそうだと、俺はため息を吐いた。
「問題発生です。 アドバイスをお願いします」
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる