異世界勇者のトリセツ~勇者の扱いに困る王女と転生者(モブ)な俺~

すー

文字の大きさ
8 / 25

8話:勇者のプロローグ

しおりを挟む
「では勇者様行きましょう」

 ベッドから出てきた勇者とこれから三日間の計画を相談して了承をもらった。
 一日目は町へ行く。

「異世界観光へ」
「うん。 その前に敬語じゃなくていいよ。 堅苦しいの苦手なんだ」
「分かった。 じゃあ佐々木くん行こうか」
「異世界なのに名字呼びなんだ……」

 この世界では名前呼びが普通だけれど、勇者相手だと日本の感覚が蘇ってしまって気恥ずかしくなったんだ。




 この町は中央に城があり、そこからすり鉢状に建物が立ち並んでいる。
 全部を一気に回るのは足が死ぬので、勇者の希望と俺のオススメを回るつもりだ。

~いくつかの店と反応をダイジェスト
冒険者ギルド、奴隷商、魔法店、武器屋→勇者
ポータル広場、道場、職業紹介店、精霊石

 まずは異世界の大定番、冒険者ギルドだ。

「おお~思ったよりでかい!」

 石造りの堅牢な三階建ての建物を見上げて勇者が楽し気に叫ぶ。

「ここはギルドの本部だからね」

 しかし中へ入ると勇者はがっかりするかもしれない。 

「思ったより静かだ」
「うん、冒険者は荒くれで野蛮なイメージを持たれがちだけど、実際は国が管理している団体だからかなり教育水準が高い。 みんな国家試験を突破しているから当然だけど」

 物語のように誰でもなれる職業ではない。 戦い生業としているのだ。 国だって危険な人物に剣を持たせたくはないし、国民も安心して眠れないだろう。

「じゃあ国家公務員ってこと!?」
「そうだよ。 王に仕える騎士と、民を守る冒険者って感じ」
「ええ……全然自由じゃないじゃん」

 確かに物語ほど自由ではないが、手続きを行えば好きな場所へ所属を変えることもできるから強い資格を持っている派遣社員のようなものだろうか。

 俺は少し意気消沈した勇者佐々木を連れて、奴隷商へやってきた。

「やっぱり楽園はあったんや」

 ごくり、生唾を飲んでいそうな佐々木を生暖かい目で見つつ、俺は中へ入る。

「すみません、奴隷のリストを見せていただきたいのですが」

 ジャンル別に別れた何冊かのリストを佐々木に渡すと、彼は「これが奴隷……?」と言って首を傾げた。

「昔に行われていたような人身売買のようなものは今はないんだ」

 ここでは物語にあるような人を物のように売り買いする奴隷制度はなく、奴隷商とは終身雇用の人材を斡旋する場所となっている。

「ここで雇った人材はちゃんと面倒を見ないといけないし、奴隷商も信用のある人しか相手にしない。 その変わり教育もちゃんとされてて即戦力になるんだ」
「思ってたのと違う……」
「佐々木が思い描いているような奴隷はまともな国ではないんじゃないかな? 王の声が届かない辺境の奥地の集落とかならあるかもしれないけど」

 元の世界の正社員と同じようなものだ。 安定した収入を求めた人は奴隷になりたがる。 その代わり自由は制限されることは変わらない。

「こっちも見る?」
「これは」
「娼婦のリスト」
「い、いや大丈夫です!!!」

 奴隷に夢を描いているわりに佐々木はピュアな性格らしい。
 俺が商人と会話をしている隙にこっそりページを開いていたのは黙っておいてあげよう。



「隣に職業紹介ギルドもあるよ」

 奴隷商の隣ではスポット的に使える人材が集まる場所がある。
 アルバイトのようなものだろうか。 それと希望の職種に就くための技術講習なども行われていて、この辺は日本と変わらない。

「夢がない……こんなの異世界じゃない」

 俺も同感だ、とは現地人としては言えないので苦笑いして次へと向かう。



「ここはポータル広場。 ポータルを使えば国内外に転移できる」
「ええ? じゃあ馬車で次の街へ!とかないの?」
「お金がなければそうなるかな。 あとは審査に通らない場合も」

 物語の異世界と違ってここでは気軽に遠出することが可能だ。 だからちゃんと旅行という文化も存在している。

 それから武器屋や魔法具店でウィンドウショッピングして、途中で休憩がてら屋台で食事を摂った。

 そして最後にやってきたのは巨大な岩が置かれた広場だ。
 その岩を守るように騎士が立っているので、初見でもそれが重要なものだと分かるだろう。

「これは?」
「精霊石。 大きな町には置かれているもので、魔除けの効果があるんだ」

 これがないといつの間にか町に魔物が入って来たり、住み着いて繁殖したりしてしまう。

「ええ? じゃあ勇者なんていらないんじゃ」
「勇者の必要性は分からないけど、これが効果を発揮するのは力の弱い魔物くらいだから。 強いのは超えてくるよ」

 それと戦うのが騎士であり、冒険者の役目だ。

「そうか~現実なんてこんなもんだよな……」

 佐々木はすっかり異世界に失望したらしい。
 しかし本番はここらだ。

「じゃあ日も暮れてきたし、泊まるところへ案内するよ」
「あ、うん分かった」

 俺はそう言いいながら宿屋通りを過ぎ、自宅を過ぎ、町の入り口までやってきた。

「ねえ、どこに向かってるの??!」
「佐々木くんが冒険をしたがってるって聞いたからね」

 俺は門の外を指してほほ笑んだ。

「外だよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...