地方ダンジョンは破綻しています~職業選択ミスって商人になったけど、異世界と交流できる優秀職だったのでファンタジー化した現代も楽勝です~

すー

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第2章~ダンジョン時代と勇者パーティー~

第20話:可笑しなダンジョン

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「動画配信一緒にやりません? 絶対バズりますよ」

 助けた男、鮫島《さめじま》大五郎《だいごろう》はマルトエスとミクロを横目で見ながら言った。

 蟹男に有名になりたいような強い承認欲求はないし、金にも困っていないから配信者をやる必要はない。

「そうっすか、残念! あ、見てください」

 大して残念そうでもなく、彼はそう言って指さした。

「あれはクリスタル……?」

 ここは駅前商店街、美味い飲食店が多く立ち並んでいて蟹男も以前はよく遊びに来ていた。 しかし今となっては変わり果てた光景となっている。

 家ほど巨大な虹色のクリスタルが駅前に突き立っている。

「はい、虹色ダンジョンです」
「虹色……?」
「もしかしてダンジョンのことあまり知りません?」
「うん、行くつもりなかったし」
「えぇ……」

 今どきはダンジョンのことは知らないと驚かれるような常識となっているらしい。

ーーダンジョンはクリスタルに触れることによって入ることができる。

ーークリスタルの色と大きさは様々であり、

ーー大きければ大きいほどダンジョンの階層は深く、下に行くほどモンスターは凶悪になっていく。

ーーそして色はそのダンジョンの特性を表している。

「へえ、じゃあ虹色ダンジョンはすっごくレアだったり?」
「超レアっす。 ただ」
「ただ……?」
「めちゃくちゃ不人気! ハズレダンジョンとも呼ばれてます」

 虹色はかなり希少であり、見た目の派手さもあって当初は冒険者たちが躍起になって攻略しようとしたらしい。

 しかしそこで得られたアイテムが、

「牛丼だったそうです」
「ぎゅう??! は……? モンスターと戦ってそんなの割に合わなくないか?」
「はい、だから不人気なんです。 虹色ダンジョンから産出されるアイテムは、日本に元々あった食事や物だったりだったんですよ」

 ダンジョンはまるでゲームのように、モンスターを倒すとドロップアイテムを入手できる。 宝箱のようなものもあると、蟹男はどこかの記事で読んだ。

 冒険者は依頼を受けてモンスタと戦ったり、ダンジョンで手に入れたアイテムを売却して生計を立ている。

 蟹男のように生きるために仕方なくモンスターと戦うならまだしも、冒険者という仕事でモンスターと戦う人の対価としては釣り合っていない。 冒険者は命がけなのだから。 彼らがハズレ認定するのも理解できる。

 しかしマルトエスは異世界の、召喚契約延長を申し出るほど日本の文化に興味をもっている。

「…………」

 マルトエスが潤んだ瞳で蟹男を見つめる。

「ダンジョンって危険だよな?」

 ダンジョンに行きたがっているマルトエスを説得する材料が欲しくて、蟹男は鮫島に尋ねた。 しかし彼は笑って親指を立てる。

「俺っち配信者やってますけど、本業はダンジョン探索なんで任せてください!」
「そっか……そりゃ、いいや」

 この半年、安定した生活に満足していた蟹男はミクロにどれだけねだられようと首を縦に振らなかった。

 ダンジョンを攻略して得られる賞賛に興味はない。

 現状、特段困ったことも無い。

 強くなりたいとか、見たことのない景色を見たいとか、蟹男はそんな欲求もない。

 ただ蟹男は普段わがままを言わないマルトエスのおねだりに、弱かった。

「…………分かったよ。 ちょっとだけ寄って行こう」
「ありがとうございます、主様」
「案内頼んでいい?」
「もちろんっす! 命の借りは命で返すっすよ!」

 そうして蟹男は半年経ってようやく、ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。





「なんだここ。 電車……?」

 景色が変わると、そこはまるで飲食店の内装のような場所であった。

「そうっす。 虹色ダンジョンはその土地の記憶を再現します。 故に手に入るアイテムが見知ったものなんすけど」

 窓の外には色だけパステル調に変わった、見覚えのある街並みが流れていく。

「ダンジョンって洞窟みたいなのを想像してたよ」
「大抵は山河さんの想像通りっすよ。 虹色だけはとくしゅなんす、良くも悪くも」

 マルトエスとミクロが座席に膝を立てて、景色を眺めている光景が微笑ましい。 しかしそうのんびりしていられないようだ。

 車両連結部の扉が開き、ゴブリンが三体ぞろぞろと現れた。

「ん……?」

 今となっては蟹男にとって見慣れたモンスターであるはずだ。

 しかし何かが可笑しい。 蟹男がよくよく目を凝らしてみると、ゴブリンの額にそれぞれ文字が書いてある。

「ラーメン?ぎょうざ?炒飯?なんでそんな文字書いてあるんだ……まるでメニューのような」
「あれは通称セットゴブリンと呼ばれてるっす。 特に特殊な能力はない、至って普通のゴブリンす」
「まさか」
「ただドロップが額に書かれた物がドロップします。 ちなみに一体の場合は単品ゴブリンっす」

 もしもダンジョンの運営者がいるのなら、ふざけているのだろうかと疑ってしまうバカらしいモンスターに、蟹男は一瞬戦意を削がれるが、あの暴力的で懐かしい味と匂いを思い出し叫んだ。

「ミクロ! 戦闘だ!」
「分かったー!」
「僕たちも援護するっす」

  蟹男のダンジョン攻略は生きるためでも、稼ぐためでもなく、食欲によって火ぶたを切られたのだった。





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