三大ゾンビ 地上最大の決戦

島倉大大主

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4:三大より抜粋・六月二十一日 前

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〇六月二十一日

 日が変わり、二十一日。当初はこの時点で誘導は終了するはずであった。

 元自衛隊関係者D。以下『D』
「とにかく数が多かったんだよなあ!
 そこらの路地までぎゅうぎゅうで、呻き声や酷い臭いで吐く奴が続出しちゃってね、もうどっちがゾンビか判らない感じで(笑)。あれですよ、映画の撮影でライト当てすぎると食べ物が腐っちゃうのと同じで、灯光器とかの熱でゾンビの腐るのが進行した感じかな? 
 で、バリケードの後ろとか、フェンスの上で銃を構えている連中が、いきなり暴れ出して、おいおい! って(笑い)
 空気感染するなんて聞いてないぞ! ってね。
 で、銃を構えて――勿論弾は入ってたんだけど――暴れてる隊員囲んでライト当ててみたら、ざーっ! てね(笑)
 ああ、ゴキブリね。あと、ハエとか? 臭いに釣られて集まってきやがったんだなあ」
(ゴキブリとかハエですか? どこから――)
 D
「ハエはゾンビにでもくっ付いてきたんじゃないの? ゴキはマンホールからぞろぞろ出て来てたよ。ほら、あの日暑かったからさ、俺達の後ろで臭い対策として送風機回してたんだよ。だから涼しい所に集まってきちゃったんだね、はは!」
(それで、誘導の方は終了しなかったんですね)
 D
「まあね。ともかく数が多すぎて終わらないんだよ。
 で、このままじゃあ駄目だってんで、Y川の方にあるバリケードの終わりをさ、延長せざるを得なかったわけよ。最初は二キロくらいの余裕があったんだよね。でも、明け方、昼とどんどんギリギリまで下がらなきゃならなくてね。
 まあ、なんとかバリケードで群れのケツを塞いだ時は、みんな膝から崩れ落ちてたね」
(その……本当に全部のゾンビを封じ込められたんですか?)
 D
「(肩を竦めて)まあ、多少の取りこぼしはあったかもしれないね。でも、限界まで入れたね。疑うの?」
(いえ。大変失礼しました。つまり、その時点から『封じ込め作戦』の開始ですね)
 D
「はは! 誘導から作戦なんじゃないかと思うんだけどね。二十一日の正午ぐらいだったな。で、監視が始まったけど、ホッとしてる奴は一人もいなかったんだけどね」
(それは何故でしょうか?)
 D
「簡単だね。そっから先が何も決まってないんだよ。上からなーんにもこない。俺たちゃ、幹線道路を見上げたり、見下ろしたりしてるだけ。
 そしたら、まあ色々問題が起きるわけだよ」

(どういう問題でしょうか?)
 D
「またまた~(笑)。だってネットの人はみんな知ってるでしょ? 俺に言わせる気ぃ?(笑) 
 ん~……まずはアレだな、配信命の連中がね、群がってきた」
(動画配信者ですか?)
 D
「動画だけじゃないけどね。陸橋の上で自撮りしてるJKもいたぜ。どっから入った! って大騒ぎになって、八つ当たりに近いあれで色んな人間がぶん殴られていたよ。
 ドローンも飛び始めてさ、拡声器で警告したら、そっちにゾンビが集まって、壁――風だか音だかを防ぐ奴がミシミシ言いだしやがって、慌てて補強だね。まあ、色々足りなくて近くのホームセンターから買えるだけ買って、板やら鉄板やらガンガンにくっつけてさ、これ、後で問題になるぞってね?
 で、指揮車が下の一般道を指示と巡回を兼ねて、ずっと走ってんだけど、それにはねられた奴もいた。幸い軽症だったけど、あの状況で物陰から突然飛び出す向こうが悪いと俺は思うけどねえ」
(周囲に非常線は張ってなかったんですか?)
 D
「おいおい! さっきから失礼だな! (笑いながら)俺達をあんまり無能扱いするなよ? そんなもの三重四重に張ってたさ!
 でも連中はすり抜けてくるわけだ。民家の中を通ったり、まあ――手引きした奴もいたとは思うけどね、ともかくうじゃうじゃいたな。千人……はオーバーじゃないよな?(後ろに控えてる男性に笑いかける)」

 D氏と一緒に来た自衛隊員F。以下『F』
「まあ……下手すれば、もっといたかもしれませんね。捕まえ――保護した人達は近くの有料駐車場に一端収容しましたが、七つか八つは満杯になりましたから」
 D
「勿論、連中を立たせた状態で、満杯だぜ? いや、見張り自体が少ないから次から次へと逃げてくんだけどね。まあ、時間が経つにつれて、もう構っちゃいられなかったんだな」
(それは何故ですか?)
 D
「気温が上がってきて、更に臭いがきつくなってきた。
 俺たちはいいんだよ? マスク持参だったから。でも連中はマスク持ってきてない奴が多いからさ、バタバタ倒れるんだよ。後は逃げないって決めた住人も、気分が悪くなって病院に搬送しなきゃならんかった。マンションの窓を開けてスマホ構えてた奴が、そのまま気絶して下に落ちて来た時はビビったよ!(笑)」
 F
「……あれは確かに驚きました。植え込みに落ちたので命に別状は無かったんですが……搬送途中で増援に絡まれて危ないところでしたけど――」
(増援? なんですか、それは?)
 D
「(ニヤニヤ笑いながら)何だと思う?」
(……デモ隊ですか?)
 D
「はははははっ! まあ、そういう連中だな。二十日ぐらいからウロウロしてたらしいが、ようやく結集し終わったんで、強気に出て来たわけだよ。
 『○○○は帰れ!』『○○の横暴を許すな!』『○○○から自由を取り戻せ!』って横断幕を掲げてさ、でかい音楽とでかい声でわあわあやるわけだ。
 しかも『人権無視』とか『人権蹂躙』とか書いてある旗を持ってる奴らまでいる。
 『感染者に人権を! 我々はお前たちの横暴を許さない!』云々かんぬん……ぶっちゃけ、ムカついたね。○○○○○○○○やろうかと思ったよ」
 F
「ちょ、ちょっと! あ、いや、今のは――」
 D
「いいんだよ、引退した年寄りが飲み屋で愚痴ってるだけなんだから。はは! 睨むなって……しゃーねえな……今のヤバい所、伏せ字にしといてね? 
 ったく、心配性だねえ。大体、抗議しようってガッツのある奴はいないっての」
(……それは何故でしょうか?)
 D
「いや、俺に言わせりゃ、『封じ込め』の失敗は連中の所為だからだな。あれだけでかい音たてて、がなってりゃあゾンビが寄ってくる。だから――お前、話すか?」
 F
「……デモ隊が大きな音を立てたことにより、ゾンビが道路の片側に殺到しました。防音壁が長距離にわたってたわむのを目撃しましたが、なんとか音を止めてもらいました」
(……はあ?)
 D
「はっはっは……いや正確に言うと、連中ビビって騒ぐのをやめたんだよ……『一時的』にね」
(では、また騒ぎ出したと?)
「まあな。最後の最後にやらかしやがったんだ。
 あの時点では、まずは壁のダメージが問題だった。長持ちしないぞこれは、って話になってね、上にせっついた。
 燃やすのも吹っ飛ばすのも駄目。だから『撃たせろ』ってね。」
 F
「(目を瞑って天井を仰ぐ)…………それは極一部の隊員が独り言のレベルで呟いた言葉です!」
 D
「(ニヤニヤしながら)ま、そういうことにしとこうか? 
 で、まあバタバタしてるうちに、夜中になって、またデモ隊が騒ぎ始めて、しかも埼玉方面から増援が更にきやがって――ボン! 全部終わりさ。連中、ネットで俺達の作戦が悪いって言ってんだろ? おもしれえよなあ!」
(……成程)
 D
「(肩を竦めて)さて! 他に何か聞きたいかい?」
(いえ、ありがとうございました)

 これが最後の綻びだった。
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