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トパーズの憂鬱
トパーズの憂鬱17
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私は家に戻ると、すぐに手を洗い、白い手袋をした。
ケースを金庫から出し、ケースからトパーズのネックレスを出した。
一息をつき、トパーズのネックレスを触る。ゆっくりと見えてきた。
美砂子が和義を文芽に紹介している場面だった。どこかのファミレスだろうか。
若いお客さんで賑わっている。付き合い始めて間もないころのようだ。
文芽は和義を見る。その目は少しだけ怖い。美砂子が言う。
「紹介、遅くなってごめん。一週間くらい前から付き合ってる彼で神坂和義さん」
「神坂和義です!」
和義は文芽に若干睨まれ、落ち着きがない。文芽は笑う。
「睨んですいません。いや、美砂子が変な奴に二股掛けられてたからね。私は美砂子の親友の戸松文芽です」
文芽は丁寧に挨拶をした。
名字が変わっていない。もしかしたら、文芽は結婚せずに、シングルマザーとして由利亜を育てのだろうか。
「でも、良かった。真面目な人っぽくて」
文芽は安心した表情を浮かべる。美砂子は文芽に和義が認められたと思い、嬉しそうにした。
「ありがとう、文芽」
「一時はどうなるかと。でも、美砂子を支えてくれてありがとう」
文芽は和義に頭を下げる。和義は慌てた。
「いや、その。こちらこそですよ。実は俺も美砂子さんと出会う前に振られてて。付き合ってた人じゃなくて、ずっと片想いで」
和義は少しだけ恥ずかしそうに言った。文芽は微笑む。
「じゃあ、神様が引き合わせてくれたんだね」
文芽は二人を見て言った。
「そうかもね」
美砂子は嬉しそうだった。三人を取り巻く空気は和やかになっていった。
特に大きな事件もなく、平凡に時間が過ぎていく。
本来ならこれが普通だ。大きな事件が起きて、大変なことになる。
私はこれまで、何かの事件に巻き込まれたものを見すぎていた。
だからこそ、今見えている思い出に安心した。
けれど、それはつかの間の瞬間だった。私の願いは最初から届かない。
思い出は容赦なく切り替わった。
ゆっくりと切り替わった場面は、美砂子が産婦人科から重い表情で出てくる。
お腹を触っていた。
年月は和義と付き合い始めて、まもない2001年の2月だった。
由利亜を妊娠したのだろう。今妊娠しているとしたら、父親は?
該当するのは、叶井遊作。私は落胆した。
あの最低な男が父親の可能性が浮上している。
まだ確定ではない。もし、遊作が父親なら、美砂子はどうするのか。
私はただ行く末を見つめるしか出来ない。
美砂子は折り畳み式携帯を取り出すと、文芽に電話を架ける。
数回の呼び出しで文芽が出た。
【どうしたの?】
「文芽?声が聞きたくなってさ」
美砂子は聞こえてきた文芽の声に安心した。文芽はすぐに美砂子の異変に気付く。
【どうしたの?】
「どうしたの?ってバレたか」
【解るよ。何か声色でね】
文芽は優しく美砂子に言った。
「うーん。実はね」
美砂子は文芽に産婦人科に行ったことを話し始めた。
産婦人科で【妊娠3ヶ月】だと診断されたらしい。和義と付き合い始めたのは、2001年の1月。
和義が父親じゃないと判明した。
文芽はその話を聞いて、嫌な気分になっていた。怒りが見えた。
【前の彼氏は知ってるの?】
「知らないと思う」
美砂子もショックが大きかったのか、意気消沈している。
【そっか。とりあえず、これはおめでとうだね】
「うん。でも、これからどうしよう」
【どうするの?】
文芽は心配していた。美砂子は少しだけ沈黙する。
美砂子は息を吸って口を開く。
「産むよ」
美砂子の表情は清々しかった。文芽は美砂子の言葉に関心する。
【そう言うと思った】
文芽は美砂子の決意を支持した。美砂子は親友の文芽の言葉に嬉しくなった。
「ありがとう。ただ現状どうするか」
【和義くんには話したの?】
「まだだよ。多分、私から別れる」
美砂子は別れを決意したようだ。和義を巻き込みたくない。そう思ったようだ。
【別れるの?】
「だって。和義には未来があるわけだし」
【……ねぇ。その元彼に責任執ってもらうのは?結婚しなくとも認知してもらうというか。凄く嫌だと思うけど】
文芽は現実的に見ている。二十歳の女性がシングルマザーになるのは大変だ。
文芽は美砂子を思って言ったつもりだが、少し後悔した。
【そんなの出来ないよね。変なこと言ってごめん】
「そうだね。本来なら慰謝料貰いたいレベルだよね!本当に」
美砂子は涙声になってきていた。二股を掛けられて、嫌だったことを思い出したようだ。
私はその姿に胸が痛くなった。グズ男は何も責任を執らないで終わるのか。
やるせない気持ちになってきた。
美砂子は文芽との電話を終え、家に帰るようだ。
美砂子は立ち止まり、空を見上げ、ぼーっとした。
産む決意をしたものの、これから先をどうするのか。考えているようだ。
私は美砂子の家庭事情は解らない。美砂子の親は、美砂子を支えてくれるだろうか。
以前、和義に【大学に行かなかった理由】を言っていた。
その様子からすると、両親には頼れない気がした。
トパーズの憂鬱17(了)
ケースを金庫から出し、ケースからトパーズのネックレスを出した。
一息をつき、トパーズのネックレスを触る。ゆっくりと見えてきた。
美砂子が和義を文芽に紹介している場面だった。どこかのファミレスだろうか。
若いお客さんで賑わっている。付き合い始めて間もないころのようだ。
文芽は和義を見る。その目は少しだけ怖い。美砂子が言う。
「紹介、遅くなってごめん。一週間くらい前から付き合ってる彼で神坂和義さん」
「神坂和義です!」
和義は文芽に若干睨まれ、落ち着きがない。文芽は笑う。
「睨んですいません。いや、美砂子が変な奴に二股掛けられてたからね。私は美砂子の親友の戸松文芽です」
文芽は丁寧に挨拶をした。
名字が変わっていない。もしかしたら、文芽は結婚せずに、シングルマザーとして由利亜を育てのだろうか。
「でも、良かった。真面目な人っぽくて」
文芽は安心した表情を浮かべる。美砂子は文芽に和義が認められたと思い、嬉しそうにした。
「ありがとう、文芽」
「一時はどうなるかと。でも、美砂子を支えてくれてありがとう」
文芽は和義に頭を下げる。和義は慌てた。
「いや、その。こちらこそですよ。実は俺も美砂子さんと出会う前に振られてて。付き合ってた人じゃなくて、ずっと片想いで」
和義は少しだけ恥ずかしそうに言った。文芽は微笑む。
「じゃあ、神様が引き合わせてくれたんだね」
文芽は二人を見て言った。
「そうかもね」
美砂子は嬉しそうだった。三人を取り巻く空気は和やかになっていった。
特に大きな事件もなく、平凡に時間が過ぎていく。
本来ならこれが普通だ。大きな事件が起きて、大変なことになる。
私はこれまで、何かの事件に巻き込まれたものを見すぎていた。
だからこそ、今見えている思い出に安心した。
けれど、それはつかの間の瞬間だった。私の願いは最初から届かない。
思い出は容赦なく切り替わった。
ゆっくりと切り替わった場面は、美砂子が産婦人科から重い表情で出てくる。
お腹を触っていた。
年月は和義と付き合い始めて、まもない2001年の2月だった。
由利亜を妊娠したのだろう。今妊娠しているとしたら、父親は?
該当するのは、叶井遊作。私は落胆した。
あの最低な男が父親の可能性が浮上している。
まだ確定ではない。もし、遊作が父親なら、美砂子はどうするのか。
私はただ行く末を見つめるしか出来ない。
美砂子は折り畳み式携帯を取り出すと、文芽に電話を架ける。
数回の呼び出しで文芽が出た。
【どうしたの?】
「文芽?声が聞きたくなってさ」
美砂子は聞こえてきた文芽の声に安心した。文芽はすぐに美砂子の異変に気付く。
【どうしたの?】
「どうしたの?ってバレたか」
【解るよ。何か声色でね】
文芽は優しく美砂子に言った。
「うーん。実はね」
美砂子は文芽に産婦人科に行ったことを話し始めた。
産婦人科で【妊娠3ヶ月】だと診断されたらしい。和義と付き合い始めたのは、2001年の1月。
和義が父親じゃないと判明した。
文芽はその話を聞いて、嫌な気分になっていた。怒りが見えた。
【前の彼氏は知ってるの?】
「知らないと思う」
美砂子もショックが大きかったのか、意気消沈している。
【そっか。とりあえず、これはおめでとうだね】
「うん。でも、これからどうしよう」
【どうするの?】
文芽は心配していた。美砂子は少しだけ沈黙する。
美砂子は息を吸って口を開く。
「産むよ」
美砂子の表情は清々しかった。文芽は美砂子の言葉に関心する。
【そう言うと思った】
文芽は美砂子の決意を支持した。美砂子は親友の文芽の言葉に嬉しくなった。
「ありがとう。ただ現状どうするか」
【和義くんには話したの?】
「まだだよ。多分、私から別れる」
美砂子は別れを決意したようだ。和義を巻き込みたくない。そう思ったようだ。
【別れるの?】
「だって。和義には未来があるわけだし」
【……ねぇ。その元彼に責任執ってもらうのは?結婚しなくとも認知してもらうというか。凄く嫌だと思うけど】
文芽は現実的に見ている。二十歳の女性がシングルマザーになるのは大変だ。
文芽は美砂子を思って言ったつもりだが、少し後悔した。
【そんなの出来ないよね。変なこと言ってごめん】
「そうだね。本来なら慰謝料貰いたいレベルだよね!本当に」
美砂子は涙声になってきていた。二股を掛けられて、嫌だったことを思い出したようだ。
私はその姿に胸が痛くなった。グズ男は何も責任を執らないで終わるのか。
やるせない気持ちになってきた。
美砂子は文芽との電話を終え、家に帰るようだ。
美砂子は立ち止まり、空を見上げ、ぼーっとした。
産む決意をしたものの、これから先をどうするのか。考えているようだ。
私は美砂子の家庭事情は解らない。美砂子の親は、美砂子を支えてくれるだろうか。
以前、和義に【大学に行かなかった理由】を言っていた。
その様子からすると、両親には頼れない気がした。
トパーズの憂鬱17(了)
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