プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙2

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 私は水山が描いてくれた私の似顔絵を机に置く。
 水山が言う。

「川本は将来の夢、あるか?」
「夢ですか。考えたこともないです」

  私にはそれを考える余裕がなかった。
  黙り混んでいると、水山が言う。

「今は無くても、これから先、見つけたら早々には答えを出さないでほしい」

  私は水山を見つめた。

 水山の言っていることは、実体験からなのだろう。夢を追うのはリスクが伴う。

「解りました。先生」

  私は水山に向かって頷いた。水山は嬉しそうだった。

「川本はてっきり俺を嫌ってるかと思ったよ」
「いいえ。単に人が苦手なので」
「そうか。苦手か」
「はい」
「苦手を克服するのは難しいが、何かあったらいつでも相談乗るよ」

 水山は明るく言った。水山の明るさに少しだけ、眩しく感じた。
  きっと、水山には裏表がないのだろう。 
  直感的にそう思えた。

 私は視線を感じる。どうやら、私と水山がやり取りしているのを女子生徒が見ているらしい。
 なんとなく、面倒なことに成らなければいい。

  そう思ったが、私の願いは通じなかった。

  その日、家に帰ると、母親の由希子ゆきこが嬉しそうに私に話しかけてきた。

「リカコ、あんた友達出来たんだね!小学生以来じゃない?」
「友達?」
「何とぼけているの?同じクラスのなみ りさんから電話があったよ」

 母親は嬉しそうにした。
  なみは、クラスメイトだ。間違いはない。ただ話したこともない。
  クラスメイトであり、クラスを仕切っている生徒だ。クラスの中でも可愛い部類に入る。
 なぜ、その生徒が私に電話を寄越したのだろうか。
  おおよそ見当がつくのは、水山の関係だろう。

「江波さんね。解った。電話するよ」

  私は連絡網を確認し、江波に電話を架ける 。
 親しくないただのクラスメイトに電話を架けるのは、気が引ける。


「江波さんのご自宅ですか?クラスメイトの川本リカコです」

  私は江波の自宅に電話を架けた。出たのは、江波梨々香だった。

「川本さん?私!電話ありがとう」
「江波さん、どうしたの?」

 私は江波とほとんど、喋ったことがない。
 急に電話を架けてきたのは水山のことだろうか。

「私、全然、川本さんと話したことなかったからね」
「そうですね」

 私は何を言えばいいか、解らなかった。

「今日、先生と絵描いてたよね?」

 江波の目的は、やはり水山のことだったようだ。私は隠さず言う。

「うん。何か先生が気を遣ってくれてね。絵を描いてくれた」
「そうなんだ。へー」
「何か先生は、漫画家目指していたこともあるらしい」
「そうなんだ!知らなかったー!教えてくれて、ありがとう」

 江波は明るい声で言った。
 江波は余程、水山が好きなのだろう。水山に加奈子かなこという彼女がいることは隠しておこうと思った。

「うん。じゃあ、またね」
「あの、もし、何か先生のこと知ってたら教えてね!」
「いいけど、私は多分、先生とはあまり話さないと思う」
「えー。どうして?」
「いやぁ、何となく」

 説明する気はなかった。
 言ったところで、面倒になるからだ。

「そっかぁ。まあ、川本さんにこれまで何があったか解らない。けど、水山先生は悪い先生じゃないと思うよ」

 私は水山の性格を知らない。
 けれど、【物に触れると過去が見える】のは他の人の嫌なものを見るはめになる。それを避けたかった。

「うん。ありがとう」

 私は電話を一方的に切った。
 私は電話機を見つめた。

 江波は悪い人じゃないと思う。
 けれど、関わるのは止めようと思った。

 それから次の日、水山は私を気に掛けた。朝の時間、校門は交代制で先生が見守る。
 その日は水山だった。

 朝の校門で私を見つけると、挨拶をしてきた。

「おはよう。川本」
「おはようございます。先生」

 私は早口で水山を通りすぎる。
 他の生徒は水山の前で立ち止まり、しっかり挨拶をしていた。
 後ろで私のことを言っている声が聞こえてくる。

「何で川本なんか気にかけているんだろうね」
「さぁ。美術のとき、先生に描いてもらってたよね」
「ずるいよね」

  勝手に嫉妬されても困る。私は単純にそう思った。とにかく何も反応しないのが一番いい。

 足早に教室に向かう。自分の席を確認すると、一目散に座る。
  辺りを見ると、今度は江波が来た。

「ねぇ、おはよう!」
「え!あ、おはよう」

  江波が私に話しかけたことで皆が驚いている。

「昨日はありがとうね」
「別に何もしてないし」
「先生のこと、知れたからさ」
「そうなの」

 私は目を合わさずに江波に向かって言った。江波は私の顔を覗《のぞ》き込む。

「何?」
「川本さんって結構可愛いね」
「え?」
 
 突然の言葉に私は動揺した。江波は笑うと、鞄から何かを取り出す。それは何かの包み箱だった。

「これ、あげる」
「え?いいよ」
「いいから!」
「あ、ありがとう」

  私は拒否をするのも酷いと思い、受け取った。

アメジストの涙2 了
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