漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき

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第4話 奴隷商人

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昼間は子供たちの声で活気ある孤児院も、子供たちが寝れば静かなものだった。
孤児院の一室でゼノアは、シリルに今回の騒動について説明していた。

シリルが怒りを露《あら》わにした。

「あの商人は奴隷商で、ミミは奴隷にされそうだったって事?」
「たぶん」
「許せない! 殺そう! 殺して……いいでしょう?」

ゼノアは呆れた顔になってシリルを諫《いさ》めた。

「いつも、いきなり人を殺してはダメって、言ってるでしょう」

ゼノアも怒りを感じていたが、押し殺して平静を装い、話を続けた。

「明日商人を追って王都に出立するわ。奴隷売買の証拠を手に入れて断罪するの」
「そんな面倒なことをしなくても……」
「殺すのは最後の手段よ。ただ殺すのなら、魔物と変わらないわ」

魔物と変わらないと言われ、シリルはショックを受けた。
シリルにとって魔物は殺すべき悪だったからだ。

「わかったよ。で、ボクは何をすればいいの?」
「ここでミミたちを守って。でも殺しはダメだからね」
「はーい」

シリルも怒りを抑えて、孤児院はようやく本当の静けさを取り戻した。

翌朝早く、ゼノアは王都に向けて出立した。
休みなく飛行していけば6日ほどで着く予定だ。


その頃、奴隷商人は辺境伯領の領都に足を踏み入れていた。

彼は怒りに燃えていた。
許すことなど到底できない。
どうにかして仕返しをしなければ、心の底に渦巻く怒りは収まらない。
しかし、相手は銀等級冒険者を軽くあしらう強者だ。
武力で挑むなど、無謀に等しいことを理解していた。

そこで彼は別の手段を思いついた。
権力で圧力をかけて相手を屈服させるのだ。
奴隷商人は教会上層部との繋がりを利用し、教会と孤児院を根こそぎ取り潰そうと画策した。

幸い、領都の教会支部の司祭ポリナルドとは以前から懇意にしていた。
すぐに相談を持ちかけたが、司祭の反応は予想通り厳しかった。

司祭ポリナルドは腕を組み、渋い表情を浮かべた。

 「教会を潰すことはできない……が、新しい教会を建てる名目でなら、孤児院ごと壊すことは可能だ」

彼は低い声で提案した。

「その際にシスターや子供たちは、別々の場所に移すことができるだろう」

その言葉のあと、司祭の顔には薄汚い笑みが広がった。
 
「ただ、手間がかかる。それ相応の“協力”が必要だな」

袖の下を要求されていることは明白だった。
しかし、奴隷商人にとってこれはもはや金銭の問題ではなかった。
面子の問題だったのだ。
彼は司祭の要求を飲み、正式な教会勅命書を手に入れた。

司祭はさらにこう付け加えた。

「取り壊しの際、その女が邪魔しに来るだろう。辺境伯に護衛騎士を頼んでみるのがいい。そうすれば安全だ。もし反抗するようなら、反逆罪だ。騎士団が動くだろうから、心配はいらんよ」

奴隷商人は司祭とともに辺境伯を訪れ、騎士50名を護衛に付けてもらうことができた。


ゼノアは王都に到着すると、まっすぐ奴隷商人の屋敷へ向かった。
屋敷の上空から見下ろした。
表向きは王家御用達の大商人だった。
目の前に広がる壮大な屋敷には、商館や倉庫が併設され、その豪華さが彼女の不快感をあおった。

「この屋敷を手に入れるため、どれだけの人々が犠牲になったのか……。国の上層部と繋がり、裏で奴隷売買という汚れた仕事を引き受けてきたのね」

知らず知らずのうちにゼノアの唇は固く結ばれていた。

「政治には関わらないことにしていたけど、今回は仕方がない……奴隷商人は潰さないと……」

彼女はそうつぶくと意を決した。

ゼノアはそのまま姿と気配を消し、屋敷の中へ忍び込んだ。
彼女の目的はただ一つ。奴隷売買に関する書類を手に入れることだ。

商人本人は辺境伯領の愛人の元にいるらしいが、重要な書類の保管場所を知っているのは執事長だけかもしれない――ゼノアは執事長の姿を求め、さらに深く屋敷内を探索していった。

やがて、執事長を見つけ、彼が一人になる瞬間を捉えた。
ゼノアは姿を現し、静かに執事長の前に現れた。
彼女の金色の瞳が冷たく光る。
『魅了』が発動すると、執事長の瞳は虚ろになり、ゼノアの言葉に無意識に従って動き始めた。

「奴隷売買の書類がある場所まで案内して」

その声は、静かでありながらも圧倒的な力を持っていた。
執事長は無表情でうなずき、ゼノアを地下室の扉へと導いた。

執事長は地下室の扉を鍵で開け、中へと足を踏み入れた。
ゼノアはその後を静かに追い、ずらりと並ぶ帳簿を見つめた。

「一番古い帳簿と最近1年間の帳簿を出してちょうだい」

執事長は迷うことなくさらに奥の部屋へと進んだ。
幾重もの鍵で開かれる扉の開く音が、暗闇に響き渡った。

そして執事長が手にしたのは、新しい帳簿と埃を被った古い帳簿だった。
ゼノアは帳簿を受け取ると、執事長に命じた。

「私が出た後、全ての部屋に鍵をかけ、自分の部屋に戻りなさい。そして今までのことを忘れなさい」

執事長が再び無言で頷くのを確認すると、ゼノアはすっとその場を立ち去った。
姿と気配を完全に消し去り、影のように屋敷を抜け出した。
外に出る頃には、執事長はすでに自室で我に返っていた。
だが、その間の記憶はすでに消え失せていた。
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