漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき

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第43話 人攫い

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「黒と金の風」はダンジョン3階を進んでいた。
今回からラージボア2匹と戦うことになっていた。

シリルが2匹のラージボアを釣ってくると、メルは水壁を二重に展開した。

ラージボアは2匹とも同時に水壁にぶつかり勢いが削がれた。
2匹の動きをよく見て回避し、すかさず男の子たちが剣でラージボアの脚を切りつけた。
ラージボアは一端離れたが、また襲いかかった。
2方向からくるラージボアに、メルがさらに二重水壁を展開した。
これを繰り返して1匹が倒れると、男の子たちが一斉に急所の首を狙って切りつけた。
メルが叫んだ。

「次が来るわ!」

男の子たちは切りつけるのを中断して、向かってくるラージボアに相対した。
先ほどと同様に回避し、倒れるまで脚に攻撃を集中した。
2匹目も倒れると、1匹目をダンが2匹目をアルバとガダルが急所の首を切りつけて、ついに2匹を討伐した。

四人は勝鬨かちどきを上げた!

さらに2匹のラージボアと戦い、その次は3匹のラージボアに挑戦した。
さすがに一度に3匹は手こずって時間がかかったが、怪我もなく討伐できた。

「ちょっと休ませて」

メルが疲れてしゃがみ込んだので、休憩を取ることにした。
ゼノアはメルの頭を撫でて褒めた。

「よくやったわ。これだけ連続して水壁を出せるのは大した物よ」
「はい。ゼノア姉さんのおかげです。ありがとうございます」

メルは褒められて泣きそうになった。
自分たちも褒めてもらいたく、その光景を男の子たちが羨ましそうに見ていてた。
シリルが、そんな男の子たち3人を抱きしめた。

「みんな上達したね。お姉ちゃん、嬉しい!」
「はい、ありがとうございます」
「もうボクがいなくても大丈夫そうだね」
「???」

男の子たちは、シリルに抱きつかれて顔を赤くして恥ずかしがったが、最後の言葉に首を傾けた。

「ゼノアお・ね・え・ちゃん。ちょっと遊んできてもいいでしょ?」

シリルはゼノアに甘ったるい声の調子でお願いし、ゼノアはため息をついた。

「仕方ないわね。今日中には帰ってくるのよ。喧嘩はダメよ。それと人殺しもよ」
「分かってるよ。じゃあ、いってきます!」

「人殺し……って」

ゼノアが何食わぬ顔で、とんでもない発言をしたので、四人は息をのんだ。

「あの子は暴走すると周りが見えなくって大変なの」

美少女エルフに抱きつかれて喜んでいた男の子3人の顔は青ざめていた。

シリルは3階から4階と駆け足で進んでいた。

グレイハウンドを蹴り殺して通り過ぎようとした時、妙な胸騒ぎと気配を感じた。
魔物ではない、罠でもない、おそらく人の悪意のようなものだった。
辺りを見廻したが、何も見当たらず、その気配はすぐに消えた。

「妙だな」

一抹の不安を覚えたシリルは引き返すことにした。

四人組が3匹のラージボアと戦っているところに、シリルが戻ってきた。
あまりに早い帰りにゼノアは訝しんだ。

「いったいどうしたの?」
「4階で、なんか妙な気配を感じてね。心配になって戻ってきたんだ」
「なら今日はこれで引き揚げましょう」

こういう時のシリルの勘は良く当たることを知っていたゼノアは、ダンジョンを出ることにした。


ゼノアは帰りに冒険者ギルドに寄って、受付嬢に尋ねた。

「最近ダンジョンで何か変わったことはないかしら?」
「特に報告はありませんけど」
「そう、ならいいわ。お邪魔してごめんなさいね」

そして四人組に告げた。

「明日ダンジョンはお休みにします」
「どうしてですか?」
「ダンジョンの安全を確認するため、シリルと二人で調べるの」
「何か問題でも起きたんですか?」
「それがはっきりしないから調べるの。問題なければ明後日から再開するから」
「わかりました」

翌日ゼノアとシリルは、ダンジョンの中を10階までくまなく走り回った。

「どう?何か感じた?」
「昨日のような気配は感じなかったよ」
「そう、なら戻りましょう」

シリルがゼノアの手を引いて、上目遣いで囁いた。

「ゼノアお・ね・え・ちゃん。遊んできたらダメ?」
「普段もそのくらい可愛いく振舞ってくれたらいいのに。喧嘩も人殺しもダメよ。」
「は~い、行ってきま~す」

最近シリルが大人しく暴走の危険はなさそうだったので、ゼノアは許可した。
翌朝、シリルは帰ってきた。

「何階層まで潜ったの?」
「40階まで」
「48階には行かなかったの?」

現在の攻略最深部は48階で止まっていた。

「攻略部隊と鉢合わせして問題を起こしたら不味いと思ってね」
「まあ!そこまで気が回るようになったなんて!シリルも成長したのね」
「えへへ、ボクもダンたちのお姉ちゃんだからね」

ゼノアはシリルの頭を撫でて褒めると、シリルも笑顔で喜んだ。
四人の子供たちがシリルの成長にも役立っていることに、彼女は内心驚いていた。



「黒と金の風」は、いつもと同じようにダンジョン3階に降りていった。
そこに、先に3階を偵察していたシリルが戻ってきた。

「姉ちゃん、問題ないよ」
「ならボア狩りを始めましょう」
「やったぁ! がんばるぞ!」

四人組は狩りの再開に胸を躍らせ、進んでいった。

「シリル、4階の様子を見てきてくれる?」
「分かったよ、姉ちゃん」
「私はボアを3体釣ってくるから、みんなはゆっくり進んでね」
「はぁい」

ゼノアとシリルが走り出し、四人組は通路を歩き出した。
その直後四人は後ろから急に襲われて気を失ってしまった。
そこには男がひとり立っていて、メルを担ぐと、急いで出口に向かった。

その時シリルが立ち止まり叫んだ。

「姉ちゃん、あの妙な気配がした。ダンたちの方向だ」
「急いで戻りましょう」

ゼノアたちは四人組のところに戻り、メルがいないことに慌てた。

「シリル、急いでメルを探して!」
「わかった」
「取りあえず三人の命が無事で良かったわ」

シリルは自分の勘に従ってメルを追った。
実際には風の大精霊が教えてくれていたのだが、契約していないシリルには、その囁きはただの勘に思えていたのだ。
メルを抱えた男は「隠遁のマント」を使って姿気配を消していたが、いきなり金髪のエルフが目の前に現れ、脚を払われて転倒してしまい驚愕した。

「バカな、『隠遁のマント』を見破れるはずはないのに……」

男は逃げようとしたが、脚を折られ、喉元に剣を突き付けられて観念した。

シリルに四人組を家に送り届けるように指示した後、ゼノアは男に「魅了」をかけて情報を引き出した。
その後、冒険者ギルドへ向かい、男を引き渡した。



冒険者ギルドのギルドマスターを前に、ゼノアは厳しい目つきで座っていた。
金等級「金の竜爪」のリーダーを片手で倒した漆黒の魔女に睨まれて、ギルドマスターは冷や汗を流していた。

「つまり人さらいですよね。警備隊に引き渡すのが筋では?」
「仰る通りですが、腑に落ちない点が多いので調べて欲しいのです」

男は10年間迷宮都市で人攫いをしていた。売った先も奴隷商人だったり、ただの商人だったり、他の国の貴族だったりと千差万別だった。
しかし優秀な子供だけを年に数人だけ狙って攫っていた。
何故その子を攫うのか理由は知らなかった。

そして最も不可解だったのが、その報酬だった。
非常に高額で、その金で優秀な人材を雇う方が合理的と思われた。
わざわざ犯罪まで犯して、高額で子供を攫う理由が分からなかったのだ。

「分かりました。手を尽くしてみますが、難しいと思いますよ」
「何故ですか?」
「あまり言いたくはないのですが、最近迷宮都市は内部がガタガタなんですよ」

ギルドマスターが事情を話したがらなかったので、深く追求するこは止めにした。
そして人攫いの件を深く調べるのは無理だと判断し、ゼノアは深くため息をついた。

「分かりました。可能な限りで良いのでお願いします」

そう言ってゼノアは部屋を出ていった。



ダルマリオ商会に戻ってくると、商会の人が慌てふためいていた。

「何かあったのですか?」
「会長の容態が急変したらしいのです」

ゼノアはすぐに会長の寝室に向かった。
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