漆黒の魔女と暴風のエルフ

あきとあき

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第55話 聖女と聖騎士団

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ゼノアたちが「鋼の獅子」を追ってダンジョンに入ってから、しばらくして教会総本山から派遣された先発隊が迷宮都市に到着した。

白銀色に輝くミスリルの鎧を身に纏い、ミスリルの槍と盾を持ち、白色のユニコーンに跨《またが》る聖騎士団の姿は、まさに聖なる守護者に相応しく威厳と気品に満ちていた。
それとは対照的に、黒に金色の刺繍を施された法衣を身に纏ったヴァンパイアハンターは、普通の聖職者とは異なる怪しげな雰囲気を放っていた。
そして普通の神官の中に神々しい気配を放っていた女性がいた。流れるような薄茶色の髪に金の瞳を持つ聖女である。

彼らが教会に降り立つと、大司教が歓迎した。

「お待ちしておりましたぞ。例のヴァンパイアはさっきダンジョンに入っていきました。今から追えば、すぐに追いつけるはず」


先発隊を案内しダンジョンの入口まで来た大司教は、傍に設置してある結界装置をいじり、入口の結界を解除した。

「結界は解除したので、入ってヴァンパイアを追ってください」

先発隊が全員入ると、大司教は修道士に魔石を渡した。

「私が入ったら、その魔石で装置を作動させ結界を張れ。よいな」
「分かりました。大司教様」

修道士は大司教がダンジョンに入ったのを確認すると、結界装置を作動させようとした。しかし背後から襲われて気絶した。
背後の男は魔石を奪い高らかに笑った。

「これで魔物を外に出すことができる。混乱に乗じて、たくさんの人間をいただくとするか」

その男は魔人ウラースに支配された冒険者だった。一足先にダンジョンを出て、結界を解除する方法を探すため、入口周囲の人間を支配していたところだった。




教会総本山の先発隊が4階に降りていくと、ヴァンパイアハンターの一人が聖騎士団団長に囁いた。

「ヴァンパイアの反応があります」
「聖騎士団戦闘準備! ハンターは捕獲の準備を!」

さらに進むと大司教がゼノアを指さして叫んだ。

「あの黒い女がヴァンパイアだ」

聖女が杖を掲げ唱えた。

「聖域!」

聖女を中心に周囲は金色の光に包まれた。同時に団長が号令をかけた。

「聖光玉と聖水玉を放て! 聖騎士団突撃! ハンターは結界の準備を!」

ゼノアめがけて投げ込まれた玉から、聖なる光が炸裂し、ゼノアたちは目が開けられないほどの眩しさに包まれた。
さらに聖水の雨が降り注ぐと、ゼノアの全身は焼けただれたようになった。

一方、帝国兵士の中の魔人ウラースは聖域の中で苦しんでいた。

「なんだ、これは。痛い、苦しい。力が抜けていく」

聖騎士団がゼノアたち一行を取り囲むと、シリルが怒りだした。

「てめら、何しやがる!」

シリルから暴風が衝撃波のように広がり聖騎士団は吹き飛ばされた。
次の瞬間、シリルは聖女の目の前に現れ、剣を突き付けていた。

ヒッと喉の奥から悲鳴にならない悲鳴を出すと、聖女は気絶し、聖域も消えた。

「シリル! やめなさい!」

ゼノアがシリルの肩を掴み睨んでいた。

「むやみに人を殺してはダメと、いつも言っているでしょ」
「でも、姉ちゃん……」

ゼノアは聖女を優しく抱き上げ、周りを見廻した。

「聖女様が人質に……なんたること」

大司教、聖騎士団、ハンターたちは、唖然とし何もできずにいた。

「話し合いをしませんか?」

ゼノアが笑顔で話しかけた。
重苦しい沈黙が総本山先発隊に広がった。
沈黙を破ったのは大司教だった。

「あのヴァンパイアを捕えろ。聖女様をお救いするのだ!」

辺りは緊張に包まれた。その時ダンジョンが大きく揺れた。
立っていられないほどの揺れに、誰もが驚いた。
ゼノアとシリルはダンジョンの奥深くから、とてつもない魔物の気配を感じた。

「姉ちゃん、これまずくない」
「まずいわね」

そして「鋼の獅子」のヴァレンツが高らかと笑った。

「ワハハ、ようやく来たか。我の勝ちだ!」

ゼノアは聖女を「金の木漏れ日」のブリオニーに引き渡した。

「今すぐ、外に逃げて下さい。ここは私とシリルでくい止めます」
「分かりました。シリル様、御武運を。逃げるぞ!」

ブリオニーは走り出すと、大声を出した。

「スタンピードだ! 魔物の大群が来るぞ! 逃げるんだ。大司教様も早く」

大司教と先発隊は何が起こっているのか分からずオロオロしていた。しかし聖女を抱え逃げていくブリオニーを見て、その後を追いかけだした。

聖騎士団の団長と団員が槍を構えゼノアを睨んでいた。ゼノアはため息をつき、聖女の方を指さした。

「聖女を守らなくて良いのですか?」

その言葉に団長は苦虫を嚙み潰したような顔をして、号令を発した。

「聖女様を取り返すのだ!」

聖騎士団が去っていくと、ゼノアはヴァレンツを睨みつけた。

「あなた何者?」
「姉ちゃん、よく分からないけど、あいつ何か妙だよ」
「ただの人間じゃないわね」

その時帝国軍兵士から黒い触手がヴァレンツに注ぎ込み、ヴァレンツは黒い人型の魔物に変わった。

「我は、魔人ウラース。お前たちも喰らってやるわ」
「魔人!? じっちゃんの仇!」
「シリル、待ちなさい!」

シリルにはゼノアの声は聞こえていなかった。魔人と聞いただけで暴走してしまった。
シリルが飛びかかるが、ウラースは大きく下がり、逃げていった。

「待ちやがれ!」

その時巨大な魔物の大群が押し寄せてきた。
ダンジョンの奥深くからウラースが引き連れてきた魔物たちだった。
ゼノアが魔物の大群のただ中に飛び込み、広範囲に威圧を放つと魔物の動きが止まった。
ウラースも押しつぶされたかのように地面に倒れ込んだ。ウラースは驚愕した。

「何だ、この力は。まるで動けん。かくなるうえは……」

ゼノアが魔物の大群を蹂躙し、シリルがウラースに切りかかったとき、前方から業火のごとき炎の噴射が襲ってきた。
彼女らはそれを回避したが、ヴァレンツは炎に巻き込まれてしまった。

「じっちゃんの仇が……!」
「しまった!」

ゼノアとシリルがヴァレンツに気を取られてた隙に、魔物の一団が二人を抜けて出口に向かってしまった。
ゼノアが追っていこうとした瞬間、強烈な咆哮が鳴り響き、その威圧にゼノアとシリルは動きが止まってしまった。
そして巨大な魔物が姿を現した。

「ドラゴン!」

ゼノアが呟き、シリルが目を見張った。
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