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第三章 クエスト開始の篇

57-2 クエストへの出発

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 作業が一段落して少し落ち着くと、ソラが何かに気づく。

ソラ「そうだ、明日雨かもしんない…」
ツグミ「そう、私の『天気』も反応してた…」
アイ「雨か…」

 雨と聞いてアイだけでなく、ナオやアユミもちょっと困ったという表情をする。

アカリ「ナニさんが、これから雨が増えるって言ってたね…」
モア「雨って何か関係ある?」
タクミ「気温が下がって寒くならないかな…」
ルカ「あの道に雨が降ったら、かなり大変だよ…」
アカリ「馬車も普通には進まないだろうね。」
ナオ「どこかで足止めもあるかもしんない…」

アイ「期限はなかったからそこは安心だけど…」
モア「足止めはやだなー…」
アユミ「仕方ないよ…これからは雨とか風とかで上手く進めないってこともありそうだね…」
ソラ「『天気』、しっかり確認しとくよ。」
アカリ「よろしくね!」
ソラ「まかせなさい!(笑)」
全員「(笑)」

 それぞれが武器や食べ物と飲み物の整理を終えると、アイが改めてアユミとナオに尋ねる。

アイ「今日は結局どれぐらい掛かったの?」
アユミ「う~んと、武器だけで80ゴールドぐらいだったと思う。
 だから、そば粉とか椅子とかそんなのも含めて、80ゴールドちょっとくらいで収まったよ…」

 そんなやり取りを聞いてアカリが驚く。

アカリ「一人あたま30から40ゴールドぐらいで収めようって言ってたでしょ?」
ナオ「確かにそうだけど、その時は武器一つがどれぐらいの値段するのか、全く分かってなかったからね…」
アイ「でも、一人8ゴールドぐらいでしょ?だいぶ安くで済んだんだよね…」
ルカ「安くで済むような武器を探してくれたってことかな?」
アユミ「私はそんな気がするけど…」

 みんなは午前中に会った、無愛想ぶあいそうで口の悪かった店のオヤジや優しかったおかみさんの顔を思い浮かべる。

ナオ「なんか色々なこと言ってたけど、店のおじさん、結構いい人だったね…」
ソラ「口が悪いのはやっぱかくしだよ。」
アカリ「確かに(笑)…」
アイ「で、お金は2人が出したんでしょ?まだお金ってあるの?」
アユミ「う~ん…実は私とナオの持ち合わせはもうあまりないの…」

 アイやアカリはそれを聞いてびっくりする。

アイ「ねえ、そんなこと、早く言ってよ…みんな、お金出してアユミとナオに渡しておこう…」
アカリ「ホントだ…」
タクミ「えーと、どれぐらい渡せばいいんだろう…」

 アユミとナオは顔を見合わせるが、その間に他のみんなは自分の持っているお金を取り出した。

ナオ「じゃあ、とりあえず一人30ゴールドずつ出してくれるかな…」
アカリ「それぐらいで大丈夫?」
ツグミ「全部渡していてもいいんじゃないの?」

 アユミが首を横に振る。

アユミ「私とナオしかお金を持ってなかったら、まさかの時にみんなが困るでしょ…
 食べ物とか飲み物もそうだけど、それぞれがちょっとずつ持ってる方がいいよ…」
ナオ「誤解しないでほしいけど、会計みたいなことをするのがイヤって言ってるわけじゃないから…
 ただ、何が起こるか分からないから、それでね…」

アイ「ごめんね…2人にばっかりやらせてるみたいで…」
ツグミ「ホントにそうだよ…私も手伝うから言ってね…」
アユミ「みんな、ありがとう…出来るだけみんなにも手伝ってもらうように声を掛けるから…」
アカリ「じゃあ、とにかく2人にお金を渡そう。」

 みんながお金を出し合って、アユミとナオに渡した。

アイ「じゃあ、もう一度必要なものを確認したらみんなで夕食の用意をしよう。」
ソラ「ここで働かなきゃね…」
モア「り(了解)!」
ナオ「じゃあいっぱい働いてもらおうかな(笑)…」
全員「(笑)」

 ナオの言葉で全員が立ち上がると、明日の準備や夕食の用意を始めた。



 アイたちが食事を終え、寝付いた頃から町に雨が降り出した。

 そして次の日の朝もまだ降り続いていた。
 全員が日の出前に起きて食事を取り、馬車酔いのための魔法を掛け合い、まだ暗いうちに厩舎きゅうしゃへと向かう。
 雨は本降りで、それぞれが着ているマントはすぐにぐっしょりになった。

 みんなが厩舎に着くと、雨など関係なしに何両かの馬車が出発の準備をしていて、もうたくさんの人が働いていた。
 アイたちはすみにいって、ここまで手に持っていた武器を急いでそれぞれのストレージにしまう。
 それからアイがなんとかいそがしそうにしている男を捕まえて尋ねる。

アイ「エブル行きの馬車に乗りたいんですが…」
男「エブル行きの馬車は一番奥のヤツだ…」

 男はそれだけ言うと建物の方へ走っていってしまった。
 アイは頭を下げると、みんなに一番奥の馬車だと伝える。
 教えられた馬車のところへ行くと、背の低い、少し目つきの悪い男が荷物を持った別の男と話している。

 荷物を積み終わったところで、アイたちはエブルへ行きたいことをその男に伝えた。
 男は一瞬アイたちをにらむように見渡すが、すぐに「ああ、乗りな」とだけ言う。
 みんなが頭を下げても一向に気にせず男は馬のところへ行ってしまった。

アイ「とにかく乗り込もう。」

 アイの言葉で全員が馬車に乗り込み、ほろおおわれた荷台の奥から座っていく。
 すると、しばらくしてさっきの男が御者の席に座って何も言わずに馬車を出発させた。

 馬車が村を出てからも雨は止むことなく、むしろ進んでいくにつれて強まっていく。
 風も強まってきて、それぞれが毛布を出してしっかりとくるまる。女の子の何人かは身体を寄せ合ってお互いを温めた。
 アユミとナオ、モアは交代でみんなに『ヒール』をかける。雨がひっきりなしに麻布の幌を叩いた。

 雨が強くなるにつれて道も悪くなり、昼前には何度も誰か数人が降りて、泥濘ぬかるみ水溜みずたまりを越すために馬車を押すようなことも増えていく。
 昼休憩の時も馬車から降りることはできず、皆馬車の中で少しのパンと飲み物を口にするだけだった。

 御者の男は悪路にアイたちの手伝いが必要な時以外にはほとんど何も言わずに馬車を進めていく。
 午後になっても雨足は変わらず、馬車は前後左右に大きく揺れながら進んだ。

 そんな中、二時間ほど経って馬車が突然止まった。
 アイたちがまた降りるのだろうと準備をすると、前から大きな声で罵声のようなものが響く。
 
 何人かが慌てて馬車の前から外をうかがうと、御者の男が馬の前に行って何か騒いでいるようだ。
 アイたちがどうしたものかとお互いの顔を見合わせていると、男が馬車の方へ戻ってきた。

御者の男「すまねぇが、全員降りて馬車の向きを変えるのを手伝ってくれ…」
アカリ「馬車の向きを変えるんですか?」
御者の男「ああ…そこの川が増水してとても橋を渡れねえ。
 引き返して、手前の村に行くしかねえ…」
アイ「わかりました…」

 全員が馬車から降りると、男の指示で馬車を180度反対向きへと変えることにする。
 雨の中、アイたちはジャッキも何もないなかでせまい道の上、馬車を少しずつ持ち上げ、回転させて向きを変えなければならなかった。

 男を含めて全員がずぶ濡れになり、泥だらけになりながら何とか馬車は向きを変え、元来た道を戻り始めた。
 アイたちが濡れた身体をお互いにタオルで拭いたりしている間に、馬車は通り越していた村へと到着した。

御者の男「今日はもう先には行けねえ。この村が泊まりだ。」

 男が馬車や馬をうまやに止めようとしている間に、アイたちは厩にいる人に宿屋の場所を教えてもらう。
 その宿屋は今までで一番小さく、古ぼけていたが、とにかく部屋は空いていた。
 アイたちは一階の炊事場すいじばのかまども二ヶ所、使わせてもらうことにする。

ソラ「ううう…寒いよ…」
アユミ「とにかくかまどで火を炊いて、飲み物を温めるね…」
ツグミ「私も手伝うよ…」
アカリ「このままだとみんな風邪引いちゃうよ…」

 それぞれが部屋でもう一度しっかりとそれぞれの身体をく。
 それから何人かが炊事場で飲み物を温め、二階の部屋で全員がその飲み物を口にして暖を取った。

モア「今日は大変だったー…」
ナオ「あとでみんなに『ケア』をかけるね…」
アイ「お願い…まだちょっと背中が寒いよ…」
ルカ「アイちゃん、大丈夫?」

 ルカがもう一枚毛布を出してアイに被せた。

アイ「ありがとう、ルカ…」
アユミ「ナニさんにも病気と怪我には十分に気をつけろって言われたからね…」
ソラ「でも、いつまで足止めになるんだろう…」
タクミ「なんか雨は止んできてるけど…」

 タクミは立ち上がって部屋の外へ出て、雨の様子を確かめる。

アイ「どう?」
タクミ「うん、もう大丈夫。雨は完全に止んでるよ…」
モア「よかったー…」
ソラ「じゃあ、明日は大丈夫だね。」
ナオ「いや、まだわかんないよ…」

 そう言ったナオの顔をみんなが見る。

ナオ「雨が止んでも川の水が引かないと、橋は渡れないんじゃないかな…
 それに増水って雨が止んでからも起こるから…」
ソラ「そうなんだ…」
ルカ「そう言ったら、台風の時とか雨が止んでも川に近づいちゃダメって言ってるもんね…」
アカリ「明日も足止めかなあ…」

 アカリがちょっとウンザリという表情をすると、何人かがうなずいた。

ルカ「ギルドで聞いた時はエブルまで二日とか言ってたけど…」
ソラ「これで最低一日は増えた感じだね…」
ナオ「道もだいぶ悪かったし、もう少しかかるかもしれない…」
アユミ「ゴブリン退治の時も、雨になるのかなぁ…」
モア「ずっと雨は絶対ヤダー…」

アイ「天候のことはどうしようもないよ…ただ、体調のこととかお互いに気をつけよう。」
アカリ「わかった。」
アユミ「とにかく夕食も何か温かいもの、出せるようにするね…」
ツグミ「夕食も手伝うから…」
アイ「みんなで手伝うよ。」

 アユミの言葉通り、夕食には焼いたソーセージや温めた飲み物が出る。
 雨と風の中を進んできた一日が終わり、みんなにとってやっとホッとできる時間になった。






*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

 2026年1月15日。
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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