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お泊まり。

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「私もちゃんと働いてるんですー。ちゃんと稼いでるんだから。」

「・・・そういえば一人暮らしの割りに立派なマンションに住んでるよな。収入いいの?」


そう聞くと、千冬は内緒事でもするかのように耳元で月収を教えてくれた。


「!!・・・まじで!?」

「『1人で生きていける』・・・でしょ?」

「だから見合いを断り続けられたのか・・・。」


若い女の子の収入とは思えないほどの金額。

マンションで一人暮らしできるのも納得がいった。


「男の人にはかなわないけどね。」

「まぁ・・・。俺と比べたら桁が違うからな。」

「やっぱり・・・。でも負けない(笑)」

「・・・競うところ間違ってるから(笑)」


笑いながらご飯屋さんに向かう俺たち。

どうしてもレバーを食べさせたかった俺は、さっき思い付いた焼き鳥屋に車を寄せた。

店の看板を見た瞬間、千冬の目が輝いて見えた。


「・・・焼き鳥!」

「そ。・・・好きなのか?」

「つくねが大好きー。」

「つくねもいいけど・・・レバーを1本食べること。いい?」


そう言うと千冬は喜んでオッケーしてくれた。


「食べる食べるっ。」

「あれ?レバー平気だっけ?」

「つくねと交互に食べたら問題ないよー。」

「なるほど・・・。」


のれんをくぐり、店の中に入った。

俺の言った通り、千冬はちゃんとレバーを食べて、大好物だというつくねもしっかり食べていく。


「おいしーっ。」

「美味いな。これでビールでも飲めたら最高なんだけど。」


そう言うと千冬は思ってもない言葉を俺に言った。


「・・・私、運転できるよ?」

「・・・え!?」

「仕事で車、運転してる。」

「へぇー・・。あぁ、でもいいよ。病院から電話があったら困るから。」

「あ、そっか。」


ぱくぱくと焼き鳥を口に放り込む千冬。

千冬も飲みたいかと思うけど、飲めない理由がある。


「千冬は・・・薬があるから飲めないんだろ?」

「うん。別に飲みたいとも思わないけど・・・。」


そう言って千冬はお茶を口に運んだ。


「ジュースなら大丈夫だけど?」

「わかってるよ(笑)。でもあんまりジュースも好きじゃなくて。」

「お茶よりは鉄分あるやつもあるんだけどな。」

「ふふ。」


美味しそうに焼き鳥を頬張る千冬。

お互いにお腹がいっぱいになったところで、俺たちは店を出ることにした。


「もー、食べれない。」

「『もう食べれない』って・・・串5本くらいだったじゃん・・。」


俺から見たら全然食べてるように見えなかった千冬。

それでも本人が腹いっぱいというのなら・・・満腹なのだろう。


「点滴でお腹いっぱい。」

「・・・・・まぁ、いいけど。」

「?」


点滴で満腹らしい千冬を車に乗せて、俺はマンションに向かい始めた。

隣で千冬が腹を少し擦ってる。


「そう言えば貧血は大丈夫なのか?」


前に検診があった日は、ナイトアクアリウムに行った日だった。

貧血を起こして倒れたことが記憶にある。


「え?大丈夫だよ?」

「ならいいけど・・・前は大変だったみたいだし。」


血液検査をして貧血状態でデートに来た千冬は倒れてしまい、しんどい思いをしていた。

貧血の回復は時間がかかるもので、きっと次の日くらいまでは引きずっただろう。

なのに千冬はけろっとした顔で答えたのだ。


「前は・・・違えていつもの倍取ったからね(笑)」

「・・そんな『間違い』、あっちゃダメなんだよ。ちゃんと徹底するように報告しとくから・・・。」


そう言うと、千冬は俺を見ながら言った。


「大丈夫。貧血は慣れてるし。・・・あんまり怒らないであげて?」


そう笑顔で言う千冬。

俺自身が医者だからか、できれば病に侵されてる人は全員治したい。

でも不可能な部分もある。

だからといって、倒れたりすることに慣れてしまう人生なんて・・・辛いに決まってる。


「我慢は・・・しなくていい。」

「え?」

「辛いときは俺に全部言えばいい。どんな話だって・・・聞いてあげることくらいはできる。」


ハンドルを持ってない手で、千冬の手を握る。


「代わってあげることはできないけど、側にいることはできる。・・・俺に甘えて・・?」

「---っ!」


運転してるから、千冬の表情は見えない。

前を向きながら返事を待ってると、千冬は俺の手に自分の手を重ねてきた。


「?」

「もう十分甘えさせてもらってるよ?」

「・・・ほんとか?」

「うん。・・・でも、一つお願い聞いてくれる?」

「なんでも聞いてあげるけど・・・なに?」


『なんでも聞いてあげる』とは言ったものの、『もう採血をしたくない』とか『毎日の薬を飲みたくない』って言われたらどうしようかとドキドキした。

でも、千冬の『お願い』は、俺の予想の斜め上をいくものだった。


「・・・・もっと・・一緒にいたい。」

「!!・・・・それって・・。」


握ってる千冬の手が微かに震えてる気がした。

勇気を出して言ってくれたに違いない。


「・・・いいよ。うちにおいで。」


千冬のマンションに向かって走らせていた車を、俺のマンションに向けて走らせ始めた。

千冬は俺の手を握ったまま、何も話さない。


「・・・千冬?」

「はっ・・はい・・っ。」

「そんな緊張しなくても・・・一緒に寝るだけ。な?」

「うん・・・。」

「千冬が嫌にならない限り、結婚するんだし・・・焦んなくていい。」

「結婚・・・。」


『お見合い』の主旨から考えたら『結婚』への流れが普通だ。

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