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(頭が・・・痛い・・・)


目が覚めてからどれくらいの時間が経ったのかはわからない。

止むことのない頭痛に、何も考えられない。


「たすけて・・・けいいちさ・・」


そう口にして、私は目を閉じたのだった。


そしてまた目を開けて頭痛に苦しみ、また目を閉じる。

目を開ける度に押し寄せる頭痛に目も開けれず、昼なのか夜のなのかもわからない。

痛みに気絶するようにして目を閉じるのを何度も何度も繰り返していく。


(私・・死ぬのかな・・・)


そう思ったある時、ふと痛みが和らいだことに気がついた。

目を開けて、ぼやける視界の中で部屋の天井が見えたのだ。


「ここ・・・どこ・・・・」


そう声に出すと、私の視界に藤沼さんが入って来たのだ。


「柚香さん・・・!気がつきました!?」

「ふじ・・ぬまさん・・・?」

「そうです!頭痛はどうですか?落ち着きました?」

「まだ・・・いたぃ・・・」

「そうですよね。お水飲みますか?」

「いらな・・ぃ・・・」


何もできそうにない自分の体。

とりあえず天井だけを見て、私は自分の記憶を手繰り寄せていた。


(私・・家を出てしばらく歩いたとき・・・誰かに口を塞がれたんだった・・・)


圭一さんに邪魔者扱いされるのが怖くて出た家。

あてもなくしばらく歩いたけど、知らない場所すぎて迷子同然だった。


(なんだか薄暗い場所を歩いたとき、圭一さんの名前が聞こえたんだ・・・)


『園田圭一を知ってるか』と言う言葉が聞こえ、振り返った時に布で口と鼻を塞がれたことを思い出した。

ほのかに甘い香りを認識したとき、意識が遠くなっていったのだ。


(でも家に帰ってきてる・・・藤沼さんがいる・・・)


意識が遠くなった状態でどうやって帰って来たのかを考えたとき、私の好きな声が聞こえてきた。


「藤沼、柚香の調子・・どうだ?」


圭一さんの声だった。

勝手に出て行って、きっと怒ってるに違いない。


「今、目を覚まされましたよ!少しですがお話もできそうです・・・!」


藤沼さんの言葉を聞いた圭一さんは私の視界に顔を出してきた。


「柚香・・・?頭痛、マシになった?」


そう聞いてきてくれた圭一さんは、悲しそうな顔をしていた。

今にも泣きそうな顔に、どうしてそんな表情をするのかがわからない。


「けいいち・・さ・・・」

「苦しい思いさせてごめん。助けてやれなくて・・・ごめんな・・・。」

「?」


何を言ってるのだろうと思ってると、圭一さんは私と目を合わせたまま話し始めた。


「柚香は宝永会の奴らに攫われるところだったんだよ。自分の意思で外に出たかはまた今度聞くけど、この家から離れたところで睡眠薬を嗅がされて、攫われるところだった。」


圭一さんの話では、私はその宝永会という人に『人質』として攫われるところだったらしい。

私をダシにして圭一さんの組を乗っ取ろうと考えていたようで、それを阻止してくれたのだとか。


「ごめ・・ん・・・」

「いや、柚香が謝る必要は無いよ。俺がちゃんと説明しなかったのが悪い。もうちょっと回復したらその辺も全部話すから・・・聞いてくれる?」

「・・・。」


ちゃんと話を聞かなかった私も悪かった。

思い込み・・かもしれないけど、圭一さんの言葉を信じないといけないのだ。


(捨てられるのが怖くて拒否してたのは私だ・・・)


またぶり返してくる痛みに耐えながら、私は圭一さんをじっと見た。


「き・・く・・・」

「!!・・・ありがとう。柚香が睡眠薬飲んでから二日経った。あとは軽くなっていくからゆっくりおやすみ?」


そう言われ、私はまた目を閉じたのだった。



ーーーーー



そしてさらに三日の時間が流れ、私は動けるまでに回復した。

一週間寝込んでたこともあり、体力はすっかりなくなってしまっていたけどベッドに座って話をすることはできるようになっていた。


「柚香さん、無事元気になってよかったですー。」

「藤沼さんが側にいてくれたからですよー。ありがとうございます。」


甲斐甲斐しくお世話をしてくれた藤沼さんにお礼を言うと、今日までのことを色々教えてくれ始めた。


「・・・睡眠薬の副作用が強かった時、だいぶうなされてたんですよ?」

「そうなんですか?」

「えぇ。何度も園田さまに助けを求められて・・・でも触れると頭痛が酷くなるのが分かってたんで誰も触れれず・・・」


藤沼さん夫妻と圭一さんは、私を見てることしかできなくて辛かったらしい。

寝てる時に触れると頭痛を呼び起こすかもしれないし、かといって起きてる時は悪化させるかもしれない。

そう思うと誰も触れれず、ただ様子を見守ることかできなかったそうなのだ。


「まだ少し痛いですけど、だいぶ楽になりましたよ。ありがとうございます。」


頭痛がマシになってから、藤沼さんは私の体を拭いてくれたり手をマッサージしてくれたりといろいろしてくれた。

そのおかげで早く体調が良くなったと思ってる。


「ふふ・・・。あ、柚香さんがこの家に戻られた日なんですけど、園田さま・・・かなりお怒りになっていて・・・」

「?・・・圭一さんがですか?すごく優しい人だと思うんですけど・・・」

「それは柚香さんの前だけですよ。好きな人には良く見られたいですからね。・・・で、その・・宝永会を潰して帰って来たんですよ。」


その言葉を聞いて、私は驚いた。

驚きすぎて空いた口が塞がらない。


「昔はそういうことをよくしてたんですけど、ここ最近・・特に柚香さんと出会ってからはかなり丸くなってたんですけど、柚香さんを攫われて相当頭に来たみたいで・・・」

「え・・それって誰か死んじゃったりしたとか・・・・」


前に『人殺しはしない』と言ってたことが頭をよぎる。


「それはないです。園田さまは人殺しはしないですよ。ただ・・・」

「『ただ』?」

「再起不能にはなりますけど・・。」

「?」


その『再起不能』の意味はわからないけど、圭一さんが人殺しをしてないと聞いて安心はできた。

ただ、はやり暴力団の組長をしてるのだなと、この時やっとハッキリわかったのだった。


「柚香?今、いいか?」


私の部屋の扉を開けて入って来た圭一さん。

藤沼さんは気を利かせてくれたのか、サッと部屋から出て行ってしまった。


「大丈夫です。」

「よかった。・・・順番に話すから・・・聞いてくれる?」


『話を聞く』という約束。

それは守らないといけないし、私も知っておかないといけないことだった。


「はい。」

「ありがとう。じゃあ少し昔の話から・・・」


圭一さんは私の隣に座り、少し遠くを見るように話しだしたのだった。


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