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圭一さんに言われて『不仲説』を流し始めて1か月の時間が流れた。

季節は夏に入りかけていて、薄着で外に出れる日も増えてきたところだ。

圭一さんと私は仕事も忙しく、夜に家で一緒に寝ることくらいしかできない日々が続いていて、『不仲説』もあながち間違いじゃないような状態になってる。

それでも圭一さんは私を抱きしめながら寝ることがほとんどで、ベッドの中では愛し愛されてる関係だった。


「あ、柚香、今度の水曜日って予定ある?」


ある日の朝、仕事に行く用意をしてる圭一さんがネクタイを結びながら私に聞いてきた。


「水曜?・・・えーと・・たぶん何もないと思うけど・・・」

「まだ予定入ってなかったら空けといて?もし予定があったら早めに教えてほしい。『罠』の仕上げに行くから。」

「!!」


その言葉に驚いて圭一さんを見ると、彼はニヤっと不敵な笑みを見せたのだ。


「茉里奈が引っかかってくれたみたいだ。捕まえに行くのに『水曜日』って言葉を連呼してくれるか?できれば『その日に話をする』って言葉も入れてくれたら助かる。」

「わ・・わかった・・。」


とうとう圭一さんが動く。

そう思うとなんだかドキドキしてきてしまった。


「水曜日当日は柚香も楽しみにしてて?」


嬉しそうに笑いながらそう言った圭一さん。

きっと茉里奈さんを捕まえるから、もう変なことは起こらないと言いたいのだろう。


「うん。わかった。」

「時間と場所はまた伝えるから。当日は一平と来るんだよ?」

「はーい。」


そう言って仕事に言った圭一さん。

私は言われた通り、『水曜日』と『話をする』という言葉を連呼するように持って行った。

でも私が話せる相手はタワマンのコンシェルジュさんか藤沼さんしかいない。

それでも見たことのある人が常に近くにいるのが分かってたから、私に人が張り付いてることは間違いなさそうだった。


そしてその水曜日を迎えることになり、私は一平さんと一緒に『待ち合わせ場所』に向かったのだった。




「一平さん、私、どんな表情で行ったらいいんですかね・・・。」


車に乗りながらそう聞くと、一平さんは運転しながらミラー越しに私をチラッと見た。


「一応聞いてる話では、俯き加減に来てほしいって聞いてますけど・・・」

「あー・・別れ話みたいな雰囲気を出すため・・だよね?」

「そっスね。」


待ち合わせに指定された場所は、海辺のカフェだ。

外にテーブルがあるタイプのカフェで、海側の景色のいいところに圭一さんは座ってるらしい。

そしてその場所は上に通路があり、カフェの様子を見渡すことができる場所があるそうな。

そこにきっと茉里奈さんが現れると圭一さんは読んでるのだ。

私たちの別れ話を満面の笑みで見下ろしながら見てるはず・・・だと。


「私は、上にいるであろう茉里奈さんには気づかないふりをしながら圭一さんのところに行ったらいいんだよね?」

「そうっス。絶対に上は見ちゃダメですし、組長だけ見てゆっくり歩いて行ってください。」

「が・・がんばる・・・」


どきどきしながら窓の外を流れる景色を見つめてみる。

今日の為にと圭一さんが用意してくれた服を身に纏ってるけど、なんだか茉里奈さんを煽ってるように見えてきてしまってる。


「白いワンピースって・・・まるでお嫁さんみたいなんだけど・・・」


海には白い服は似合う。

そういうことで私に『これを』と言って用意してくれたのだろうけど、茉里奈さんが怒らないか心配だ。


「大丈夫かなぁ・・・。」


そんな気を揉んでるうちに車は海辺のカフェに到着し、私は圭一さんが待ってる場所に向かって歩き出した。


「わ・・すごい・・・」


海沿いにある鉄の柵沿いに並べられた丸いテーブルに座ってる人たちがカフェタイムを楽しんでいた。

家族連れや、カップル、夫婦に友達同士と様々な人たちが視界に入る。


「すごく素敵な場所・・・」


いろんな場所を知ってる圭一さんだからこそ見つけれた場所だろう。


「えーと・・・あ、いたいた。」


一直線に並ぶテーブル席の奥の方に、圭一さんの姿を見つけた私は、ゆっくり歩いて行った。

言われた通り、俯き加減に歩いていくと、私の視界の端にピンク色の髪の毛が入ってきた。

圭一さんの読み通り、茉里奈さんが上にいるみたいだ。


(すご・・・。なんでもわかってるみたい・・・。)


そんな圭一さんは海を眺めるようにしてテーブル席に座っていた。

まるで心を落ち着けるかのような雰囲気を出し、茉里奈さんに見せつけてるのだろう。

ただ、茉里奈さんから見えないことをいいことに、その表情は嬉しそうに笑っていたのだ。


「お待たせ。」


そう言って私は圭一さんの座る席の向かいの椅子に腰かけた。


「いいや?待ってないよ?」

「・・・で?話って何?」


できるだけ無表情を装うようにして背もたれに体を預けると、圭一さんはテーブルに肘をつき、手の上に顎を置いた。


「今日の服、かわいいよ。よく似合ってる。」

「!?・・・へっ?」

「まるで花嫁みたいだな。」

「~~~~っ!?」


打ち合わせでこの場での会話内容は決まってなかった。

きっと別れ話のような演技をするのだと思っていたのに、真逆な言葉が飛んできたのだ。


「ちょ・・え・・・?」

「柚香と一緒に暮らすようになって半年・・くらいか?俺の恋人になってくれるまではどんなに欲しかったか・・・」

「!?!?」

「柚香のその人柄と中身・・・もちろん外見もかわいくてたまらないんだけど、名実ともに俺の側にいると約束してほしい。」


そう言って圭一さんはジャケットのポケットから小さな箱を取り出した。

そして私の前にその箱を差し出し、ぱかっと箱を開いたのだ。


「---っ!これって・・・指輪・・・?」


そう、箱の中に入っていたのは指輪。

小さくてかわいいダイヤモンドを囲うように、ピンク色のダイヤモンドがある。

そしてリングに這うようにして緑色のダイヤモンドが数粒あったのだ。


「花・・みたい・・・」


指輪を見た第一印象は『花』。

緑色のダイヤモンドが葉っぱのように見えたのだ。


「そう、俺の大切な花は柚香だ。枯れないように・・いつまでもきれいに輝くように努力する。だから俺と・・・結婚してください。」

「!!」





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