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「ただいま、茶々。」


退院した私が家に帰ると、真っ先に茶々が出迎えてくれたのだ。


「わんっ!!」

「ふふっ。元気になってよかったね。」


私が渉くんに攫われた日、体調不良だった茶々は藤沼さんに病院に連れて行ってもらい、処置をしてもらって元気になって帰ってきたと、圭一さんが教えてくれていた。

元気になった茶々に早く会いたかったけど、病院に連れてきてもらうわけにも行かず、今日無事に再会できたのだ。


「まだ体力が完全に戻ったわけじゃないから無理はしないこと。いいな?」


私の体を心配するあまり、過保護になりかけてる圭一さんだけど、私の体力はもうほとんど戻ってる気がしていた。

普段から体力がないから、圭一さんが見誤ってるだけなのだ。


「もう大丈夫だと思うけど・・・」

「だめだ。昼は茶々丸と昼寝。いいな?」


茶々とお昼寝はご褒美でしかない。

だから、それは承諾することにしても仕事や家事は普段通りにしたいところだ。


「『無理』はしないから、大丈夫だよ。」

「一番信用ならない言葉だな・・・」


疑ってる圭一さんだったけど、私はその日から言葉通り無理はしなかった。

ちゃんとお昼になったら茶々と一緒にゴロゴロしていたし、ご飯も比較的簡単なものしか作らなかったのだ。

洗濯に関しては一平さんや陽太さんが率先してしてくれるからしなくてよかったし、仕事も詰めてはやらなかった。

夜は圭一さんに抱きしめられながら眠り、至極幸せな毎日を送ったのだ。


そしてそんな生活を1か月ほど続けたある日・・・



「わぁ・・・通帳の残高が大変なことに・・・」


仕事帰りに記帳を済ませたあと通帳を見ると、とんでもない金額が記録されていたのだ。

基本的にお金を使うことがない生活をずっとしてきたからか減ることがなく、気が付けば500万ほど貯まったままに・・・。


「使い道がないんだけど・・・どうしよう・・・。」


運用したところであまり益はないだろう。

かといって生活費として家に入れることは圭一さんが許してくれなさそうだ。


「何かプレゼントでも買う・・・?でも圭一さん、何でも持ってるからなぁ・・・。」


お金で買えるものならすべて買えてしまうほどの財力がある圭一さん。

会社の収入が億越えなのに加えて、組の収入はそれ以上あるらしいのだ。


「油田とかも買えちゃいそうで怖い・・・。」


そんな人にお金で買えるものなんてプレゼントできない。


「何か贈りたいけど・・困った・・・。」


悩みながら車に戻ると、運転手役の一平さんがミラー越しに私を見ていた。


「柚香さん、どうしたんスか?」

「あ・・・ちょっと考え事してて・・・」

「考え事?」

「実は・・・」


私は貯金額が増えていたことと使い道がないこと、できれば圭一さんに日ごろの感謝を込めて何か贈りたいけどどれもこれも圭一さんが買えそうなことを伝えた。


「あー・・・そうっスね、基本的には家の金は家で出してますし・・・エステは全て組長持ちですし・・使い道ないっスよね。」

「そうなのー・・・。何か無いかなぁ・・・」

「うーん・・・。」


車を走らせながら考え始めた一平さん。

少ししてから思いついたように声を上げたのだ。


「あっ・・・!『着物』はどうっスか?」

「着物?」

「はい。柚香さん、家ではいつも和服着てますでしょ?組長とお揃いで着物・・・柚香さんがデザインしたら世界で一つしかない和服になりますよ?」

「!!」


確かにその通りだった。

着物は生地によって値段が変わるし、あの家は和風。

和服が似合う家だし、圭一さんも着物が似合いそうな感じがしていたのだ。


「そうする!!ありがとう!一平さんっ!」

「へへっ、お礼はシフォンケーキでお願いします。」

「10台焼くね!!」

「それはちょっと食いきれないっていうか・・・・」


困り顔を見せる一平さんを他所に、私は頭の中でデザインを考えていた。


(圭一さんのサイズが知りたいところ・・・でも『採寸させて』なんて言ったら勘付かれそうだし・・・。)


気づかれないように行動に移すため、私の頭の中はこの日からフル回転することになったのだった。




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そしてこの日の夜・・・。


「ねぇ、圭一さん、ちょっと協力してほしいことがあるんだけど・・・」


晩御飯を食べ終わり、部屋で仕事をしてる圭一さんに声をかけた。

手にはメジャーとメモがある。


「『協力』?どした?」

「あのね?私が描いてる服のデザインってレディースが殆どでしょ?最近は親子コーデもちょこちょこ出してるけど・・・。」

「あぁ。」

「ちょっとメンズも描いてみようかなと思って・・・。そしたらフル親子コーデ?も、視野に入るかなーって。」

「お、それいいかもな。」

「それで、メンズって初めてだからサイズとか全然わからなくて・・・ほら女性と男性って体格が全然違うから・・・」


そういうと圭一さんは私が何を言いたいのか分かったようで、していた仕事を止めてくれたのだ。


「俺のサイズでいいの?」

「!!・・・うんっ。あとで一平さんとか陽太さんも聞こうと思ってるんだけど、最初は圭一さんがいいなって思って・・・。」

「もちろん。お安い御用だ。」


圭一さんは椅子から立ち上がり、私の前に立ってくれた。

メジャーを引っ張り出して、裄丈や手首、首回り、ウエスト、胸囲、股下、足首なんかを測っていく。


「・・・そんな細かく測るの?」


測った数字をメモに書き込んでると、圭一さんが疑問を投げかけてきた。


「えっ・・・?二度手間にならないように・・・?シャツとか手首までサイズいるし・・・」

「ふーん・・・?」


なんだか疑るような『ふーん?』にドキドキしてしまう。


「あ、圭一さんの身長は?どれくらい?」

「186cm。」

「ありがとう!参考にさせてもらうね。」


これで基本的な材料は揃った。

あとはデザインを考えてそれを形にするだけ・・・。


(・・・那智さん・・作ってくれないかな・・・。)


私のデザインを考えた通りに形にできるのは那智さんだけ。

それも個人的なお願いになってしまうから引き受けてくれるかどうかがわからないのだ。


(『報酬は払う』って言ったら引き受けてくれるかな・・・。)


服と違って着物は縫い方が違う。

だから引き受けてくれない可能性もあるのだ。


(仕事外の話だから、そもそも引き受けてくれないかもしれないけど・・・。)


そんな不安を抱えながら、私は空いてる時間にデザインを煮詰めていったのだった。


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