61 / 61
最終話。
しおりを挟む
「・・・圭一さん、あの・・・ちょっと家・・大きくない?」
私たちの新居が完成したとのことで引っ越しが決まり、今日、新しい家に足を運びに来た。
正式な引っ越しは後日決まっていて、今日は内覧のようなものだ。
「柚香が希望した平屋だけど?」
「いや、それはわかるんだけど・・・」
香織を抱く私の目には、やたら幅の広い家が映っていた。
白い壁に、大きな窓。
それにウッドデッキなんかも見え、そこには4人掛けのテーブルなんかも設置されてる。
背の低い柵が家全体を囲っていて、どうも『広い』気がして仕方ない。
「とりあえず入ろうか。」
「う・・うん・・・」
若干不安に思いながらも私は香織を抱きながら玄関の扉を開けた。
「ふぁっ・・・広い・・・!」
玄関扉をくぐると、吹き抜け・・・というか、高い天井の玄関ホールが目に入った。
ちょうど真上に天窓があり、そこから明るい光が差し込んでる。
「こっちがシューズクローゼットな。ベビーカーが入れるくらい広く取ってあるから香織を乗せたままでも入れるよ。」
そう言われて中を覗くと、確かに広いクローゼットがあった。
それも広い玄関を二つに分けてるかのような造りで、クローゼットの奥からでも家の中に入れそうだ。
「ほら、靴脱いで?」
「う・・うん・・・。」
圭一さんが靴を抜いただのを見て私も靴を脱ぐ。
そして中に入ると、目の前に中庭があったのだ。
「!?!?」
「その中庭は天井が開いてるタイプになってる。窓を閉めてたら雨風は入ってこないから、香織が動くようになったらここで遊んでもいいんじゃない?」
もう言葉を発することすらできなくなってしまってる私を他所に、圭一さんは家の中を歩いていく。
上に下に右に左にと忙しく顔を動かしながらついていくと、だいたいの間取りが分かるようになってきた。
この家は中庭を中心にした回廊型の平屋なのだ。
玄関から入って真正面が中庭で、左に曲がるとリビングダイニングとキッチンがある。
その奥にトイレやお風呂があり、玄関とちょうど向かい合う位置に部屋が一つ、その隣にもう一つの部屋、そして玄関から入って右に行くと和室があったのだ。
「すごい・・・・」
「気に入った?柚香が好きなものを入れてみたんだけど・・・。」
その言葉に私はハッとした。
周りを見回すと、確かに私が好きなデザインが盛り込まれていたのだ。
窓枠の色や、床や壁の色。
すでに設置されてるテーブルやソファー、廊下に設置されていたカウンターテーブルなんかも、私が好きなものだったのだ。
収納も多く取られていて、リビングの一角に小さなデスクもある。
ここで香織を見ながらデザインの仕事をしてる『絵』が見えるようだった。
「嘘・・・圭一さんの希望をいれるんじゃ・・・」
「俺の希望は柚香が満足する家にすること。別に改築したって構わないし・・・どう?」
「どうって・・・・」
どう考えても『私』を基準に作られてる家。
家具は角のないものが殆どで、香織のことをも考えられていたのだ。
「圭一さんは・・・?圭一さんの家なんだよ?」
「俺は柚香と香織が笑顔で出迎えてくれたらそれでいい。大切な二人の笑顔を守るのが俺の仕事だからな。」
そう言って圭一さんは私と香織にキスを落としていった。
「・・・じゃあ毎日香織と一緒にお出迎えする。圭一さんが笑顔で帰ってこれるように、圭一さんが『幸せ』って思えるような家にする。」
それが私のこの家での仕事だ。
これだけのこと、圭一さんにしたら些細な事かもしれないけど、私にとってはすごく大きなこと。
彼が私を大切に想ってくれなかったら今の私もいないし、香織だっていない。
今のこの幸せを少しでも圭一さんに返せるように行動するのが、私にできることなのだ。
「・・・お出迎えは嬉しいけど・・あんまりかわいいことすると増築しないといけなくなるからな?」
「?・・・それってどういう・・・・・・---っ!?」
「ははっ、そういうこと。香織にも姉弟が必要だろ?」
「もうっ・・・!!」
あの日、圭一さんが保護してくれなかったらこの人生は無かった。
自分一人で切り開くことも大切だけど、周りに助けを求めるのも大切だったのだ。
(一生・・・あなたを愛してます、圭一さん。)
ーーーーー
あの日、柚香を保護して本当によかったと思ってる。
特殊な家柄も理解してくれ、こんなにも素敵な女性とは二度と巡り合えないだろう。
・・・いや、柚香以上の女なんて存在しないのだから巡り合えないのだ。
(一生・・・いや、来世だって愛するよ、柚香。)
ーーーーー
「あ、そういえば柚香の店なんだけど・・・。」
「?」
「この街の中心部の一角に作ってあるからあとで見に行こうな。」
「中心部!?」
「20坪くらいの小さな店にしておいたから。引っ越して落ち着いたら作り手にデザイン送って?まだ建築中の家も多いから、本格始動は半年後くらいだし・・・」
「・・・。」
「ま、ゆくゆくは2号店とかも検討な?」
「はい!?」
「このプロジェクトが上手くいったら、他の廃遊園地も買い取ってほしいって依頼が来てるから・・・頼んだ。」
「!?!?」
おわり。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
寒い日が続きますがお体に気を付けて。
最後になりましたが、いつも『エール』を押してくださってる方々、本当にありがとうございます。
日々精進いたしますので、楽しんでいただけたら何よりです。
では、またお会いできる日を楽しみに。すずなり。
2023/12/03 22:00
私たちの新居が完成したとのことで引っ越しが決まり、今日、新しい家に足を運びに来た。
正式な引っ越しは後日決まっていて、今日は内覧のようなものだ。
「柚香が希望した平屋だけど?」
「いや、それはわかるんだけど・・・」
香織を抱く私の目には、やたら幅の広い家が映っていた。
白い壁に、大きな窓。
それにウッドデッキなんかも見え、そこには4人掛けのテーブルなんかも設置されてる。
背の低い柵が家全体を囲っていて、どうも『広い』気がして仕方ない。
「とりあえず入ろうか。」
「う・・うん・・・」
若干不安に思いながらも私は香織を抱きながら玄関の扉を開けた。
「ふぁっ・・・広い・・・!」
玄関扉をくぐると、吹き抜け・・・というか、高い天井の玄関ホールが目に入った。
ちょうど真上に天窓があり、そこから明るい光が差し込んでる。
「こっちがシューズクローゼットな。ベビーカーが入れるくらい広く取ってあるから香織を乗せたままでも入れるよ。」
そう言われて中を覗くと、確かに広いクローゼットがあった。
それも広い玄関を二つに分けてるかのような造りで、クローゼットの奥からでも家の中に入れそうだ。
「ほら、靴脱いで?」
「う・・うん・・・。」
圭一さんが靴を抜いただのを見て私も靴を脱ぐ。
そして中に入ると、目の前に中庭があったのだ。
「!?!?」
「その中庭は天井が開いてるタイプになってる。窓を閉めてたら雨風は入ってこないから、香織が動くようになったらここで遊んでもいいんじゃない?」
もう言葉を発することすらできなくなってしまってる私を他所に、圭一さんは家の中を歩いていく。
上に下に右に左にと忙しく顔を動かしながらついていくと、だいたいの間取りが分かるようになってきた。
この家は中庭を中心にした回廊型の平屋なのだ。
玄関から入って真正面が中庭で、左に曲がるとリビングダイニングとキッチンがある。
その奥にトイレやお風呂があり、玄関とちょうど向かい合う位置に部屋が一つ、その隣にもう一つの部屋、そして玄関から入って右に行くと和室があったのだ。
「すごい・・・・」
「気に入った?柚香が好きなものを入れてみたんだけど・・・。」
その言葉に私はハッとした。
周りを見回すと、確かに私が好きなデザインが盛り込まれていたのだ。
窓枠の色や、床や壁の色。
すでに設置されてるテーブルやソファー、廊下に設置されていたカウンターテーブルなんかも、私が好きなものだったのだ。
収納も多く取られていて、リビングの一角に小さなデスクもある。
ここで香織を見ながらデザインの仕事をしてる『絵』が見えるようだった。
「嘘・・・圭一さんの希望をいれるんじゃ・・・」
「俺の希望は柚香が満足する家にすること。別に改築したって構わないし・・・どう?」
「どうって・・・・」
どう考えても『私』を基準に作られてる家。
家具は角のないものが殆どで、香織のことをも考えられていたのだ。
「圭一さんは・・・?圭一さんの家なんだよ?」
「俺は柚香と香織が笑顔で出迎えてくれたらそれでいい。大切な二人の笑顔を守るのが俺の仕事だからな。」
そう言って圭一さんは私と香織にキスを落としていった。
「・・・じゃあ毎日香織と一緒にお出迎えする。圭一さんが笑顔で帰ってこれるように、圭一さんが『幸せ』って思えるような家にする。」
それが私のこの家での仕事だ。
これだけのこと、圭一さんにしたら些細な事かもしれないけど、私にとってはすごく大きなこと。
彼が私を大切に想ってくれなかったら今の私もいないし、香織だっていない。
今のこの幸せを少しでも圭一さんに返せるように行動するのが、私にできることなのだ。
「・・・お出迎えは嬉しいけど・・あんまりかわいいことすると増築しないといけなくなるからな?」
「?・・・それってどういう・・・・・・---っ!?」
「ははっ、そういうこと。香織にも姉弟が必要だろ?」
「もうっ・・・!!」
あの日、圭一さんが保護してくれなかったらこの人生は無かった。
自分一人で切り開くことも大切だけど、周りに助けを求めるのも大切だったのだ。
(一生・・・あなたを愛してます、圭一さん。)
ーーーーー
あの日、柚香を保護して本当によかったと思ってる。
特殊な家柄も理解してくれ、こんなにも素敵な女性とは二度と巡り合えないだろう。
・・・いや、柚香以上の女なんて存在しないのだから巡り合えないのだ。
(一生・・・いや、来世だって愛するよ、柚香。)
ーーーーー
「あ、そういえば柚香の店なんだけど・・・。」
「?」
「この街の中心部の一角に作ってあるからあとで見に行こうな。」
「中心部!?」
「20坪くらいの小さな店にしておいたから。引っ越して落ち着いたら作り手にデザイン送って?まだ建築中の家も多いから、本格始動は半年後くらいだし・・・」
「・・・。」
「ま、ゆくゆくは2号店とかも検討な?」
「はい!?」
「このプロジェクトが上手くいったら、他の廃遊園地も買い取ってほしいって依頼が来てるから・・・頼んだ。」
「!?!?」
おわり。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
寒い日が続きますがお体に気を付けて。
最後になりましたが、いつも『エール』を押してくださってる方々、本当にありがとうございます。
日々精進いたしますので、楽しんでいただけたら何よりです。
では、またお会いできる日を楽しみに。すずなり。
2023/12/03 22:00
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
248
この作品は感想を受け付けておりません。
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる