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「んー・・・」
鼻を抜けるいい匂いに釣られて目が覚めた私は辺りを見回した。
目線の先には見覚えのない天井に、心地のいい布団が私を包んでる。
「え・・・?」
訳が分からず身体を起こすと、目の前に広がる部屋の風景にも見覚えがなかった。
一体自分はどこにいるのかと頭を悩ませてると、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ハル?起きた?」
その声のほうに視線を向けると、そこには涼さんが立っていた。
手にはマグカップを持ってる。
「涼・・さん?え・・ここ・・どこ?」
そう聞くと涼さんは私が寝ていたベッドの端っこに腰かけた。
「ここは会食のあったホテルの部屋。昨日の夜、ハル倒れたんだよ。」
「・・・え!?」
「覚えてなさそうだな。傷が痛んでたんだろ?」
そう言われ、私は自分の左腕をそっと触った。
たしかに痛みがあった記憶はある。
「痛かった・・・けど今は痛くない・・。」
鎮痛剤も飲んでないハズなのに痛みが引いてることに驚いてると、涼さんが部屋の向こうを指差した。
「お腹空いてるだろ?とりあえずご飯にしない?歩ける?」
「あ・・う・・うん・・・。」
私は身体にかかっていた布団を取り払った。
その時、自分が着ていた着物が無いことに気がついた。
肌着だけが残っている。
「え・・?」
いつ脱いだのか記憶にすらない私は、自分の肌着をじっと見た。
紐の結び目も自分で結んだ形とは少し違う。
「あ・・覚えてる・・?」
そう聞いてくる涼さんに、私は首を横に振って答えた。
「あー・・・苦しいかと思って着物は脱がせたんだよ。」
「脱がせ・・!?」
「着物はほら、そこにかけてあるんだけど・・・あとは・・まぁ気にしないで・・。」
「?」
「とりあえずほら、ご飯しない?昨日から何も食べてないからお腹空いたでしょ?」
ごまかすようにして言う涼さんだったけど、『お腹が空いてる』と言われて私は空腹を自覚してしまった。
でも肌着でうろうろするなんてことできない。
「ちょっとこのままっていうわけにもいかないから・・・『ホテルに預けた荷物を届けて欲しい』ってフロントに連絡してもいい?」
預けた荷物の中に、私の服が入ってる。
それに着替えたいところだ。
「荷物ならそこに持って来てもらってるよ?服が気になるなら・・・ちょっと待ってて?」
涼さんは何か思いついたのか、奥のほうにある扉を開けて入って行ってしまった。
そして手に白い大きなタオルのようなものを持ってる。
「ほら、これ着たらどう?ガウン。」
そう言って持っていたガウンを広げて私の身体にかけてくれた。
「あ・・・。」
「食べたらお風呂行けばいいよ。もう溜まってるし。」
「あ・・ありがとう・・・。」
私はかけてもらったガウンに袖を通し、ベッドから下りた。
涼さんに案内されるままにダイニングらしきテーブルがある場所に行く。
「わぁ・・・すごい・・・」
テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。
サンドイッチに、おにぎり、一口サイズのカップグラタン、ローストビーフに生春巻きとたくさんの種類の料理が大きいテーブルにびっしり置かれていたのだ。
「丸一日以上食べてないし。ゆっくり食べようか。」
「うんっ。」
私と涼さんは席につき、ご飯を食べ始めた。
ご飯を食べながら、私が倒れたあとのことを詳しく聞いていく。
「どこまで記憶ある?」
そう聞かれ、私は自分の記憶を手繰り寄せた。
連にケータイ番号を教えて、会場に戻って・・・その直後くらいから記憶がないことに気がついた。
「倒れかけたところを俺が抱きかかえたんだよ。そのあとすぐに会場を出て、スタッフに部屋を用意してもらって・・・。」
そう言われ、私は部屋をぐるっと見回した。
だだっ広い部屋にあるのはゆったりとした家具たち。
それにキッチンやダイニング、リビングまで独立するように作られていて、この部屋が一般的な部屋じゃないことがすぐにわかった。
「---っ!・・・涼さん・・このお部屋って・・・」
そう聞くと涼さんはしれっと答えた。
「スィートだよ?」
「!?!?」
その言葉に私は思わず手に持っていたお箸を落としてしまった。
「あ、ここしか空いてなかったんだよ。気にしないで?月曜まで押さえてあるから、予定無いならこのままゆっくりしない?」
「予定は・・無いけど・・・」
「なら明日の夕方くらいまでいようか。ご飯食べたらゆっくりお風呂入っておいで?」
「う・・うん・・。」
テーブルに並べられた料理を食べていく私は、今の状況を頭の中で整理する。
(えっと・・私が倒れたのが金曜日の夜。・・・で、今は土曜日の夜。)
丸一日寝ていたことになる私の側に、涼さんがずっといたことになる。
寝顔を見られていたかと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
(~~~~っ!)
急に恥ずかしさがこみ上げて来た私は、急いでテーブルの料理を食べた。
そして椅子から立ち上がり、涼さんに言う。
「おっ・・お風呂・・行ってきます・・・」
「?・・・うん。温まっておいで?あ、案内するよ。」
「はい・・・。」
涼さんは私の少し前を歩き、バスルームの場所を教えてくれた。
思ってたよりも部屋は奥行きがあり、部屋の中のはずなのに結構な距離を歩く。
(このお部屋・・・めっちゃ高いよね・・・。)
だだっ広い部屋はもちろんのこと、きらびやかな装飾にひとつひとつの家具がどれも有名なものばかりだった。
シンプルだけど独特なデザインは、その家具を見ただけでどこのものかすぐにわかるものだ。
「ここが洗面のスペースだけど、この奥にお風呂あるから。あとはわかる?」
「うん、大丈夫ー・・。」
「なんかあったら呼んで?中に通話できるのがあるから。」
「うん、ありがとう。」
私は洗面スペースの中に入り、ドアを閉めた。
中をじっくり見まわして、思わずため息がこぼれる。
「うわぁ・・・すごい・・。」
壁一面にある鏡が目に飛び込んできた。
汚れ一つない鏡に、壁にある小さな照明が映り込んでキラキラ輝いてる。
大きい洗面台は二つあって、蛇口のところに小さな鳥がとまってる装飾があった。
みるからにふかふかなタオルがたくさん置かれていて、洗面台の端に小さなプリザーブドフラワーもある。
ゴテゴテと物を置きすぎない感じが、すごく私好みだった。
(いいなー・・。)
笑みをこぼしながら、私はガウンを脱いだ。
着ている肌着の紐に手をかけ、解いていく。
そして肩から滑らせるようにして肌着を脱いだ姿が鏡に映った時、なにか違和感があった。
鎖骨のあたりに・・・本来なら無いものが映ってる。
「?」
何があるのか分からずに、私は鏡を覗き込んだ。
まじまじ見るとそこには・・・内出血のような痕があったのだ。
「きゃぁぁっ・・・!?」
鼻を抜けるいい匂いに釣られて目が覚めた私は辺りを見回した。
目線の先には見覚えのない天井に、心地のいい布団が私を包んでる。
「え・・・?」
訳が分からず身体を起こすと、目の前に広がる部屋の風景にも見覚えがなかった。
一体自分はどこにいるのかと頭を悩ませてると、私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ハル?起きた?」
その声のほうに視線を向けると、そこには涼さんが立っていた。
手にはマグカップを持ってる。
「涼・・さん?え・・ここ・・どこ?」
そう聞くと涼さんは私が寝ていたベッドの端っこに腰かけた。
「ここは会食のあったホテルの部屋。昨日の夜、ハル倒れたんだよ。」
「・・・え!?」
「覚えてなさそうだな。傷が痛んでたんだろ?」
そう言われ、私は自分の左腕をそっと触った。
たしかに痛みがあった記憶はある。
「痛かった・・・けど今は痛くない・・。」
鎮痛剤も飲んでないハズなのに痛みが引いてることに驚いてると、涼さんが部屋の向こうを指差した。
「お腹空いてるだろ?とりあえずご飯にしない?歩ける?」
「あ・・う・・うん・・・。」
私は身体にかかっていた布団を取り払った。
その時、自分が着ていた着物が無いことに気がついた。
肌着だけが残っている。
「え・・?」
いつ脱いだのか記憶にすらない私は、自分の肌着をじっと見た。
紐の結び目も自分で結んだ形とは少し違う。
「あ・・覚えてる・・?」
そう聞いてくる涼さんに、私は首を横に振って答えた。
「あー・・・苦しいかと思って着物は脱がせたんだよ。」
「脱がせ・・!?」
「着物はほら、そこにかけてあるんだけど・・・あとは・・まぁ気にしないで・・。」
「?」
「とりあえずほら、ご飯しない?昨日から何も食べてないからお腹空いたでしょ?」
ごまかすようにして言う涼さんだったけど、『お腹が空いてる』と言われて私は空腹を自覚してしまった。
でも肌着でうろうろするなんてことできない。
「ちょっとこのままっていうわけにもいかないから・・・『ホテルに預けた荷物を届けて欲しい』ってフロントに連絡してもいい?」
預けた荷物の中に、私の服が入ってる。
それに着替えたいところだ。
「荷物ならそこに持って来てもらってるよ?服が気になるなら・・・ちょっと待ってて?」
涼さんは何か思いついたのか、奥のほうにある扉を開けて入って行ってしまった。
そして手に白い大きなタオルのようなものを持ってる。
「ほら、これ着たらどう?ガウン。」
そう言って持っていたガウンを広げて私の身体にかけてくれた。
「あ・・・。」
「食べたらお風呂行けばいいよ。もう溜まってるし。」
「あ・・ありがとう・・・。」
私はかけてもらったガウンに袖を通し、ベッドから下りた。
涼さんに案内されるままにダイニングらしきテーブルがある場所に行く。
「わぁ・・・すごい・・・」
テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。
サンドイッチに、おにぎり、一口サイズのカップグラタン、ローストビーフに生春巻きとたくさんの種類の料理が大きいテーブルにびっしり置かれていたのだ。
「丸一日以上食べてないし。ゆっくり食べようか。」
「うんっ。」
私と涼さんは席につき、ご飯を食べ始めた。
ご飯を食べながら、私が倒れたあとのことを詳しく聞いていく。
「どこまで記憶ある?」
そう聞かれ、私は自分の記憶を手繰り寄せた。
連にケータイ番号を教えて、会場に戻って・・・その直後くらいから記憶がないことに気がついた。
「倒れかけたところを俺が抱きかかえたんだよ。そのあとすぐに会場を出て、スタッフに部屋を用意してもらって・・・。」
そう言われ、私は部屋をぐるっと見回した。
だだっ広い部屋にあるのはゆったりとした家具たち。
それにキッチンやダイニング、リビングまで独立するように作られていて、この部屋が一般的な部屋じゃないことがすぐにわかった。
「---っ!・・・涼さん・・このお部屋って・・・」
そう聞くと涼さんはしれっと答えた。
「スィートだよ?」
「!?!?」
その言葉に私は思わず手に持っていたお箸を落としてしまった。
「あ、ここしか空いてなかったんだよ。気にしないで?月曜まで押さえてあるから、予定無いならこのままゆっくりしない?」
「予定は・・無いけど・・・」
「なら明日の夕方くらいまでいようか。ご飯食べたらゆっくりお風呂入っておいで?」
「う・・うん・・。」
テーブルに並べられた料理を食べていく私は、今の状況を頭の中で整理する。
(えっと・・私が倒れたのが金曜日の夜。・・・で、今は土曜日の夜。)
丸一日寝ていたことになる私の側に、涼さんがずっといたことになる。
寝顔を見られていたかと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
(~~~~っ!)
急に恥ずかしさがこみ上げて来た私は、急いでテーブルの料理を食べた。
そして椅子から立ち上がり、涼さんに言う。
「おっ・・お風呂・・行ってきます・・・」
「?・・・うん。温まっておいで?あ、案内するよ。」
「はい・・・。」
涼さんは私の少し前を歩き、バスルームの場所を教えてくれた。
思ってたよりも部屋は奥行きがあり、部屋の中のはずなのに結構な距離を歩く。
(このお部屋・・・めっちゃ高いよね・・・。)
だだっ広い部屋はもちろんのこと、きらびやかな装飾にひとつひとつの家具がどれも有名なものばかりだった。
シンプルだけど独特なデザインは、その家具を見ただけでどこのものかすぐにわかるものだ。
「ここが洗面のスペースだけど、この奥にお風呂あるから。あとはわかる?」
「うん、大丈夫ー・・。」
「なんかあったら呼んで?中に通話できるのがあるから。」
「うん、ありがとう。」
私は洗面スペースの中に入り、ドアを閉めた。
中をじっくり見まわして、思わずため息がこぼれる。
「うわぁ・・・すごい・・。」
壁一面にある鏡が目に飛び込んできた。
汚れ一つない鏡に、壁にある小さな照明が映り込んでキラキラ輝いてる。
大きい洗面台は二つあって、蛇口のところに小さな鳥がとまってる装飾があった。
みるからにふかふかなタオルがたくさん置かれていて、洗面台の端に小さなプリザーブドフラワーもある。
ゴテゴテと物を置きすぎない感じが、すごく私好みだった。
(いいなー・・。)
笑みをこぼしながら、私はガウンを脱いだ。
着ている肌着の紐に手をかけ、解いていく。
そして肩から滑らせるようにして肌着を脱いだ姿が鏡に映った時、なにか違和感があった。
鎖骨のあたりに・・・本来なら無いものが映ってる。
「?」
何があるのか分からずに、私は鏡を覗き込んだ。
まじまじ見るとそこには・・・内出血のような痕があったのだ。
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