皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈

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晩餐

その日の午後、リディア様が一人で再び私の宮を訪れた。

「アイラ様、先ほどはカトリーヌ様が失礼をいたしました。あの方、少々言葉が奔放ほんぽうなところがありまして」 

「……いいえ、お気遣いなく」 

「いいえ。気遣いなどではありませんわ」

リディア様は、私が淹れたばかりの薬草茶を一口飲むと、その柔らかな瞳でまっすぐ私を見つめた。

「アイラ様。後宮で生きる術を、ひとつだけお教えしましょう」

「術、ですか?」

「ええ。それは、『見ないふり、聞かないふり、知らないふり』をすることですわ」

私は、はっと息を飲んだ。

「ここは、嫉妬と羨望と、ほんの少しの希望でできた美しい牢獄です。陛下の寵愛が深ければ深いほど、あなたの足元をすくおうとする手は増えるでしょう。カトリーヌ様が流した噂も、その一つ。でも、それにいちいち反応してはいけません」 

「ですが……」 

「何も見ず、何も聞かず、ただ、陛下の前でだけ、最も美しく咲き誇る花でいればよいのです。……それが、ここで長く、穏やかに生きるための、たった一つの術ですわ」

リディア様の言葉は、あまりに現実的だがあまりに冷たかった。まるで、フリードとの希望を捨てろと、そう言われているような気がした。

「わたくしには……できません」 

「まあ」 

「わたくしは、見ないふりも、聞かないふりもできません。ここで、ただ枯れていく花になるつもりもありませんわ」

リディア様は、少しだけ目を見開いた後、ふふっと小さく笑った。

「そう。……そうでしたわね。あなた様は、そういう瞳をしていらっしゃる。……皇太子が、あれほど夢中になられた理由が、わかったような気がいたします」 

「リディア様?」 

「いいえ、独り言ですわ。……もし、その術を使わずにここで生きていくとおっしゃるなら、アイラ様。あなた様は、わたくしたちが想像するよりも、ずっとずっと、お強くならなくてはなりませんわね」

その言葉を聞いた瞬間、私のこれからの運命を見透かされたような気がした。

帝都で、隣国との友好を祝う大々的な祝宴が開かれた。きらびやかな大広間に、帝国中の貴族たちが集まっている。私は、皇帝陛下の命により、その祝宴に出席することになった。

「アイラ、今宵のお前は、月の女神よりも美しい」

皇帝アーノルドは、そう言うと私の手を取り、玉座の隣に設えられた席へと導いた。その席は本来、正妃フェリシア様が座るべき場所の隣だった。

ざわっ、と会場がどよめいた。臣下たちが、驚きと戸惑いの視線を、私とフェリシア様へと向けるのがわかった。

フェリシア様は、完璧な微笑みを浮かべていた。けれど、その手元で扇がバキッと音を立てて折れたのを私は見逃さなかった。氷のような微笑みの下で、どれほどの怒りが燃え盛っているのだろう。

「陛下、わたくしのような新参者が、このような席に座るなど、恐れ多いことでございます」 

「何を言う。お前は我の上級側室だ。正妃の隣に座るに、何のはばかることがあろう」

皇帝は、まるで子供がお気に入りの玩具を自慢するように、私を臣下たちに見せつけた。私は、ただ微笑むしかなかった。リディア様の言葉を借りるなら、最も美しく咲き誇る花を演じるしかなかった。

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