私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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口先だけで反省

「あなた方にとって、『格』とは一体なんですの? 着ているものですの? 住んでいるお屋敷の大きさ? わたくしには、どうにも理解ができませんの。この、しがない『清掃員』の頭では」

母は、わざと自分の古びた仕事着の袖を摘まむような仕草をした。もちろん、今の母が着ているのは、目も眩むような最高級のシルクのドレスだ。その皮肉は、ハリントン家のプライドを打ち砕いていった。

「ち、違う……! 誤解だ! あれは、その……」

ジェラルド伯爵が、必死で何かを叫ぼうとする。

「誤解ですって?」

今度は、エリザベートが口を開いた。

「イザベラ夫人は、おっしゃいましたわ。『みすぼらしい男爵家の娘などに、大事な息子をくれてやるわけにはまいりません』と。私との婚約は、『とんだ貧乏くじ』だったとも」

そしてエリザベートは、元婚約者のヴィクトルを見つめて続ける。

「ヴィクトル様。あなたは、おっしゃいましたわね。『君のお母様を見て、僕は、目が覚めたんだ』と。『僕の妻の母親が、あのみすぼらしい清掃員……? 想像しただけで、ぞっとする』と」

エリザベートは、彼らが私と母に投げつけられた言葉を一つ一つ丁寧に返した。その言葉がどれほどの痛みを伴うものか、相手に骨の髄まで刻みつけるために。

「あ……あ……エリザベート……」

ヴィクトルの顔が、みるみるうちに歪んでいく。ハンサムな顔が、後悔と恐怖で醜く崩れていく。

「や、やめろ……もう、やめてくれ……」

ジェラルド伯爵は、ついにその場で膝をついた。帝国屈指の名門貴族であるハリントン伯爵家の当主が、床に額を擦り付けた。

「も、申し訳ございませんでした! 我々の、目が、節穴でございました! どうか、どうか、お許しを……! この通りでございます!」

彼は、何度も硬い大理石の床に頭を打ち付け始めた。ごんごん、と鈍くてみっともない音が響いた。

「あなた! しっかりしてください!」
「父上! 落ち着いてください!」

それを見ていたイザベラ夫人も、慌てて夫の隣に駆け寄ると、プライドも何もかも投げ捨てて、同じように床にひれ伏した。

「お許しくださいませ、クロイツベルク様! 我々は、あなた様が、そのような雲の上の御方とは、つゆ知らず……! なんという、無礼を……! どうか、この投資の件、何卒ご容赦いただけますようお願い申し上げます。もしこれがダメなら、我が家は破滅します!」

その姿は、もはや貴族の夫人ではなかった。市場で物乞いをする哀れな老婆のようだった。

そして、最後に残されたヴィクトル。彼は、よろよろとエリザベートの方へとにじり寄ってきた。

「エリザベート……」

彼は、私のドレスの裾に、命綱のように必死で掴みかかってきた。

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