私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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皇女は心を乱す

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玉座の間。父である皇帝陛下と、母である皇后陛下が、厳かに並んで座っている。その両脇には、帝国の重鎮である大臣たちが、石像みたいに、ずらりと控えている。そして、兄であるレオポルト皇太子も、いつもより、ずっと硬い表情で父の隣に立っていた。

そこまではいい。問題は、その玉座の前。本来ならば、臣下がひれ伏す場所に、まるで対等な賓客であるかのように、それ以上に『重要な存在』であるかのように、二脚の豪華な椅子が配置され、そこに二人の女性が座っていた。

よく見ると、昨日、自分が皇宮の門前で、散々に罵り追い払ったはずの、あのボロボロの馬車に乗って現れた貧しい男爵家の哀れな親子じゃないか?

マリーヌは最初は、誰なのか認識できなかった。今のシャーロットの服装は清掃員のものではなく、エリザベートもまた、昨日の地味で質素なドレスではなかった。

(これは幻覚……? それとも、まだ酔いが残っているせいなの……?)

マリーヌは目をこすりながら確認したが、その光景は消えることはなかった。それどころか、昨日とは別人のように、その親子は輝いて見えた。

母親は、深海のような深い青色のシルクのドレスを着て、首元には星のように輝く青い宝石が飾られていた。娘は、朝の露を浴びた若草のような色のドレスを纏い、その姿は名門貴族を圧倒するほど気品に満ちていた。

「え、ええええ!? ど、どうして、あなたたちが……ここにいるの!?」

マリーヌ皇女は、取り巻きに支えられながら、乾いた唇から小さな泡を次々と吐き出した。

何かがおかしい。何かが、根本的に間違っている気がする。

しかし、二日酔いと生まれ持った傲慢さが、マリーヌの脳から冷静な判断力を完全に奪い取っていた。彼女は、この状況が何かの間違いであり、父と母に自分の正当性を証明する絶好のチャンスだと信じ込んでいた。

ふらつきながら、足元も定まらない様子で、マリーヌは玉座の間を進んで行った。酒と高級な香水が入り混じった強い匂いが、彼女の歩いた後に漂っていた。乱れた髪や腫れぼったい目元も、今は頭が混乱していて気に留める余裕はなかった。

「――マリーヌ」
「は、はひぃ!? おとぅしゃま!」

皇帝レオニードの声を聞いたマリーヌは、びっくりして肩を震わせながら返事をした。

「マリーヌ、その恥ずかしい姿、どうしてそのような状態でここにいるのだ?」

レオニードは眉間に深いしわを寄せ、低い声で怒りを抑えながら言った。しかし、マリーヌは酔っていてその微妙な感情に気づかなかった。ただ、言われたことは理解できたので、どう答えたら良いのか分からずに悩んでいた。

たくさんの男性たちと浮かれて明け方まで騒ぎ続けたなんて、こんな大勢の家臣たちが見守る玉座の間で、口に出せるはずがない。

「あの、そ、それは、ちょっと言いづらいんですが、少しばかり……事情がありまして……」

マリーヌは何かを言わなければならないと思い、口を開くが出てくるのは言い訳ばかりで、言葉がうまく繋がらない。酔っているせいか、呂律も回っていない。

「マリーヌ、昨日、私のに対して、いったいどんなことをしたのか、全て正直に話すのだ」

皇帝レオニードは、澄んだ瞳で娘を見つめながら尋ねた。その視線はまっすぐで、真剣そのものだった。マリーヌには、その真剣な態度と冷静な声が、逆に不安を呼び起こさせた。
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