私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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元婚約者と皇帝陛下の元へ

「わんわん!」

エリザベートが歩みを進めようとした瞬間、ヴィクトルが必死にその後ろを追いかけてきた。何かを伝えたそうな表情を浮かべて。

「ヴィクトルどうしたのですか?」
「ヴィクトルお待ちなさい!」

令嬢たちは、急に走り出したヴィクトルを見て、驚きと疑問の表情を浮かべながらその後を追いかけた。彼に何かが起こったのだろうかと、誰もが不思議に思っていた。マリーヌ皇女から面倒を見るように言われていたため、ヴィクトルに何かあったら叱責されるのは避けられないので心配が募るばかりだった。

「きゃんきゃん!」

ヴィクトルはお尻を大きく振りながら喜びに満ちた声を上げて、エリザベートの周りを飛び跳ねるように走り回っていた。

「え!? ちょっと……なに!?」

エリザベートは困惑して思わず足を止めた。ヴィクトルが駆け寄ってきて、目を輝かせながら自分の周りをぐるぐると回り続ける。その姿に、何が起こったのか分からず戸惑っていた。そこへ令嬢たちが慌ただしく駆けつけてきた。

「ヴィクトル!」
「だめ! おやめなさい!」
「ガウッ!」 

令嬢たちがしつけるように注意を促すが、ヴィクトルはその言葉に耳を貸さず、怒りを込めて鋭く吠えるばかりだった。

「静かにして、じっとしていなさい!」
「ヴィクトル、言うことをお聞きなさい!」
「ガルルッ!」

低く唸る彼の反抗的な態度に、どうしたら良いのか令嬢たちは顔を見合わせ困った表情を浮かべる。エリザベートも目の前で繰り広げられる奇妙な状況に混乱するばかりだった。

「ヴィクトル、おとなしくして」
「あう~ん、くぅ~ん、くぅ~ん」

エリザベートはヴィクトルに向かって注意する。その言葉を受けて、ヴィクトルは小さく鳴きながら、体をエリザベートにすり寄せた。甘えた声で撫でてもらいたいとでも言うように、ふわふわとした鳴き声をあげる。

「えぇ!? 一体どういうこと?」
「うそっ!? なんで?」

令嬢たちはその光景に目を見開き、驚きの声が廊下に響き渡った。ヴィクトルの予想外の行動に、令嬢たちは驚きを抑えきれなかった。エリザベートはその反応を見て少し呆れながらも、しょうがないなあといった様子でヴィクトルを撫でてやるのだった。

「「「「「エリザベート様、大変ご迷惑をおかけいたしました。先日はご無礼をお許しください。マリーヌ皇女の指示で仕方なく……本当に申し訳ございませんでした」」」」」

令嬢たちは一斉に謝罪の言葉を口にした。どうやら皆で事前に練習したのだろう、セリフがぴったりと揃っていた。その瞬間、私は自分が帝国の貧しい男爵家の娘ではなく、クロイツベルク家の令嬢として見られていることを実感した。マリーヌ皇女のように平民区に追放され、平民の生活を送ることを避けたかったのだろうなと感じた。

「――それでは、この犬を少しお借りしてよろしいでしょうか?」
「「「「「どうぞ、エリザベート様、ご自由にお使いください」」」」」

エリザベートはそう言うと、元婚約者のヴィクトルを連れて皇帝陛下のもとに向かった。令嬢たちは、気にせずどうぞお連れくださいと言わんばかりの様子で見送っていた。

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