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第14話 迷走騎士の突撃
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怒りという感情は、熱力学的に見て非常に非効率だ。体温を上昇させ、心拍数を上げ、無駄にカロリーを消費する割に、外部への仕事量として出力される成果は微々たるものだ。大声を張り上げたり、物を壊したりしたところで、事態は何一つ解決しない。
だから私は、怒りを燃料として保存することにしている。感情を冷やして整理し、無駄をそぎ落とす。そうして生まれた高密度の殺意……もとい行動計画を最適な瞬間に解き放つ。
執務室の窓から、一台の派手な馬車が入ってくるのが見えた。車輪のスポークにまで金箔が施された悪趣味な馬車。オルレアン伯爵家の紋章が描かれている。中から降りてきたのは予想通り、我が婚約者エドガー・オルレアンだった。
彼はまるで、竜を倒すためにやってきた勇敢な聖騎士のように胸を張り、堂々と玄関へ歩いてくる。しかし実際は、借金だらけの情けないドン・キホーテなのだ。
「……来たわね」
私は手元の書類をトントンと整え、机の上の配置を確認した。右側に、昨日作成した『未収金一覧表』。左側に、過去三年の『融資契約書原本』。そして中央には、冷めかけた紅茶。
舞台装置は整った。扉の向こうで、ジェラルドが彼を止める声がするが、それを振り切って足音が近づいてくる。私はゆっくりと息を吐き、表情筋のスイッチを切った。さあ、喜劇の幕開けだ。
バンッ! と大きな音を立てて、執務室の両開きの扉が開かれた。蝶番が悲鳴を上げているので、後で修繕費を請求リストに追加しておこう。
「セリーヌ! どういうつもりだ!」
エドガー様は、肩で息をしながら私を睨みつけた。今日の装いは、淡いブルーの燕尾服。首元にはシルクのスカーフ。整えられた金髪が、窓からの光を受けてキラキラと輝いている。確かに、見た目だけは良い。実を結ばない徒花だが、鑑賞用の植物としては優秀だ。
「ごきげんよう、エドガー様。ノックという礼儀作法をお忘れですか? 貴族院の初等科で習ったはずですが」
「そんなことを言っている場合か! ローザが泣いていたぞ!」
彼は大股で机の前まで歩み寄ると、ドンと拳を叩きつけた。
「ローザから聞いたよ。君が使用人たちを不当に解雇し、食事の質を落とし、あまつさえ新しいドレスの注文までキャンセルしたそうじゃないか! 正気なのか!?」
「ええ、極めて正気です。医学的にも法的にも」
「屁理屈を言うな! ローザは育ち盛りで、繊細な女の子なんだ。甘いお菓子も、綺麗なドレスも、彼女にとっては心の栄養なんだぞ。それを奪うなんて、君は鬼か悪魔か……いや、血も涙もない事務機械だ!」
事務機械。またその言葉か。彼の中でそれが最大の侮辱語なのだろうが、私にとっては褒め言葉だ。機械はミスをしないし裏切らない。
「エドガー様。一つ訂正させていただきます」
私は口を開いた。あなたのその無知な自信には呆れるわ。
「使用人の解雇は『不当』ではありません。横領という犯罪行為に対する『懲戒処分』です。そして、食事とドレスの制限は『嫌がらせ』ではありません。破産寸前の財政を立て直すための『緊縮財政措置』です」
「破産寸前? 大げさなことを言うな。公爵家だぞ? 金なんていくらでもあるだろう!」
「……本気でおっしゃっていますの?」
私は呆れを通り越して、純粋な学術的興味すら覚えた。彼の脳内では、金貨は湧き水のように地面から湧いてくる設定になっているのだろうか? ローザやイザベルと同じで、経済観念の欠落がここまで深刻だとは思わなかった。
だから私は、怒りを燃料として保存することにしている。感情を冷やして整理し、無駄をそぎ落とす。そうして生まれた高密度の殺意……もとい行動計画を最適な瞬間に解き放つ。
執務室の窓から、一台の派手な馬車が入ってくるのが見えた。車輪のスポークにまで金箔が施された悪趣味な馬車。オルレアン伯爵家の紋章が描かれている。中から降りてきたのは予想通り、我が婚約者エドガー・オルレアンだった。
彼はまるで、竜を倒すためにやってきた勇敢な聖騎士のように胸を張り、堂々と玄関へ歩いてくる。しかし実際は、借金だらけの情けないドン・キホーテなのだ。
「……来たわね」
私は手元の書類をトントンと整え、机の上の配置を確認した。右側に、昨日作成した『未収金一覧表』。左側に、過去三年の『融資契約書原本』。そして中央には、冷めかけた紅茶。
舞台装置は整った。扉の向こうで、ジェラルドが彼を止める声がするが、それを振り切って足音が近づいてくる。私はゆっくりと息を吐き、表情筋のスイッチを切った。さあ、喜劇の幕開けだ。
バンッ! と大きな音を立てて、執務室の両開きの扉が開かれた。蝶番が悲鳴を上げているので、後で修繕費を請求リストに追加しておこう。
「セリーヌ! どういうつもりだ!」
エドガー様は、肩で息をしながら私を睨みつけた。今日の装いは、淡いブルーの燕尾服。首元にはシルクのスカーフ。整えられた金髪が、窓からの光を受けてキラキラと輝いている。確かに、見た目だけは良い。実を結ばない徒花だが、鑑賞用の植物としては優秀だ。
「ごきげんよう、エドガー様。ノックという礼儀作法をお忘れですか? 貴族院の初等科で習ったはずですが」
「そんなことを言っている場合か! ローザが泣いていたぞ!」
彼は大股で机の前まで歩み寄ると、ドンと拳を叩きつけた。
「ローザから聞いたよ。君が使用人たちを不当に解雇し、食事の質を落とし、あまつさえ新しいドレスの注文までキャンセルしたそうじゃないか! 正気なのか!?」
「ええ、極めて正気です。医学的にも法的にも」
「屁理屈を言うな! ローザは育ち盛りで、繊細な女の子なんだ。甘いお菓子も、綺麗なドレスも、彼女にとっては心の栄養なんだぞ。それを奪うなんて、君は鬼か悪魔か……いや、血も涙もない事務機械だ!」
事務機械。またその言葉か。彼の中でそれが最大の侮辱語なのだろうが、私にとっては褒め言葉だ。機械はミスをしないし裏切らない。
「エドガー様。一つ訂正させていただきます」
私は口を開いた。あなたのその無知な自信には呆れるわ。
「使用人の解雇は『不当』ではありません。横領という犯罪行為に対する『懲戒処分』です。そして、食事とドレスの制限は『嫌がらせ』ではありません。破産寸前の財政を立て直すための『緊縮財政措置』です」
「破産寸前? 大げさなことを言うな。公爵家だぞ? 金なんていくらでもあるだろう!」
「……本気でおっしゃっていますの?」
私は呆れを通り越して、純粋な学術的興味すら覚えた。彼の脳内では、金貨は湧き水のように地面から湧いてくる設定になっているのだろうか? ローザやイザベルと同じで、経済観念の欠落がここまで深刻だとは思わなかった。
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