妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈

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第25話 衝撃の出会い

「エドガー様、やめてください! 迷惑です!」
「いいんだセリーヌ! 君は下がってて!  僕が守ってやるから!」

守る? 貴方が壊しているのよ!

「なんだ、フォンテーヌ家はを飼っているのかね? こんな品位のない家とは取引できんな」

どうにかエドガー様を引き離したものの、ダグラス氏は呆れた表情のまま席を立とうとした。
 
交渉決裂の危機。私が頭を抱えそうになった時――

「……騒々しいな。動物園は別の場所にあるはずだが」

低くて、よく通る声がひびいた。廊下から、一人の男が入ってきた。背が高く、黒い髪を手でさっとなでつけて黒いコートを着ていた。その目は黒く、じっとしていてとても鋭い。

きらきらした飾りはつけていないのに、その男が現れただけで、まわりの空気が急に冷たくなった気がした。

『この人は強くてかっこいい』私はそう感じて言葉を失った。

彼は、暴れるエドガー様の襟首を、まるで猫をつまむように片手で掴み上げた。

「ぐぇっ!?」
「商談の場だ。発情期の猿は森へ帰れ」
「な、何をする! 僕は伯爵家の……」
「知らん。だが、私の視界に入ると不愉快だ」

男は手首を軽く返しただけで、エドガー様を部屋の外へと放り投げた。ドサッ、という情けない音と共に、エドガー様は廊下に転がる。

男は埃を払うように手を叩くと、ダグラス氏の方を見た。

「ダグラス。……貴様、私の領地を通るが遅れているようだが?」
「ひぃっ!? シュナイダー閣下!?」

あの偉そうだったダグラス氏が、まるでカエルみたいに体を小さくした。私は首をかしげる。シュナイダー? その名前、どこかで聞いたことがある。

思い出した。北の端っこを治めている大貴族だ。周りからは『氷鉄の公爵』と呼ばれていて、恐ろしい男だという話だった。社交の場には、ほとんど来ないらしい。感情よりも理屈を大事にして、ムダなことをしない人だと噂されている。だからこそ、その名前を聞いただけで、ダグラス氏は震え上がってしまったのだろう。

「そちらの女性との『商談中』だったようだな。邪魔をしてすまない。……続けてくれ」

シュナイダー様は、私を一度だけ見ました。その目は私を疑ったり、値段をつけるようなものではありません。落ち着いて、何が起きているのかを確かめているだけでした。

「あ、ありがとうございます……」
「礼には及ばない。……だが、先ほどの貴女の反論、悪くなかった。流通コストと値下げ幅の乖離かいり(ギャップ)を突く点は理に適っている」

彼はわずかに口角を上げた。なんか笑顔が怖い。

「感情で喚く男より、数字で語る女の方が、私は好みだ」

ドクリ、と心臓が跳ねた。それはエドガー様に感じたような不快な動悸ではなく、知的な興奮に近い感覚。私の論理を理解し、評価してくれる人がここにいる。

エドガー様は衛兵に引きずられて退場し、ダグラス氏はシュナイダー様の威光に恐れをなして、私の提示した条件をすべて丸呑みした。彼のおかげで完全勝利だけど、私の関心はすでに商談の結果よりも、目の前の黒衣の男に向いていた。

商談後、ギルドのラウンジにて。

「助けていただき、感謝いたします。シュナイダー様」
「偶然だ。たまたま通りかかっただけだ」

彼は無愛想にコーヒーを飲んでいる。砂糖もミルクも入れないブラックだ。

「それにしても……あの猿(エドガー)は、貴女の何だ?」
「……お恥ずかしい話ですが、形式上は婚約者で不良債権です」
「あははは、不良債権か。なるほど、よく言ったものだ」

彼は楽しそうに笑って私の顔を見た。くすっと、喉の奥からこぼれるような笑いだった。

「今は処理に困る問題児ですけど」
「君は本当に面白い女性だな」
「そうですか?」

彼と話していると、声がやさしくて耳に心地よく残った。声を聞いているうちに、なぜか胸の奥が少しずつ落ち着いていく。

「貴女の名は?」
「セリーヌ・フォンテーヌと申します」
「フォンテーヌ……ああ、あの『傾きかけた名門』か」

失礼な物言いだが、事実なので反論できない。

「噂では、内情は火の車だと聞いていたが……貴女のようながいるなら、持ち直すかもしれんな」
「財務官ではありません。当主代行です」
「ふむ。……気に入った」

彼は懐から一枚の名刺を取り出し、テーブルに滑らせた。

「私の領地では、今、大規模な都市開発を進めている。だが、数字に強い人材が不足していてね。……もし、その不良債権に愛想が尽きたら、私のところに来い。好条件で雇ってやる」

それは、実質的なヘッドハンティングだった。公爵令嬢に対する誘い文句としてはあまりに無骨で色気がない「結婚してくれ」ではなく「雇ってやる」。だが、私にとっては、どんな甘い愛の言葉よりも魅力的な提案(オファー)に聞こえた。

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