幼馴染を溺愛する彼へ ~婚約破棄はご自由に~

佐藤 美奈

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第72話

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そして、初対面の日はやってきた。
王宮の一室、柔らかな陽光が差し込むサンルームで、その人は待っていた。

カイ様と同じく、艶やかな黒髪を持ち合わせていたが、その人物の瞳は、カイ様の深い蒼とは異なり、まるで世界のすべてを見透かしているかのような、明るく輝く金色を宿していた。彼の知恵と経験を物語るかのように深く温かみを感じさせる。

年齢はカイ様よりも五つほど年上だろうか、その容貌には成熟した魅力が漂っていた。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その立ち居振る舞いは決して軽薄ではなく、国王としての威厳と気品がひと目で伝わってくる。思わず胸が引き締まるような感覚を覚えた。

ルーカス様は、私の姿を見つけると、その瞳に一瞬の驚きの色が浮かんだ後、すぐに優しげな微笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってきた。目の前に立つと、あふれるような温かい笑顔と穏やかな眼差しに、私は思わず心が和らぐのを感じた。その笑顔は、私の存在を歓迎しているかのように優しさを振りまき、空気さえも柔らかく変えるようだった。

「君が、アイラ嬢だね。カイから話はよく聞いているよ。噂に違わぬ、美しい女性だ」

その声は、柔らかな音色のように甘く心地よく耳に響き渡った。一瞬の間に、空気がその優雅さに包まれるかのような、静かな力強さを感じさせる声だった。

私はその声に少し戸惑いながらも、貴族令嬢としてのしっかりとした教養を守るべく、頭を下げ完璧なカーテシーで応じた。丁寧でありながらもどこか優雅で気品を失うことなく。

「お目にかかれて光栄です、ルーカス陛下。アイラ・フォン・バランシュナイルと申します」

「ああ、そんなに固くならないでくれ。カイの……大切な人なのだから、もっと気楽にしていい」

そう言って、彼は穏やかな手のひらで私の手を取り、優雅にその甲に恭しく口づけを落とした。その仕草は、まるで一世一代の舞踏会のように、洗練された美しさを感じさせるものだった。

滑らかで無駄がなく、まさに理想的なエスコートそのものだった。物腰もまた、気配りが行き届き、他人の気持ちを思いやる余裕すら感じさせるもので、まさに王族としての品格を体現しているかのように感じた。

カイ様が言っていた“変わった人”という印象は、どこを見渡しても見当たらず、むしろ彼が持つべき王族としての気高さ穏やかさ、そして完璧な教養が、そのすべてを引き立てていた。

「俺は、兄として、いつもこの愚弟のことを心配しているんだ。何せ、少しばかり世間知らずで、人を信じやすいところがあるからね」

「……兄上。アイラの前で、そのようなことを言うのはおやめください」

カイ様は、少し気まずそうに表情を曇らせながらも、はっきりとした口調で兄に対して咎めの言葉を投げかけた。しかし、ルーカス様はその様子を見て、面白いことを見たかのように楽しげに肩をすくめてみせた。その動作は、何も気にせず、むしろ自分の行動がカイ様を少しばかり困らせていることを楽しんでいるかのように見えた。

「おっと、すまない。だが、君のような素敵な女性が現れて、俺も安心したよ。弟の世話を、よろしく頼む」

「いえ、そんな……私の方こそ、カイ様にはいつも助けていただいて……」

「まあ、細かいことはどうでもいいさ。結局のところ、大切なのは君が幸せそうでいることだろう? それだけで、私は十分満足だ。カイが、こんなに誰かに夢中になる姿を見るのは、リディアのとき以来かもしれないな」

その言葉には、深い思いやりと少しの冗談が巧みに織り交ぜられており、温かな兄の微笑みが自然と浮かんでいるように感じられた。しかし、次の瞬間、その金色の瞳が意味ありげに細められ、何かを察したかのような表情を浮かべた。

その一瞬の変化に、私は思わず息を呑んだ。穏やかな笑顔を浮かべていた彼の裏に、何か別の感情がひそかに隠れているような気がして、胸の奥に不安の兆しが走った。その瞳の奥深くに、得体のしれないものが潜んでいるような感覚にとらわれ、私は背筋を通る微かな悪寒を感じずにはいられなかった。
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