72 / 83
第72話
しおりを挟む
そして、初対面の日はやってきた。
王宮の一室、柔らかな陽光が差し込むサンルームで、その人は待っていた。
カイ様と同じく、艶やかな黒髪を持ち合わせていたが、その人物の瞳は、カイ様の深い蒼とは異なり、まるで世界のすべてを見透かしているかのような、明るく輝く金色を宿していた。彼の知恵と経験を物語るかのように深く温かみを感じさせる。
年齢はカイ様よりも五つほど年上だろうか、その容貌には成熟した魅力が漂っていた。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その立ち居振る舞いは決して軽薄ではなく、国王としての威厳と気品がひと目で伝わってくる。思わず胸が引き締まるような感覚を覚えた。
ルーカス様は、私の姿を見つけると、その瞳に一瞬の驚きの色が浮かんだ後、すぐに優しげな微笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってきた。目の前に立つと、あふれるような温かい笑顔と穏やかな眼差しに、私は思わず心が和らぐのを感じた。その笑顔は、私の存在を歓迎しているかのように優しさを振りまき、空気さえも柔らかく変えるようだった。
「君が、アイラ嬢だね。カイから話はよく聞いているよ。噂に違わぬ、美しい女性だ」
その声は、柔らかな音色のように甘く心地よく耳に響き渡った。一瞬の間に、空気がその優雅さに包まれるかのような、静かな力強さを感じさせる声だった。
私はその声に少し戸惑いながらも、貴族令嬢としてのしっかりとした教養を守るべく、頭を下げ完璧なカーテシーで応じた。丁寧でありながらもどこか優雅で気品を失うことなく。
「お目にかかれて光栄です、ルーカス陛下。アイラ・フォン・バランシュナイルと申します」
「ああ、そんなに固くならないでくれ。カイの……大切な人なのだから、もっと気楽にしていい」
そう言って、彼は穏やかな手のひらで私の手を取り、優雅にその甲に恭しく口づけを落とした。その仕草は、まるで一世一代の舞踏会のように、洗練された美しさを感じさせるものだった。
滑らかで無駄がなく、まさに理想的なエスコートそのものだった。物腰もまた、気配りが行き届き、他人の気持ちを思いやる余裕すら感じさせるもので、まさに王族としての品格を体現しているかのように感じた。
カイ様が言っていた“変わった人”という印象は、どこを見渡しても見当たらず、むしろ彼が持つべき王族としての気高さ穏やかさ、そして完璧な教養が、そのすべてを引き立てていた。
「俺は、兄として、いつもこの愚弟のことを心配しているんだ。何せ、少しばかり世間知らずで、人を信じやすいところがあるからね」
「……兄上。アイラの前で、そのようなことを言うのはおやめください」
カイ様は、少し気まずそうに表情を曇らせながらも、はっきりとした口調で兄に対して咎めの言葉を投げかけた。しかし、ルーカス様はその様子を見て、面白いことを見たかのように楽しげに肩をすくめてみせた。その動作は、何も気にせず、むしろ自分の行動がカイ様を少しばかり困らせていることを楽しんでいるかのように見えた。
「おっと、すまない。だが、君のような素敵な女性が現れて、俺も安心したよ。弟の世話を、よろしく頼む」
「いえ、そんな……私の方こそ、カイ様にはいつも助けていただいて……」
「まあ、細かいことはどうでもいいさ。結局のところ、大切なのは君が幸せそうでいることだろう? それだけで、私は十分満足だ。カイが、こんなに誰かに夢中になる姿を見るのは、リディアのとき以来かもしれないな」
その言葉には、深い思いやりと少しの冗談が巧みに織り交ぜられており、温かな兄の微笑みが自然と浮かんでいるように感じられた。しかし、次の瞬間、その金色の瞳が意味ありげに細められ、何かを察したかのような表情を浮かべた。
その一瞬の変化に、私は思わず息を呑んだ。穏やかな笑顔を浮かべていた彼の裏に、何か別の感情がひそかに隠れているような気がして、胸の奥に不安の兆しが走った。その瞳の奥深くに、得体のしれないものが潜んでいるような感覚にとらわれ、私は背筋を通る微かな悪寒を感じずにはいられなかった。
王宮の一室、柔らかな陽光が差し込むサンルームで、その人は待っていた。
カイ様と同じく、艶やかな黒髪を持ち合わせていたが、その人物の瞳は、カイ様の深い蒼とは異なり、まるで世界のすべてを見透かしているかのような、明るく輝く金色を宿していた。彼の知恵と経験を物語るかのように深く温かみを感じさせる。
年齢はカイ様よりも五つほど年上だろうか、その容貌には成熟した魅力が漂っていた。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その立ち居振る舞いは決して軽薄ではなく、国王としての威厳と気品がひと目で伝わってくる。思わず胸が引き締まるような感覚を覚えた。
ルーカス様は、私の姿を見つけると、その瞳に一瞬の驚きの色が浮かんだ後、すぐに優しげな微笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってきた。目の前に立つと、あふれるような温かい笑顔と穏やかな眼差しに、私は思わず心が和らぐのを感じた。その笑顔は、私の存在を歓迎しているかのように優しさを振りまき、空気さえも柔らかく変えるようだった。
「君が、アイラ嬢だね。カイから話はよく聞いているよ。噂に違わぬ、美しい女性だ」
その声は、柔らかな音色のように甘く心地よく耳に響き渡った。一瞬の間に、空気がその優雅さに包まれるかのような、静かな力強さを感じさせる声だった。
私はその声に少し戸惑いながらも、貴族令嬢としてのしっかりとした教養を守るべく、頭を下げ完璧なカーテシーで応じた。丁寧でありながらもどこか優雅で気品を失うことなく。
「お目にかかれて光栄です、ルーカス陛下。アイラ・フォン・バランシュナイルと申します」
「ああ、そんなに固くならないでくれ。カイの……大切な人なのだから、もっと気楽にしていい」
そう言って、彼は穏やかな手のひらで私の手を取り、優雅にその甲に恭しく口づけを落とした。その仕草は、まるで一世一代の舞踏会のように、洗練された美しさを感じさせるものだった。
滑らかで無駄がなく、まさに理想的なエスコートそのものだった。物腰もまた、気配りが行き届き、他人の気持ちを思いやる余裕すら感じさせるもので、まさに王族としての品格を体現しているかのように感じた。
カイ様が言っていた“変わった人”という印象は、どこを見渡しても見当たらず、むしろ彼が持つべき王族としての気高さ穏やかさ、そして完璧な教養が、そのすべてを引き立てていた。
「俺は、兄として、いつもこの愚弟のことを心配しているんだ。何せ、少しばかり世間知らずで、人を信じやすいところがあるからね」
「……兄上。アイラの前で、そのようなことを言うのはおやめください」
カイ様は、少し気まずそうに表情を曇らせながらも、はっきりとした口調で兄に対して咎めの言葉を投げかけた。しかし、ルーカス様はその様子を見て、面白いことを見たかのように楽しげに肩をすくめてみせた。その動作は、何も気にせず、むしろ自分の行動がカイ様を少しばかり困らせていることを楽しんでいるかのように見えた。
「おっと、すまない。だが、君のような素敵な女性が現れて、俺も安心したよ。弟の世話を、よろしく頼む」
「いえ、そんな……私の方こそ、カイ様にはいつも助けていただいて……」
「まあ、細かいことはどうでもいいさ。結局のところ、大切なのは君が幸せそうでいることだろう? それだけで、私は十分満足だ。カイが、こんなに誰かに夢中になる姿を見るのは、リディアのとき以来かもしれないな」
その言葉には、深い思いやりと少しの冗談が巧みに織り交ぜられており、温かな兄の微笑みが自然と浮かんでいるように感じられた。しかし、次の瞬間、その金色の瞳が意味ありげに細められ、何かを察したかのような表情を浮かべた。
その一瞬の変化に、私は思わず息を呑んだ。穏やかな笑顔を浮かべていた彼の裏に、何か別の感情がひそかに隠れているような気がして、胸の奥に不安の兆しが走った。その瞳の奥深くに、得体のしれないものが潜んでいるような感覚にとらわれ、私は背筋を通る微かな悪寒を感じずにはいられなかった。
594
あなたにおすすめの小説
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
幼馴染に夢中の夫を捨てた貴婦人は、王太子に熱愛される
Narian
恋愛
アイリスの夫ロイは、新婚の頃から金髪の愛らしい幼馴染・フローラに夢中で、妻には見向きもしなかった。
夫からは蔑ろにされ、夫の両親からは罵られ、フローラからは見下される日々。そしてアイリスは、ついに決意する。
「それほど幼馴染が大切なら、どうぞご自由に。私は出て行って差し上げます」
これは、虐げられた主人公が、過去を断ち切り幸せを掴む物語。
※19話完結。
毎日夜9時ごろに投稿予定です。朝に投稿することも。お気に入り登録していただけたら嬉しいです♪
【完結】私と婚約破棄して恋人と結婚する? ならば即刻我が家から出ていって頂きます
水月 潮
恋愛
ソフィア・リシャール侯爵令嬢にはビクター・ダリオ子爵令息という婚約者がいる。
ビクターは両親が亡くなっており、ダリオ子爵家は早々にビクターの叔父に乗っ取られていた。
ソフィアの母とビクターの母は友人で、彼女が生前書いた”ビクターのことを託す”手紙が届き、亡き友人の願いによりソフィアの母はビクターを引き取り、ソフィアの婚約者にすることにした。
しかし、ソフィアとビクターの結婚式の三ヶ月前、ビクターはブリジット・サルー男爵令嬢をリシャール侯爵邸に連れてきて、彼女と結婚するからソフィアと婚約破棄すると告げる。
※設定は緩いです。物語としてお楽しみ頂けたらと思います。
*HOTランキング1位到達(2021.8.17)
ありがとうございます(*≧∀≦*)
捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来
鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」
婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。
王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。
アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。
だが、彼女は決して屈しない。
「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」
そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。
――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。
彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる