もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈

文字の大きさ
16 / 33

父と兄を追放

そんな父と兄の迷惑な頑張りをよそに、母は我が家の法律顧問を呼びつけていた。父との離婚と兄を戸籍から削除するための手続きを淡々と進めていた。

父と兄の自分勝手な奉仕は、三日間続いた。最終日の朝、二人はやりきったという満足げな顔で母の前に立った。その顔には、これだけ頑張ったのだから許してくれるだろう。そんな甘い期待が、目に見えるように浮かんでいた。

「母様! 俺たちは、心を入れ替えたんです! この通り、頑張りました!」

「イリス、見てくれただろうか。この三日間の頑張りを。少しは、私とジョージの気持ちを汲んでくれてもいいんじゃないか?」

寝言は寝て言え。そのふざけたアピールに、私と母は心の底から思った。

母は、紅茶を一口飲むと、切れ味鋭い刃のような視線を向けた。

「だから、何ですの?」

その一言で、父と兄の顔から自信が消え去った。

「もう答えは出ている、と申し上げましたよね」

母の言葉は、最後の通告だった。何をされようと、どんな言葉を聞かされようと、一度下した決断が覆ることはないのだと――

「な、なんでだよ! 俺はまだ母様やセラフィーナと、家族として一緒にいたいんだよ! セラフィーナ、今度一緒に買い物に行こう!」

兄が、子供のように駄々をこねる。

「イリス、もう少し時間をくれてもいいだろう! これからは、昔のように何よりも家族を一番に考えるから! そうだ、イリス。最近はスキンシップを取っていなかったな、本当は寂しかったのだろう?」

父も必死に食い下がり、調子に乗った言葉を口にしてくる。だが、もう遅い。全てが手遅れなのだ。

母は黙って一枚の羊皮紙をテーブルの上に滑らせた。それは、ジョージ・リヒテンベルクを公爵家の戸籍から正式に除籍したことを証明する書状だった。そして、もう一枚はダニエル・リヒテンベルクとの離婚が記録された羊皮紙。家系登録所で正式に離婚を認めるという証印と、母の署名がしてある。インクは、まだ乾ききっていないように見えた。

「ダニエルとは離婚しました。ジョージも、もう私の息子ではありません」

母が当主なので、その権力は絶対だ。手続きは、驚くべき速さで完了していた。父との婚姻は解消され、兄はもはや公爵家の人間ではなくなった。法的に、二人とも完全にになったのだ。

「そ、そんな!? 母様……」

「イリス、嘘だと言ってくれ……」

父と兄が、目を見開き、書類を凝視している。現実を受け入れられないかのような、信じることができないという顔をしていた。その背後で、いつの間にか屈強な公爵家の騎士たちが壁際に整列していた。

「この、愚かな平民の男たちを、屋敷から叩き出しなさい!」

母は立ち上がり、家族の情を断ち切るように命じた。

「貴様ら、何をする! 放せ! おい、待ってくれ! イリス、助けてくれ!」

「おい、やめろ! 俺に触るな! 俺を誰だと思ってる、次期公爵家当主だぞ! セラフィーナ何をしている、俺を助けろ!」

騎士たちは、ごねる二人を無慈悲に捕らえる。今まで自分たちを守っていた騎士たちに追い出される父と兄。公爵家の者としての身分を失った彼らは不審者として扱われた。

兄が必死に私に助けを求めて叫んでいたが、私も母と同じように情を断ち切った表情で兄を見捨てた。母の顔を見ると、涙がこぼれそうになっていた。こんな形で家族が壊れ、母が苦しんでいることを思うと胸が痛み、どうしようもなく悲しくなった。

「イリスぅううう! イリス、私が悪かったら、頼むからぁぁぁ! お願いだぁぁぁぁぁ!」

「母様ああぁぁぁ、どうかぁぁぁぁ! お許しをぉぉぉぉ! セラフィーナあああぁぁぁぁぁ!」

騎士たちは、ゴミでも運び出すかのように、二人を屋敷の外へと無情に引きずり出していった。最後まで父と兄の涙ながらの叫びが、屋敷の隅々にまで広がり、高い天井を超えて虚しく響き渡っていた。

あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される

かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティ。 傲慢で我儘と噂される私には、婚約者である王太子殿下からドレスが贈られることもなく、エスコートもない… そして会場では冤罪による婚約破棄を突きつけられる。 味方なんて誰も居ない… そんな中、私を助け出してくれたのは、帝国の皇帝陛下だった!? ***** HOTランキング入りありがとうございます ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

真実の愛のお相手に婚約者を譲ろうと頑張った結果、毎回のように戻ってくる件

さこの
恋愛
好きな人ができたんだ。 婚約者であるフェリクスが切々と語ってくる。 でもどうすれば振り向いてくれるか分からないんだ。なぜかいつも相談を受ける プレゼントを渡したいんだ。 それならばこちらはいかがですか?王都で流行っていますよ? 甘いものが好きらしいんだよ それならば次回のお茶会で、こちらのスイーツをお出ししましょう。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20