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戻ってきた父と兄
屋敷の外に放り出された父と兄は、最初はどこかに行ったようだが数日で戻ってきた。それからずっと門の前で雨に打たれながら、私と母の名を呼び続けたらしい。
門番は父と兄に、あっちに行けと追い払ったようだが、父と兄は門番の忠告を無視して居座り続けているそうだ。門番にとっては、厳しく注意するのも気が引ける。数日前まで、公爵家の主とその跡継ぎだったのだから。門番たちはどうすべきか分からず、母に相談を持ちかけた。
私と母は、門の外で疲れ果てたように寝転がっている父と兄に、胸の奥でため息をついた。数日の間に、父と兄は貴族の誇りとはかけ離れた存在に見えた。母は、しばらく黙った後、呆れたように声をかけた。
「――あなた達、何をしているのですか?」
その言葉に、父と兄は驚いて顔を上げた。母の声が響いた瞬間、その表情がわずかに明るくなる。
「イリス!」
「母様!」
母の声に応じ、二人は希望を取り戻したかのようにその名を呼ぶ。その前は、父と兄の顔には、これまで見たことのないような無力さと絶望が浮かんでいた。数日の間に何かあったのだろう。彼らの服はひどく汚れ、体力も心も消耗しきっている様子だった。
「次に同じように呼ぶなら、罰を与えることになります。もうあなた達は、家族ではないことを忘れないでください」
母の厳しい言葉が、父と兄の心に強く刻まれた。父と兄は、家族としての絆が切れてしまったことを、まだ信じたくなかった。だが、母に言われて、嫌でもその事実を認識させられた。
最初は、目の前に立つ母の姿に温かさを感じた。しかし、それはすでに過去の話であり、今の母には冷ややかな態度しかなかった。母の警告を受けて、父と兄の顔に緊張が走った。
「「申し訳ありませんでした!」」
父と兄は、自分たちの過ちを理解した様子で、揃って謝罪の言葉を口にした。
兄は、戸籍から除籍され、完全な平民としての運命を背負うこととなった。父は男爵家の息子として生まれたので、実家に戻れば貴族の身分を取り戻せるかもしれない。しかし、それも難しいだろう。
父は姉のオリビアを恐れて、実家に足を踏み入れることができなかった。母と父が離婚したので、リヒテンベルク公爵家からの巨額の財政援助は全て停止した。帰ったところで、当主のオリビアや父の親族たちから手加減なしの制裁が待っているだけだ。
「それで、どうしたのですか?」
「実は、金を盗まれたんだ……」
母が改めて問いかけると、父は心苦しそうに顔を歪めて話し始めた。
「え?」
父からの予想外の言葉に、母は思わず声を漏らした。母は父と離婚して、兄は平民になったが、二人には十分すぎるほどのお金を持たせて送り出した。平民の一生分の稼ぎの百倍以上で、贅沢しても十分余るくらいの額だ。
それを盗まれたなんて。私は、驚きと情けなさで、開いた口が塞がらなかった。
門番は父と兄に、あっちに行けと追い払ったようだが、父と兄は門番の忠告を無視して居座り続けているそうだ。門番にとっては、厳しく注意するのも気が引ける。数日前まで、公爵家の主とその跡継ぎだったのだから。門番たちはどうすべきか分からず、母に相談を持ちかけた。
私と母は、門の外で疲れ果てたように寝転がっている父と兄に、胸の奥でため息をついた。数日の間に、父と兄は貴族の誇りとはかけ離れた存在に見えた。母は、しばらく黙った後、呆れたように声をかけた。
「――あなた達、何をしているのですか?」
その言葉に、父と兄は驚いて顔を上げた。母の声が響いた瞬間、その表情がわずかに明るくなる。
「イリス!」
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母の声に応じ、二人は希望を取り戻したかのようにその名を呼ぶ。その前は、父と兄の顔には、これまで見たことのないような無力さと絶望が浮かんでいた。数日の間に何かあったのだろう。彼らの服はひどく汚れ、体力も心も消耗しきっている様子だった。
「次に同じように呼ぶなら、罰を与えることになります。もうあなた達は、家族ではないことを忘れないでください」
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最初は、目の前に立つ母の姿に温かさを感じた。しかし、それはすでに過去の話であり、今の母には冷ややかな態度しかなかった。母の警告を受けて、父と兄の顔に緊張が走った。
「「申し訳ありませんでした!」」
父と兄は、自分たちの過ちを理解した様子で、揃って謝罪の言葉を口にした。
兄は、戸籍から除籍され、完全な平民としての運命を背負うこととなった。父は男爵家の息子として生まれたので、実家に戻れば貴族の身分を取り戻せるかもしれない。しかし、それも難しいだろう。
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