もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈

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父と兄は騙し取られる

「どうして、そんなことに?」

母の問いかけに、兄は顔を歪ませて不快な感情を表す。

「父様が悪いんだ! あんな男に騙されて金を取られるなんて!」

その言葉に、父は無言で沈黙した。兄の言うように、自分に責任があると感じていたのか心苦しそうに視線を落とした。そして、心から謝るように口を開く。

「だって、あの男は、とても人柄が良さそうな商人だったんだ……」

言い訳じみた父の言葉は、自分を正当化しようとする切羽詰まった声に聞こえた。父は信頼していたようだが、その男が本当に商人なのか疑いを感じる。

母は父の言葉を軽く受け流し、兄のほうを向いた。

「ジョージのお金は?」

兄はその言葉に一瞬だけ戸惑うと、やりきれないという顔で答えた。

「俺の金も、父様に預けていたから……」

「なんてこと……」

それを聞いた母は、悲しみが浮かんだ。私は、父と兄は何をやっているのだという思いだった。 

その後、父と兄は、詳細に話してくれた。要するに、詐欺師に金を騙し取られたのだ。世間知らずで大金を持っていた父と兄は狙われてしまった。詐欺師は善良な顔をして近づき、父に儲け話を持ちかけた。

騙されたと気づいた瞬間、頭の中が真っ白になった。父と兄は、昨日まで親しく会話をしていた男を探し回ったが、すでに姿を消していた。

「その後、仕事を探したが、なかなか見つからなくて……」

父と兄は生まれながらにして貴族の家に生まれた。平民としてどう生きていくかの術すらも持たない彼らが、自力で生活することなどできるはずがなかった。

「お兄…あなたは、他にも選べる道があったのではありませんか?」

私は、無意識でお兄様と呼びそうになったが、すぐに言い直した。癖は簡単に改められるものではない。

兄は、昔から非常にモテていた。かっこいい外見を持っているので、女性に頼りながらのように生きていけるのではないかと思った。あまり褒められた生き方ではないかもしれないが、そういう店も存在するみたいだし、生きるためには仕方なく選ばなければならない。

「男妾か。でも、女から金をとる仕事なんて……俺にはできない」

私の言いたいことが、兄に伝わったようだ。兄はつらそうに目を伏せ、かすれた声を落とした。

「ですが、生きていくためには必要でしょう?」

私の言葉に、しばらくの沈黙のあと、兄はゆっくりと視線を上げた。海のような青く澄んだ瞳には、苦悩と覚悟が混ざり合っている。

「――確かに、生きるためには妥協も必要だ。……けど、女を利用して金を得るなんて、そんな真似をするくらいなら、俺は貧乏でいたほうがましだ!」

その言葉を聞いて、私は一瞬、呼吸を失ったかのように動けなくなった。ああ、兄の心はなんと気高いのだろう。

兄には、まだ誇り高き精神が残っていた。その力強い言葉が、確かに私の胸にも響いていた。

「それでしたら、私に考えがございます」

結局、見かねた母が、一つの提案をする。母は、穏やかで親切そうな表情を浮かべ、しとやかに微笑んでいたが、父と兄への慈悲から来るものでは決してない。もっと残酷で、徹底的な見せしめだった。

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