もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈

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愛を試される家族

 「はははっ、さすがエレーヌ! 公爵家を相手に堂々と渡り合うとは、我が家の誇りだ!」

オリバー伯爵は、腕を組んで満足げに頷いた。だが、その誇りの方向は間違っている。

「ええ、当然ですわ! エレーヌちゃんの尊い心を傷つけた罪、軽くはありませんもの!」

スカーレット夫人は、エレーヌの心を思いやっていた。その様子は、親バカ全開のお手本のようだった。

「“ひざまずけ”とは……妹ながら見事だ!」

 ハリーは真剣な顔で拳を握りしめた。どうやら妹の暴言すら感動の名言に聞こえるらしい。

バーンズ伯爵家は、なぜか本気で盛り上がっていた。

一方で私と母は、そっと目を合わせる。父と兄の表情にも、さすがに常識が追いつかないという気配が漂っていた。

(……だめだ。この家族)

エレーヌの無茶な宣言が終わるや、鉄の足音が迫りくるように響いた。重厚な甲冑を身に着けた騎士たちが規律正しく整列する。彼らの胸には王冠とライオンをあしらったリヒテンベルク公爵家の紋章が光っていた。

先頭の騎士が、厳格な声で告げる。

「オリバー伯爵、スカーレット夫人、ハリー殿、エレーヌ。バーンズ家一同、リヒテンベルク公爵家の威厳を傷つけた罪により、貴殿らの身柄を拘束いたします」

エレーヌの暴言や挑発が直接の引き金となり、ついに行動に結果が現れた。家族全員がエレーヌを擁護した者として同罪と見なされるのは、貴族社会におけるという文化に沿った当然の措置だった。

「なんだと……我が家に手を出すとは、これほどの暴挙が許されるのか!」

「暴れるようなら、多少強引に対処せざるを得ません」

オリバー伯爵は驚きと怒りで反論の言葉を口にしたが、騎士によってすぐに黙らされた。イリスの命令は冷徹だった。一人の騎士が手早く手錠のような金具を取り出し、スカーレット夫人の腕を掴む。ハリーが騎士に飛びかかろうとすると、二人の騎士が即座に押さえつけて動きを封じた。混乱した空気と金属の鳴る音だけが残った。

バーンズ伯爵家の護衛も駆けつけていたが、多勢の前に為す術なく押さえ込まれた。エレーヌは、面食らった顔をしていた。家族や自分の護衛たちが次々と制圧される様子を見て失望が胸を満たす。

「ジョージ……お願いだ! 親友の俺を見捨てるな! ジョーーージーーーーー」

親友同士の二人の目が一瞬、交わった。声を張り上げるハリーだが、ジョージは黙って立っていることしかできない。公爵家から追放され、使用人としての身に落ちたジョージには、何も手立てが残されていなかった

「ハリー、俺はただの使用人だ。助けられなくてすまない」

バーンズ伯爵家の面々と護衛たちは、鉄製の手錠に拘束されたまま牢へと連れて行かれた。

エレーヌを過保護に育ててきた家族は、牢の中で自分たちも困難にあえぎながら、それでもなおエレーヌを見捨てず思いやることができるだろうか。もしそれができれば、彼らのだ。

バーンズ伯爵家の一同は、同じ牢の中に押し込められた。鉄格子の隙間から差し入れられた食事は、唯一エレーヌにだけ与えられたものだった。家族は、その食事の取り合いを始めた。さすがに、この状況では、エレーヌよりも自分の命が優先のようだ。

「――え?」

甘やかされて育ったエレーヌにとって、家族に食事を奪われる光景は予想外のことだった。

「私の食事を取るなんてひどいわ!」

怒りに燃える瞳で父と母、兄に向かって力いっぱい声を張り上げた。

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