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病弱な幼馴染の本性
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セフィーナがいなくなってからの日々は、無味乾燥なものだった。失って初めて、アルディンはセフィーナという存在が自分にどれほど深く根付いていたかを痛感した。婚約して十年間、彼女の存在は空気のように当たり前で、その大切さに気づくことすらなかった。
オルステリア家の財政は、予想通り急速に悪化した。取引先は次々と手を引き、屋敷の維持さえ困難になっていく。両親からの叱責は日増しに厳しくなり、アルディンの心は追い詰められていった。
救いを求めるように、彼はリーシャの元を訪れた。しかし、彼女から返ってきたのは慰めの言葉ではなかった。
「セフィーナ様がいなくなって、せいせいしたわ。あんな女、あなたの隣に相応しくなかったのよ」
リーシャは悪びれる様子もなく、むしろ嬉しそうに言った。その言葉に、アルディンは違和感を覚える。
「それにしても、あの女、しぶとかったわね。私が夜会で着る予定だったドレスにワインをわざとこぼして、あの女に罪をなすりつけたり、あなたからあの女への手紙をこっそり隠したり、十年間、いろんなことをしてあげたのに」
「……え? どうして、そんなことを……?」
アルディンは耳を疑った。リーシャがそんなことを言うはずがない。問い詰めると、リーシャは自分が仕組んだ様々な嫌がらせをあっさりと認めた。いつもセフィーナのドレスを汚したり、手紙を隠したりとリーシャは病弱を盾に、アルディンが知らなかった腹黒い一面を見せた。
「だって、あなたがあの女と一緒にいるのが許せなかったの! あなたの隣は、私の場所なのに!」
セフィーナとの婚約解消を両親に叱責されたこともあり、怒りと後悔とリーシャに騙されていたという屈辱が重なり、アルディンの中で何かが切れた。
「君のせいだ! 君が、君さえいなければ……」
「アルディン?」
彼は我を忘れ、リーシャの華奢な腕を力任せに掴んでいた。怯えて悲鳴を上げるリーシャの顔を見ても、彼の怒りは収まらなかった。初めて見せた暴力的な一面。純粋だと思っていた彼女の裏の顔を知って、守るべきだった婚約者を自らの手で失った絶望の中で、アルディンとリーシャの関係は音を立てて完全に崩壊した。
一方、セフィーナの周りには、穏やかで優しい時間が流れていた。シャール王子は、頻繁に彼女を訪ねては散策や観劇に誘った。
ある晴れた日、二人は郊外へピクニックに出かけた。シャール王子は、以前セフィーナがぽつりと漏らした『スズランの花が好き』という言葉を覚えていて、可愛らしいスズランの花束を彼女に贈った。
「君の笑顔が、私にとって一番の宝物なんだ。だから、これからは私が君をたくさん笑わせたい」
シャールは真っ直ぐな瞳で、そう告げた。アルディンとの関係で、すっかり自信を失い、自分の感情を押し殺すことが当たり前になっていたセフィーナにとって、彼の言葉は乾いた心に染み渡る清らかな水のように感じられた。
「王子殿下は、どうして私に、そこまで……」
「シャール、と呼んでほしい。そして、君はどうしたい? 君自身の気持ちを聞かせてほしいんだ。私は、君の意見を何よりも尊重したい」
アルディンは、いつもリーシャのことばかり気にかけて、私の気持ちにはまったく耳を傾けようとしなかった。私がどうしたいのかではなく、私がどうあるべきかばかりを求められ続けてきた。しかし、シャールは私という人間そのものを見て、心から大切にしてくれた。
オルステリア家の財政は、予想通り急速に悪化した。取引先は次々と手を引き、屋敷の維持さえ困難になっていく。両親からの叱責は日増しに厳しくなり、アルディンの心は追い詰められていった。
救いを求めるように、彼はリーシャの元を訪れた。しかし、彼女から返ってきたのは慰めの言葉ではなかった。
「セフィーナ様がいなくなって、せいせいしたわ。あんな女、あなたの隣に相応しくなかったのよ」
リーシャは悪びれる様子もなく、むしろ嬉しそうに言った。その言葉に、アルディンは違和感を覚える。
「それにしても、あの女、しぶとかったわね。私が夜会で着る予定だったドレスにワインをわざとこぼして、あの女に罪をなすりつけたり、あなたからあの女への手紙をこっそり隠したり、十年間、いろんなことをしてあげたのに」
「……え? どうして、そんなことを……?」
アルディンは耳を疑った。リーシャがそんなことを言うはずがない。問い詰めると、リーシャは自分が仕組んだ様々な嫌がらせをあっさりと認めた。いつもセフィーナのドレスを汚したり、手紙を隠したりとリーシャは病弱を盾に、アルディンが知らなかった腹黒い一面を見せた。
「だって、あなたがあの女と一緒にいるのが許せなかったの! あなたの隣は、私の場所なのに!」
セフィーナとの婚約解消を両親に叱責されたこともあり、怒りと後悔とリーシャに騙されていたという屈辱が重なり、アルディンの中で何かが切れた。
「君のせいだ! 君が、君さえいなければ……」
「アルディン?」
彼は我を忘れ、リーシャの華奢な腕を力任せに掴んでいた。怯えて悲鳴を上げるリーシャの顔を見ても、彼の怒りは収まらなかった。初めて見せた暴力的な一面。純粋だと思っていた彼女の裏の顔を知って、守るべきだった婚約者を自らの手で失った絶望の中で、アルディンとリーシャの関係は音を立てて完全に崩壊した。
一方、セフィーナの周りには、穏やかで優しい時間が流れていた。シャール王子は、頻繁に彼女を訪ねては散策や観劇に誘った。
ある晴れた日、二人は郊外へピクニックに出かけた。シャール王子は、以前セフィーナがぽつりと漏らした『スズランの花が好き』という言葉を覚えていて、可愛らしいスズランの花束を彼女に贈った。
「君の笑顔が、私にとって一番の宝物なんだ。だから、これからは私が君をたくさん笑わせたい」
シャールは真っ直ぐな瞳で、そう告げた。アルディンとの関係で、すっかり自信を失い、自分の感情を押し殺すことが当たり前になっていたセフィーナにとって、彼の言葉は乾いた心に染み渡る清らかな水のように感じられた。
「王子殿下は、どうして私に、そこまで……」
「シャール、と呼んでほしい。そして、君はどうしたい? 君自身の気持ちを聞かせてほしいんだ。私は、君の意見を何よりも尊重したい」
アルディンは、いつもリーシャのことばかり気にかけて、私の気持ちにはまったく耳を傾けようとしなかった。私がどうしたいのかではなく、私がどうあるべきかばかりを求められ続けてきた。しかし、シャールは私という人間そのものを見て、心から大切にしてくれた。
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