病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈

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幼馴染の優位は崩れない

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アルディンは侍女の制止を振り切り、客間を出て行った。向かう先は、リーシャの部屋がある二階の奥だ。この胸騒ぎの真相を、どうしても確認しなければならない。

(侍女は、何かを隠している……)

リーシャの部屋の前までたどり着く。扉はぴったりと閉ざされているが、静寂の中で耳を澄ますと、中から微かな声が聞こえてきた。一つは、間違いなくリーシャの声。そして、もう一つは……知らない男の声だ。楽しそうにじゃれ合うような甘い囁き声。

(まさか!? そんなはずはない)

全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。アルディンは震える手でドアノブに触れる。鍵は、かかっていなかった。祈るような気持ちで、少しだけ扉を押し開ける。

後ろから侍女が追いかけてくるが、慎重に足音を忍ばせ部屋に入る。わずかな隙間から見えた光景に、アルディンは息を呑んだ。天蓋のある贅沢なベッドの上で、リーシャが見知らぬ若い男と密に寄り添い、熱を交わしていた。

時間が止まったように感じた。頭の中で、何かが壊れる音がした。自分に宝石を渡したときの母の涙がよみがえる。

(母上が、どんな気持ちで……)

幼馴染の我儘を聞いて、頼まれた通りに買ってきたのに、こんな仕打ちはあんまりだ。アルディンが捧げたすべてが、幼馴染のこんな卑劣な裏切りのためにあったのか。自分がこんな扱いを受けるなんて。怒りが、火山のように内側から湧き上がる。

「リーシャッ!」

アルディンが怒りに任せて叫ぶと、ベッドの中にいた二人は驚き、飛び跳ねるように立ち上がった。

「きゃああああ!」

リーシャは驚きの悲鳴を上げ、慌ててシーツで身体を隠す。隣の若い男は、裸のままベッドから転げ落ち、頭を抱えて縮こまり、子犬のように震えていた。すると、アルディンの怒声を聞いた侍女が顔を真っ青にして駆けつけてきた。

「アルディン様!?」

だが、もうどうにもならない。隠されていた秘密の扉は、無惨にも開けられてしまったのだ。

「どうして……?」

リーシャは混乱したようにアルディンを見つめる。

侍女には、休んでいると言っておいた。自分の方が優位な立場なのだから、アルディンを待たせておけばいい。愛人の男と十分楽しんで、男は裏口から帰らせるつもりだった。それで何事もなかったかのようにアルディンと会えばいい。いつも通り、それでこれまで一度もバレなかったのだから。

「ずっと裏切っていたのか!」

アルディンの問い詰めに、リーシャは最初こそ動揺し、顔を伏せて困ったような表情をしていた。しかし、それもすぐに収まると、彼女はゆっくりと顔を上げ、開き直ったように冷静に言葉を発した。

「裏切ったですって? 面白いことを言うのね」

リーシャは、口元に笑みを浮かべると、全く後ろめたさを感じさせることなく言い放った。その態度に、アルディンは驚愕し、目を見開いた。彼女の言葉からは、後悔や罪悪感は微塵も感じられなかった。むしろ、どこか楽しげで、挑発的な響きすらあった。
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