私よりも幼馴染を選んだ王子の末路

佐藤 美奈

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第12話

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「なぜ、彼女を選んだのですか?」

その言葉が私の口を突いて出た。ずっと心の中に溜まり続けていた疑問が、ようやく表に出た瞬間だった。王太子殿下なら、いくらでも名門の美しい令嬢との婚約を結ぶことができたはずだ。しかし、彼が選んだのは、性格に難があり、周囲を困らせることが多いカタリーナだった。なぜだろう? 何が彼をそこまで引き寄せたのか。

アーロンは、私の目を真っ直ぐに見つめ返してきた。その瞳の中には一切の迷いが感じられなかったし、罪悪感すらも見当たらなかった。その視線を受けた瞬間、私は冷たい汗をかき、心臓が跳ね上がるのを感じた。

「決まっているだろう。幼馴染のカタリーナが、かわいいからだ!」

衝撃を受けた――というよりは、むしろ心の中で『納得した』という気持ちが強かった。逆に軽やかで清々しいほどに感じられた。私が大切にしていた家の名誉も、彼と過去に積み重ねた思い出も、未来に信じていた約束も、一切の価値を失ってしまうほど彼の理由はただ一つ。

“幼馴染がかわいい”それだけだった。何もかもがひっくり返るほど強い力を持ったその一言が、私の心の中で何かを音を立てて壊した。これまで私が抱いていたすべての価値観が、その一瞬で崩れ落ちた気がした。

あまりにも単純で、あまりにも無邪気なその答えに、私は思わず声を出さずにはいられなかった。

「……そうですか」

「ああ。だから、ミリアにとっても、それが一番いい選択のはずだ。俺に執着するのをやめ、カタリーナを許し、すべてを水に流す。そうすれば、お前も楽になれる! そして、カタリーナの魅力的な笑顔や優しさを、じっくりと語り合おう!」

アーロンの頭の中は、何もかもが自己中心的で、驚くほどに私とは違う次元で動いている。どこまでが彼自身の思い込みで、どこからが現実なのか、もうその境界すらも見失いそうだ。こんなにも周囲を無視して、自分の意志だけで動く彼の心の中は、一体どうなっているのだろう?

私はゆっくりと手を額の左側に伸ばした。指先が肌に触れると、そこには思っていた以上の違和感が広がっていた。引きつった皮膚が、無理に引き伸ばされた布のように固くて不自然で、何かが裂けそうなほどにピンと張っている。いつも鏡で見るたびにその変化に気づくたび、私はこの皮膚に何かが刻まれている気がして思わず息を呑んだ。

「殿下」

私が発した声は、自分でも信じられないほどに静まり返っていた。周囲の音がすべて吸い取られてしまったかのように、私の言葉はひとしずくの水滴のようだった。

「なんだ?」

「この顔の傷で、私がどれほどの苦しみを味わってきたか、おわかりになりますか? 鏡を見るたびに、自分の醜さに絶望し、死にたいとさえ思った夜が、幾度あったことか。人々の憐れみと好奇の視線に、心がすり減っていく毎日。あなたが、私に『醜い』『価値がない』と吐き捨てて去っていったあの日から、私の時間は、ずっと止まったままだったのですよ」

アーロンの顔が、わずかながら歪んだ。その表情に、ほんの一瞬、私が見たことのないような揺れ動く感情が浮かんだように感じた。もしかして、少しだけ罪悪感を抱いているのか? それとも、ただの気の迷いか。

しかし、その変化はあまりにも短く、一筋の影が過ぎ去るかのようにすぐに消えてしまった。その後には、いつもの無駄のない表情がすぐに戻り、私にはそれがあまりにも不自然に感じられた。
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