6 / 18
第6話 妹の血に怒りに燃える兄
しおりを挟む
「私の大事なエリザベートに何をしている!」
部屋に入ったレオンは雷のような怒鳴り声をあげた。小さい頃から甲斐甲斐しく世話を焼いていた自分の命より大切な妹の顔に血のあとが付いているのが見えた。その瞬間エリザベートに向けて一直線に走っていく。
エリザベートを囲むように立っていた公爵家の義家族など払い飛ばす勢いだった。公爵家一同はレオンが通るとき体を避けて道をあけた。鋭い気迫のようなものが感じられて本能的にひよってしまった。
「お兄様……」
「口から血が出てるじゃないか。誰にやられたんだ!」
「……それは……」
「私が来たから怖がることも誰に遠慮することもない。教えてくれるね?」
白馬に乗った素敵な王子様が助けに来てくれた。エリザベートには心のどこかでそんな思いがあり、ほっと安心したような様子で柔らかい眼差しで見つめると儚く笑った。
レオンは妹が口から血を流しているのを見て冷静に考える暇はなかった。義家族に顔を叩かれたのだろう。レオンが誰に叩かれたのか聞いても何か言い淀んでいるのかエリザベートは答えなかった。
そんな妹に兄は力強く抱きしめて言う。この人なら自分がどんな苦しい状況でも守って助けてくれる。エリザベートは威風堂々とした兄の姿にすっかり魅せられてしまいました。
「アイラです。アイラに頬をぶたれました」
「よくもアイラああああああ!」
「ひぃーっ」
エリザベートの言葉を聞いた直後レオンは後ろを振り向いて叫んだ。憤慨したように声を尖らせて凄まじい殺気を放った。ひぃ、と義妹のアイラから臆病な悲鳴が漏れて心臓の音が一気に騒がしくなる。アイラは床にぺたんとしゃがみ込んで小さく震えている。公爵家の親族も不安と恐怖で身をすくませていた。
レオンは愛する妹の姿に痛々しいものを感じずにはいられなかった。傷口にハンカチを当てていた妹の手を優しく握り回復魔法を唱えた。エリザベートの顔は光に照らされアイラに叩かれて受けた鼻と口の傷が塞がりものの数秒で完全に治った。
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「そんなことはいい」
「お兄様ありがとうございます」
エリザベートの実兄レオンは伯爵家の当主で精霊魔法士。小し難しい話になりますが精霊の力を借りて魔法を発動する。精霊の恩恵を受けた数少ない人物である。レオンは国の中でも戦闘能力に優れたトップクラスの精霊魔法士で、その強さは普通の魔法士の千人分にも相当するほど能力を秘めている。
この国アルノール帝国で先代に代わって政治を取っているのは若き皇帝ロバート。国民を思いやることができる人格者で、レオンとロバートは幼馴染で子供のころから親交は続き今は無二の親友の間柄である。共に相手を認め合う男同士深い絆で結ばれていた。
レオンも普段はおだやかで物腰の丁寧で温かい心を持つ人柄が備わっている男性だが、エリザベートを大切にするあまり妹のこととなると冷静さに欠ける。見た限りでは細身の体と繊細な指に騙されて荒事をこなすとは想像もつかぬほど、女性的な顔立ちで年上女性にモテそうな優男だった。
部屋に入ったレオンは雷のような怒鳴り声をあげた。小さい頃から甲斐甲斐しく世話を焼いていた自分の命より大切な妹の顔に血のあとが付いているのが見えた。その瞬間エリザベートに向けて一直線に走っていく。
エリザベートを囲むように立っていた公爵家の義家族など払い飛ばす勢いだった。公爵家一同はレオンが通るとき体を避けて道をあけた。鋭い気迫のようなものが感じられて本能的にひよってしまった。
「お兄様……」
「口から血が出てるじゃないか。誰にやられたんだ!」
「……それは……」
「私が来たから怖がることも誰に遠慮することもない。教えてくれるね?」
白馬に乗った素敵な王子様が助けに来てくれた。エリザベートには心のどこかでそんな思いがあり、ほっと安心したような様子で柔らかい眼差しで見つめると儚く笑った。
レオンは妹が口から血を流しているのを見て冷静に考える暇はなかった。義家族に顔を叩かれたのだろう。レオンが誰に叩かれたのか聞いても何か言い淀んでいるのかエリザベートは答えなかった。
そんな妹に兄は力強く抱きしめて言う。この人なら自分がどんな苦しい状況でも守って助けてくれる。エリザベートは威風堂々とした兄の姿にすっかり魅せられてしまいました。
「アイラです。アイラに頬をぶたれました」
「よくもアイラああああああ!」
「ひぃーっ」
エリザベートの言葉を聞いた直後レオンは後ろを振り向いて叫んだ。憤慨したように声を尖らせて凄まじい殺気を放った。ひぃ、と義妹のアイラから臆病な悲鳴が漏れて心臓の音が一気に騒がしくなる。アイラは床にぺたんとしゃがみ込んで小さく震えている。公爵家の親族も不安と恐怖で身をすくませていた。
レオンは愛する妹の姿に痛々しいものを感じずにはいられなかった。傷口にハンカチを当てていた妹の手を優しく握り回復魔法を唱えた。エリザベートの顔は光に照らされアイラに叩かれて受けた鼻と口の傷が塞がりものの数秒で完全に治った。
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「そんなことはいい」
「お兄様ありがとうございます」
エリザベートの実兄レオンは伯爵家の当主で精霊魔法士。小し難しい話になりますが精霊の力を借りて魔法を発動する。精霊の恩恵を受けた数少ない人物である。レオンは国の中でも戦闘能力に優れたトップクラスの精霊魔法士で、その強さは普通の魔法士の千人分にも相当するほど能力を秘めている。
この国アルノール帝国で先代に代わって政治を取っているのは若き皇帝ロバート。国民を思いやることができる人格者で、レオンとロバートは幼馴染で子供のころから親交は続き今は無二の親友の間柄である。共に相手を認め合う男同士深い絆で結ばれていた。
レオンも普段はおだやかで物腰の丁寧で温かい心を持つ人柄が備わっている男性だが、エリザベートを大切にするあまり妹のこととなると冷静さに欠ける。見た限りでは細身の体と繊細な指に騙されて荒事をこなすとは想像もつかぬほど、女性的な顔立ちで年上女性にモテそうな優男だった。
5
あなたにおすすめの小説
魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。
Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。
西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。
それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。
大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。
だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。
・・・なのに。
貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。
貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって?
愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。
そう、申し上げたら貴方様は―――
貴方の幸せの為ならば
缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。
いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。
後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる