「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈

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策略に陥れる

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カタリーナは部屋に入るなり、無遠慮に椅子に座り込んだ。扇子をパタパタと仰ぎながら、品定めするような目で私を見る。

「あんたが、当たると評判の占い師? ふん、随分とむさ苦しい格好ね」

「……見た目で判断するのは、愚か者のすることだよ」

私は声を低く響かせると、カタリーナは鼻で笑った。

「ま、いいわ。お金なら払うから、私の未来を占ってよ。……私ね、今、すっごく幸せになりかけてるの」

幸せになりかけているか。他人の不幸の上に建てる幸せが、どれほど脆いものかを知らないらしい。

「……ふむ。あんたからは、強い『情念』のオーラが出ているね。……男の影が見える。それも、簡単には手に入らない男だ」

「えっ!?」

カタリーナの動きが止まった。

「……わかるの?」

「ああ、見えるよ。その男は……高貴な身分だ。だが、今は『鎖』に繋がれている。愛のない結婚という、冷たい鎖にね」

これは事前の調査に基づく情報だ。だが、カタリーナにとっては、何も言っていないのに当てられたと奇跡に映る。彼女の瞳に、警戒心から好奇心への変化が見て取れた。

「す、すごい……! そうなの! 彼、貴族なのよ! 奥さんがすごく嫌な女で、彼は別れたがっているんだけど、なかなか話が進まなくて……」

カタリーナは身を乗り出した。ここからは、コールド・リーディング(話術)の時間だ。

「……男は金髪碧眼。整った顔立ちをしているが、少し優柔不断なところがあるね?」

「そう! そうなのよ! ジョナ……彼、優しいんだけど、お母さんの言いなりなところがあって」

名前を言いかけて止めるあたり、まだ理性が残っているらしい。

「あんたは不安なんだね。彼が本当に奥さんと別れてくれるのか。口先だけなんじゃないかと」

「……うん。だって、『妻とは家庭内別居だ』って言うけど、離婚の話は全然進まないし……私たちの関係は、結婚する前からなのに」

カタリーナの表情が曇る。承認欲求と不安と焦り。それらが渦巻いている。私は水晶玉に手をかざし、演技たっぷりに目を閉じた。

「……星が告げているよ。彼はあんたを愛している。それはだ。だが、彼は臆病だ。決断するには、『きっかけ』が必要なんだよ」

「きっかけ?」

「そう。彼が妻を捨てるための、決定的な理由。……例えば、新しい命の予感とかね」

カタリーナが息を呑んだ。

「い、命……? それって……子供?」

「男という生き物は単純だ。『自分の血を引く跡取り』という言葉に弱い。特に、今の妻との間に子がいないなら尚更だ」

私はゆっくりと目を開け、カタリーナの瞳を覗き込んだ。

「あんたのお腹に、彼の種が宿れば、彼は必ず動く。……あるいは、宿ったと『思わせる』だけでも、運命の歯車は回るかもしれないね」

「……!」

カタリーナの顔色がさっと変わった。その表情には、驚きに混じって陰のある欲望が浮かんでいる。

「……嘘でも、いいの?」

「運命は、強い者が掴み取るものさ。真実なんてものは、後からついてくる。……あんたが本当に彼を愛しているなら、多少の嘘も『愛の魔法』になるんじゃないかい?」

これは悪魔の囁きだ。私は彼女に、引き返せない道を提示した。もし彼女が本当に妊娠すれば、それはそれで慰謝料の請求額が跳ね上がる。もし嘘の妊娠を告げれば、それがバレた時に彼女は破滅する。どちらに転んでも、私にとっては都合が良い。

カタリーナはしばらく黙り込んでいたが、やがてニヤリと笑った。その笑顔は、毒々しく愚かしいほどに自信に満ちていた。

「……そうよね。私、彼のためなら何だってできるわ。だって、だもの!」

「その意気だよ。……ああ、それともう一つ」

私は懐から、小さな瓶を取り出した。中身は、乾燥させたハーブの粉末だ。

「これを彼に飲ませな。情熱を高め、判断力を鈍らせる『惚れ薬』の一種さ。……まあ、ただの滋養強壮剤だがね」

実際には、ただのビタミン剤に近いものだ。だが、惚れ薬と信じて使えば、プラシーボ効果で相手もその気になる。

「ありがとう、お婆ちゃん! これ、お代!」

カタリーナは機嫌よく笑い、金貨を弾んで出て行った。その背中を見送りながら、私は深く息を吐いた。部屋に残った薔薇の香水の匂いが、鼻について離れない。

「……馬鹿な女」

私は呟く。だが、その馬鹿な女を作り出したのは他ならぬ私だ。罪悪感? いいえ。私が味わってきた屈辱に比べれば、これくらいの火遊びは可愛らしいものだ。私は手元の金貨を数える。これでまた、復讐資金が潤った。
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