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ドレスを格上げ
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その日の午後、私の部屋のドアが乱暴に開かれた。投げ込まれたのは、ドレスだ。それも、目が痛くなるようなサーモンピンクの、フリルが過剰にあしらわれた代物だった。
「今夜の夜会、お前はこれを着てきなさい」
義母ベアトリスが、勝ち誇った顔で言い放つ。
「……お義母様。これは、その、随分と……可愛らしいデザインですね」
私は慎重に言葉を選んだ。十年前の流行ですか? 乙女らしい趣味が悪化しましたか? という本音は飲み込む。このドレスは義母が若い頃に着ていたものだった。大きめで今の私にはサイズが合わないし、何よりその色だと私の肌がくすんで見えて最悪だ。
「ジョナスと私は新しい衣装を仕立てたけれど、お前の分まで用意する予算はなくてね。感謝して着なさいよ。由緒あるバーネット家の嫁として、恥ずかしくないようにね」
義母は高笑いと共に去っていった。私はベッドの上に横たわるピンクの怪物を見下ろした。要するに、私を笑い者にする気だ。時代遅れのダサいドレスを着た陰気な嫁。それを引き立て役に、自分たちの華やかさを演出するつもりだろう。
「……舐められたものね」
私はドレスをつかんで持ち上げ、生地を指でこすって確かめた。シルクで質は悪くない。ただ、保存状態が悪く、あちこちにカビの匂いと黄ばみがある。このまま着ていけば、私は歩く汚物だ。
「さて、どう調理してやろうか」
私はクローゼットの奥から、実家から持ち込んだ『錬金薬箱』を取り出した。中には様々な薬品が入っている。私が取り出したのは深い青色の瓶に入った液体、鉄納戸の染料と酢酸。酢酸は、色を布にしっかり染みつけるために使う助け役の薬品だ。そして強力な漂白作用を持つ粉末だ。
「サーモンピンクなんて膨張色、着てやる義理はないわ」
私は浴室の桶に湯を張り、薬品を投入した。科学実験の開始だ。この染料は、特定の繊維と反応して、光を吸収するほどの深い黒色。正確にはミッドナイト・ブルーへと変化する。ついでに、過剰なフリルはハサミで容赦なく切り落とした。胸元の黄ばみは、切り落としたフリルで作ったコサージュで隠す。
二時間後。浴室に干されたドレスは、夜の闇を切り取ったようなシックで洗練されたイブニングドレスへと生まれ変わっていた。喪服に見えなくもないが、そこに銀糸(実は魔導線のくず)で刺繍を入れれば、星空のような輝きを放つ。
「……上出来ね」
私は鏡の前で、自分自身の顔にも細工を施した。いつもはわざと顔色を悪く見せているが、今夜は違う。隠していた本来の肌の白さを生かし、唇には毒いちごのような深い赤を引く。目元は涼やかに鋭く。
今夜の私は、虐げられる嫁ではない。狩り場に向かう捕食者だ。
「今夜の夜会、お前はこれを着てきなさい」
義母ベアトリスが、勝ち誇った顔で言い放つ。
「……お義母様。これは、その、随分と……可愛らしいデザインですね」
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義母は高笑いと共に去っていった。私はベッドの上に横たわるピンクの怪物を見下ろした。要するに、私を笑い者にする気だ。時代遅れのダサいドレスを着た陰気な嫁。それを引き立て役に、自分たちの華やかさを演出するつもりだろう。
「……舐められたものね」
私はドレスをつかんで持ち上げ、生地を指でこすって確かめた。シルクで質は悪くない。ただ、保存状態が悪く、あちこちにカビの匂いと黄ばみがある。このまま着ていけば、私は歩く汚物だ。
「さて、どう調理してやろうか」
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「サーモンピンクなんて膨張色、着てやる義理はないわ」
私は浴室の桶に湯を張り、薬品を投入した。科学実験の開始だ。この染料は、特定の繊維と反応して、光を吸収するほどの深い黒色。正確にはミッドナイト・ブルーへと変化する。ついでに、過剰なフリルはハサミで容赦なく切り落とした。胸元の黄ばみは、切り落としたフリルで作ったコサージュで隠す。
二時間後。浴室に干されたドレスは、夜の闇を切り取ったようなシックで洗練されたイブニングドレスへと生まれ変わっていた。喪服に見えなくもないが、そこに銀糸(実は魔導線のくず)で刺繍を入れれば、星空のような輝きを放つ。
「……上出来ね」
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今夜の私は、虐げられる嫁ではない。狩り場に向かう捕食者だ。
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