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裏に黒幕がいた
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「お疲れのようですね、警部補。……挨拶代わりにどうぞ」
私は懐から、小瓶を取り出してテーブルに置いた。中には鮮やかな黄色の液体が入っている。
「……これは?」
「特製の滋養強壮剤です。カフェインの覚醒作用と、ビタミンによる疲労回復、そして肝機能を高めるハーブを配合してあります。徹夜続きの体には劇的に効きますわ」
「……毒見は?」
「私がここで飲み干してみせましょうか?」
私が瓶に手を伸ばそうとすると、ガランゼルは苦笑してそれを止めた。
「いや、結構。辺境伯の『毒物研究員』の腕を信じましょう。……今は藁にもすがりたい気分なのでね」
ガランゼルは迷うことなく、その液体を一気に飲み干した。数秒後、彼の目が急に見開かれ、青白かった顔に赤みが差し、熱が入ったかのように顔色が変わった。
「……こ、こいつは凄い!? 視界が晴れたようだ。それに、体の疲れもなくなった!?」
「ご回復なさったようで、安心いたしました。では、本題に入りましょうか」
私は彼をまっすぐに見つめ、柔らかな口調で言った。アレクセイは私の隣で無言のまま、護衛のように威圧感を放ちながら控えていた。
「火災の件ですが。……報告書に訂正があると伺いましたわ」
私の言葉に、ガランゼルの表情が引き締まった。彼は手元の資料を一枚めくり、重々しく口を開いた。
「……鑑識の結果、放火の犯人が間違いなくカタリーナであることが証明されました。今、我々が注目しているのは、出火原因となった『油』です」
「油?」
「ええ。現場からは、揮発性の高い油の成分が検出されました。これは一般家庭で使われるランプ用の油ではありません。鉱山や工場で使われる、燃焼促進剤入りの工業用廃油です」
ガランゼルの目が険しくなって話を続けた。
「貧しくなったカタリーナごときが、独自に入手できる代物ではありません。……誰かが彼女に知恵と道具を与え、火をつけるよう唆した可能性があります」
「……なるほど。焼け跡を更地にしたかった『誰か』がいた、と?」
私が指摘すると、ガランゼルは口元に小さな笑みを浮かべた。
「話が早くて助かる。……実は、火災の翌日には、ある不動産商会が土地の買い取りを申し出てきたという情報があります。ジョナス氏らが落ち着きを取り戻した後、二束三文で買い叩くつもりでしょう」
カタリーナの狂気は、誰かによって巧妙に利用されたものだった。そして、その黒幕は今もなお、焦げ臭い土地の上で陰謀を巡らせて舌なめずりをしている。
「警部補。……その商会の名前は?」
「『赤蛇(レッド・スネーク)商会』。最近、王都で急速に勢力を伸ばしている新興勢力です。黒い噂が絶えませんが、証拠を残さないことで有名でしてね」
「赤蛇……。悪趣味な名前ですね」
どうやら、やるべきことが増えたようだ。元夫たちの治療(という名の復讐)と、火事場泥棒への制裁も必要だ。あの土地は、私のものとなるべき土地で誰にも譲るつもりはない。これからの王都滞在は忙しくなりそうだ。
「情報感謝します、警部補」
「……これからどうされるおつもりで?」
「お見舞いに行きますわ。……今にも地獄に落ちそうな元家族たちが、私を待っているのですから」
私は感情のない笑みを浮かべ、氷のようにひんやりとした表情で答えた。
私は懐から、小瓶を取り出してテーブルに置いた。中には鮮やかな黄色の液体が入っている。
「……これは?」
「特製の滋養強壮剤です。カフェインの覚醒作用と、ビタミンによる疲労回復、そして肝機能を高めるハーブを配合してあります。徹夜続きの体には劇的に効きますわ」
「……毒見は?」
「私がここで飲み干してみせましょうか?」
私が瓶に手を伸ばそうとすると、ガランゼルは苦笑してそれを止めた。
「いや、結構。辺境伯の『毒物研究員』の腕を信じましょう。……今は藁にもすがりたい気分なのでね」
ガランゼルは迷うことなく、その液体を一気に飲み干した。数秒後、彼の目が急に見開かれ、青白かった顔に赤みが差し、熱が入ったかのように顔色が変わった。
「……こ、こいつは凄い!? 視界が晴れたようだ。それに、体の疲れもなくなった!?」
「ご回復なさったようで、安心いたしました。では、本題に入りましょうか」
私は彼をまっすぐに見つめ、柔らかな口調で言った。アレクセイは私の隣で無言のまま、護衛のように威圧感を放ちながら控えていた。
「火災の件ですが。……報告書に訂正があると伺いましたわ」
私の言葉に、ガランゼルの表情が引き締まった。彼は手元の資料を一枚めくり、重々しく口を開いた。
「……鑑識の結果、放火の犯人が間違いなくカタリーナであることが証明されました。今、我々が注目しているのは、出火原因となった『油』です」
「油?」
「ええ。現場からは、揮発性の高い油の成分が検出されました。これは一般家庭で使われるランプ用の油ではありません。鉱山や工場で使われる、燃焼促進剤入りの工業用廃油です」
ガランゼルの目が険しくなって話を続けた。
「貧しくなったカタリーナごときが、独自に入手できる代物ではありません。……誰かが彼女に知恵と道具を与え、火をつけるよう唆した可能性があります」
「……なるほど。焼け跡を更地にしたかった『誰か』がいた、と?」
私が指摘すると、ガランゼルは口元に小さな笑みを浮かべた。
「話が早くて助かる。……実は、火災の翌日には、ある不動産商会が土地の買い取りを申し出てきたという情報があります。ジョナス氏らが落ち着きを取り戻した後、二束三文で買い叩くつもりでしょう」
カタリーナの狂気は、誰かによって巧妙に利用されたものだった。そして、その黒幕は今もなお、焦げ臭い土地の上で陰謀を巡らせて舌なめずりをしている。
「警部補。……その商会の名前は?」
「『赤蛇(レッド・スネーク)商会』。最近、王都で急速に勢力を伸ばしている新興勢力です。黒い噂が絶えませんが、証拠を残さないことで有名でしてね」
「赤蛇……。悪趣味な名前ですね」
どうやら、やるべきことが増えたようだ。元夫たちの治療(という名の復讐)と、火事場泥棒への制裁も必要だ。あの土地は、私のものとなるべき土地で誰にも譲るつもりはない。これからの王都滞在は忙しくなりそうだ。
「情報感謝します、警部補」
「……これからどうされるおつもりで?」
「お見舞いに行きますわ。……今にも地獄に落ちそうな元家族たちが、私を待っているのですから」
私は感情のない笑みを浮かべ、氷のようにひんやりとした表情で答えた。
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