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第3話
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結婚からわずか一ヶ月。状況がさらに悪い方向へ進んだ。ドレイクの家族――義父アガレス、義母ナタリア、義妹セシリア――は、自分たちが領主気取りで公爵邸を闊歩し、フローラが当主であるという事実は、彼らの辞書には存在しないかのようだった。
朝食の席に着くと、いつもフローラが座るはずの上座には、ふんぞり返ったナタリアが既に陣取っていた。銀の食器をカチャカチャと鳴らしながらメイドに横柄に命じる。
「ちょっと、そこのあなた! このジャムは甘すぎるわ! もっと酸味のある、そうね、あの森で採れるとかいう幻のベリーのジャムはないの? 公爵家ならそれくらい常備しているでしょう?」
その口調は、長年この家の女主人であったかのように自然で不快だった。
フローラが静かに口を開く。
「お義母様、その席は…」
「あら、フローラ。おはよう。何か問題でも? まさか、この私がここに座ることが、お気に召さないとでも?」
ナタリアは、粘っこい笑みを浮かべフローラを見下ろす。
隣では、義父アガレスが、フローラの亡き父が愛用していた書斎から持ち出したのであろう古文書を、バターナイフでページを捲りながら読んでいた。インクのシミがバターでさらに汚れていくのを、フローラは血の気が引く思いで見つめる。
「アガレスお義父様! それは貴重な歴史的資料で!」
「ん? おお、フローラか。いやはや、この家の蔵書は素晴らしいな! だが、少し整理がなっておらんようだ。わしが、どれが価値あるもので、どれがガラクタか、仕分けしてやろうじゃないか。安心しろ、わしは骨董には少々うるさくてな、フフン」
アガレスは、自分の目利きを自画自賛するが、その目は明らかに金目のものを探している卑しさに満ちていた。
(ガラクタですって? あなたのその存在こそが、この公爵家にとって最大のガラクタよ!)
フローラは、心の中で絶叫したが声にはならない。
そして、最もたちの悪いのが義妹のセシリアだ。彼女はフローラの私室に勝手に入り込み、フローラの宝石やドレスを漁っては、使用人たちに無理難題を吹っかけていた。
「ねえ、このサファイアのネックレス、もっと鎖を長くできないかしら? 今のままだと、わたくしの白鳥のような首には短すぎて、犬の首輪みたいだわ! それから、このドレス! もっとレースをふんだんに使って、天使の羽みたいにしてちょうだい! できないなんて言わせないわよ、あなたたちは公爵家の使用人でしょう?」
セシリアは、フローラの忠実な侍女であるアンナの腕を抓りながら、甲高い声でわめき散らす。アンナの目に涙が滲んでいるのを見て、フローラの胸は張り裂けそうだった。
「セシリア、アンナを困らせるのはおやめなさい。それに、それは私が母から譲り受けた大切な…」
フローラが割って入ろうとすると、セシリアはぷいと顔を背け鼻を鳴らした。
「あら、お義姉さま。そんな古臭いもの、まだ大事に持ってたんですか? わたくしがもっと素敵にリメイクしてあげようと思ったのに、ケチね!」
そして、フローラの心を最も深く抉るのは、夫であるはずのドレイクの態度だった。結婚前、叔母の紹介で会った時の、あの控えめで誠実そうな青年はどこにもいない。
今の彼は、家族と一緒になってフローラを嘲笑し、時には冷酷な言葉を投げかける別人だった。
朝食の席に着くと、いつもフローラが座るはずの上座には、ふんぞり返ったナタリアが既に陣取っていた。銀の食器をカチャカチャと鳴らしながらメイドに横柄に命じる。
「ちょっと、そこのあなた! このジャムは甘すぎるわ! もっと酸味のある、そうね、あの森で採れるとかいう幻のベリーのジャムはないの? 公爵家ならそれくらい常備しているでしょう?」
その口調は、長年この家の女主人であったかのように自然で不快だった。
フローラが静かに口を開く。
「お義母様、その席は…」
「あら、フローラ。おはよう。何か問題でも? まさか、この私がここに座ることが、お気に召さないとでも?」
ナタリアは、粘っこい笑みを浮かべフローラを見下ろす。
隣では、義父アガレスが、フローラの亡き父が愛用していた書斎から持ち出したのであろう古文書を、バターナイフでページを捲りながら読んでいた。インクのシミがバターでさらに汚れていくのを、フローラは血の気が引く思いで見つめる。
「アガレスお義父様! それは貴重な歴史的資料で!」
「ん? おお、フローラか。いやはや、この家の蔵書は素晴らしいな! だが、少し整理がなっておらんようだ。わしが、どれが価値あるもので、どれがガラクタか、仕分けしてやろうじゃないか。安心しろ、わしは骨董には少々うるさくてな、フフン」
アガレスは、自分の目利きを自画自賛するが、その目は明らかに金目のものを探している卑しさに満ちていた。
(ガラクタですって? あなたのその存在こそが、この公爵家にとって最大のガラクタよ!)
フローラは、心の中で絶叫したが声にはならない。
そして、最もたちの悪いのが義妹のセシリアだ。彼女はフローラの私室に勝手に入り込み、フローラの宝石やドレスを漁っては、使用人たちに無理難題を吹っかけていた。
「ねえ、このサファイアのネックレス、もっと鎖を長くできないかしら? 今のままだと、わたくしの白鳥のような首には短すぎて、犬の首輪みたいだわ! それから、このドレス! もっとレースをふんだんに使って、天使の羽みたいにしてちょうだい! できないなんて言わせないわよ、あなたたちは公爵家の使用人でしょう?」
セシリアは、フローラの忠実な侍女であるアンナの腕を抓りながら、甲高い声でわめき散らす。アンナの目に涙が滲んでいるのを見て、フローラの胸は張り裂けそうだった。
「セシリア、アンナを困らせるのはおやめなさい。それに、それは私が母から譲り受けた大切な…」
フローラが割って入ろうとすると、セシリアはぷいと顔を背け鼻を鳴らした。
「あら、お義姉さま。そんな古臭いもの、まだ大事に持ってたんですか? わたくしがもっと素敵にリメイクしてあげようと思ったのに、ケチね!」
そして、フローラの心を最も深く抉るのは、夫であるはずのドレイクの態度だった。結婚前、叔母の紹介で会った時の、あの控えめで誠実そうな青年はどこにもいない。
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