彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

第45話

「なるほど、おっしゃる通りです。ですが、あなたに口元まで運んでもらう必要はありません。私は自分で食事を取ることができますので」

私は、彼が言うことに一理あると納得しながらもそう返した。騎士としての経験が、彼の意見を無視できない理由を教えてくれる。しかし、どうしてもその行為が気恥ずかしくて、彼の優しさを素直に受け入れることができない自分がいた。

すると、彼は少し眉をひそめ、少し困ったように笑いながら反論してきた。

「恋人同士なら、食べさせ合うのは自然なことだろう？　恥ずかしがることじゃない」

この瞬間、どうしても何も言えなくなってしまった。彼の眼差しは真剣そのもので、その表情には何も恥ずかしがることはないと言わんばかりの自然さがあった。

それが、私の心を微妙に揺さぶり、胸の奥で何かが波立つような感覚を呼び起こした。彼の言葉とその圧力に、私は押しつぶされるような不思議で複雑な感覚が広がっていった。彼の存在そのものが、私の心の中でひときわ大きくなっていく。

「ニーナ、何も気にせず、アンドレ卿と自由に過ごすがいい。私たちはここで見守っているだけだから、遠慮はいらないよ」

ロッドが、穏やかな微笑を浮かべながら、私を包み込むように言った。その言葉は、柔らかな風のように優しく心に触れる。しかし、その瞬間、キャンディの表情はますます険しくなって眉間に深いしわが寄った。

部屋の空気が一瞬張り詰め、わずかな沈黙を覚えた。ロッドとキャンディの間に隠れた何かが見えたような、そんな気配が漂う。しかし、私は何も言わず、目の前の微妙な緊張感をひしひしと感じ取っていた。

「ロッド殿下も、そう言っていることだし、ニーナ、ほら、あーん」

アンドレがロッドの理解を得られたと調子に乗ってくる。

「仕方ありませんわね。一度だけですよ」

私は心の中で小さなため息をつきながら、嫌々ながら口を開けてアンドレの手から差し出された料理を頬張った。温かさが喉を通り過ぎる瞬間、私たちの間にあふれる甘い空気。お互いに食べさせ合うその行為は、公害のように周囲に影響を与えているのかもしれない。周囲と言ってもロッドとキャンディだけなので問題はないか。

「ニーナ、美味しいかい？」

アンドレの穏やかな声が私の耳に響く。その眼差しが優しさを含んでいて心を溶かすようだった。

「ええ、だしの味がしっかりと染み込んでいて、美味しいですわ」

私も、まんざらではないと感じた。まあまあ良いと思う。だが、それ以上にアンドレの手が絶え間なく私に食べさせてくることに、少しばかり心がざわつく。それでも、私は心の中の複雑な思いを抱えたまま、素直に口を開けて彼の手から差し出されたものを受け入れた。

アンドレの声には、私の心を見透かすような深い力強さがあった。それは、私が何を考えているのか、すべてを見透かされているかのような錯覚を覚えさせる。彼の瞳が、まっすぐに私を見つめ、その眼差しが私の心を揺さぶっていく。

向かいに座るキャンディは、何も言わず無表情でその光景を見つめていた。感情が何一つ浮かばないような冷たい顔だった。ただ、その沈黙の中に、私は彼女が抱える苦しみを感じ取っていた。彼女の目には、一切の感情が読み取れなかったが、その静寂の中に隠された心の痛みが私には手に取るようにわかった。

おそらく鍋の味は、もう彼女には何も感じられなかっただろう。目の前で繰り広げられる私たちの甘い時間を、遠くの世界の出来事のように、彼女はただ見守ることしかできなかった。私たちが交わす言葉や視線、心の中で交わされる無言のやりとりに、彼女は深い悔しさを押し込めていた。

その悔しさは、きっと血の涙のように胸の奥で滲み出し、彼女をじわじわと締めつけていた。私はその痛みを見ているだけで感じることができた。