婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

佐藤 美奈

文字の大きさ
3 / 42

第3話

「そう、よかったわね」

「それだけ? もっと他に言うことないの?」

「……何て言えば満足なの?」

「別にぃ? ただ、お姉様、いつまでもそんな暗い顔してないで、早く次の人でも見つけたら? もうフレックス様は私のものなんだから、お姉様は関係ないじゃない」

関係ない。その言葉が、私の中で何かのスイッチを押した。今まで必死に抑え込んでいた感情が、止められなくなって一気に溢れ出す。

「あなたには、わからないでしょうね!」

私の突然の怒声に、ユリアはびくりと肩を震わせた。

「人のものを平気で奪っておいて、その相手の気持ちを考えようともしない。あなたは昔からそう。私の大事なものを、全部、全部!」

「な、何よ急に! 愛し合ってるんだから仕方ないじゃない!」

「愛ですって? あなたがしていることは、ただの強奪よ! 姉に対する劣等感を、私からすべてを奪うことで満たそうとしているだけじゃないの!」

「違う! 私はフレックス様を愛してる! お姉様こそ、フレックス様のこと、本当は窮屈に思ってたんじゃないの? いつも義務みたいに、完璧な婚約者を演じてただけじゃない!」

ユリアの言葉は、痛いところを突いていた。図星だった。でも、だからといって、彼女の行いが許されるわけじゃない。

「だとしても、あなたに奪われる筋合いはないわ! もう顔も見たくない。出ていって!」

「……っ! お姉様のバカ! もう知らない!」

ユリアは顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、ドレスを抱え直して、ばたばたと部屋から出ていった。一人、部屋に取り残された私は、深く息をつきながら息が荒くなるのを感じていた。胸の中で、疲れがじわじわと押し寄せ、無意識に溜まった息が口から漏れる。

妹に初めてぶつけた抑えきれなくなった感情。それは、私が今まで隠してきた全ての怒りや不満を一気に放出した瞬間だった。後悔が胸に渦巻く一方で、どこか心の中で爽快感も感じていた。

もう、誰かの期待に応えるために無理に良い子を演じる必要はない。優しさを振りかざして、我慢し続けることに疲れ果てた。これからは、私自身の気持ちを最優先にして生きると決めた瞬間だった。

それから、私は屋敷に引きこもるようになった。王都中の貴族たちが、ダグラス家の姉妹の醜聞で持ちきりなのは、想像に難くない。婚約者を奪われた可哀想な姉エリーゼ。目的のためには手段を選ばない強かな妹ユリア。そんな同情と好奇の視線に晒されるくらいなら、一人でいる方がずっとましだった。

一方で、ユリアとフレックスは、王都の社交界の注目の的だった。二人はいつも手を取り合い、幸せをこれでもかと見せつけていた。学園の舞踏会では、宣言通り、国王陛下の前で正式に婚約が発表された。

ユリアは、あのロイヤルブルーのドレスを身に纏い、満面の笑みでフレックスの腕に寄り添っていた。その光景を遠くから眺めながら、私の心には、チリリとした痛みが走る。それは嫉妬なのか、それとも……妹の行く末を案じる気持ちなのか自分でもよくわからなかった。

(あの二人、幸せになれるのかしら?)

フレックスのわがままな性格と、ユリアの気まぐれな性格。似た者同士、とは言えるかもしれない。でも、お互いの欲しいものを手に入れたら、その先には何が残るのだろう。

あなたにおすすめの小説

あなたが「いらない」と言った私ですが、溺愛される妻になりました

阿里
恋愛
「君みたいな女は、俺の隣にいる価値がない!」冷酷な元婚約者に突き放され、すべてを失った私。 けれど、旅の途中で出会った辺境伯エリオット様は、私の凍った心をゆっくりと溶かしてくれた。 彼の領地で、私は初めて「必要とされる」喜びを知り、やがて彼の妻として迎えられる。 一方、王都では元婚約者の不実が暴かれ、彼の破滅への道が始まる。 かつて私を軽んじた彼が、今、私に助けを求めてくるけれど、もう私の目に映るのはあなたじゃない。

退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで

阿里
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。 辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。 公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。 元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。

「華がない」と婚約破棄されたけど、冷徹宰相の恋人として帰ってきたら……

阿里
恋愛
「貴族の妻にはもっと華やかさが必要なんだ」 そんな言葉で、あっさり私を捨てたラウル。 涙でくしゃくしゃの毎日……だけど、そんな私に声をかけてくれたのは、誰もが恐れる冷徹宰相ゼノ様だった。 気がつけば、彼の側近として活躍し、やがては恋人に――! 数年後、舞踏会で土下座してきたラウルに、私は静かに言う。 「あなたが捨てたのは、私じゃなくて未来だったのね」

婚約破棄された地味令嬢ですが、今さら「やり直したい」と言われても困ります

阿里
恋愛
「君のような地味な花はいらない。もっと華やかな花が欲しいんだ」――そう言って婚約を破棄した騎士団長エルド。 家族にも見捨てられた私は、身を隠すために向かった辺境で、魔物に襲われそうになったところを一人の男に救われる。 彼は、冷酷と恐れられる魔導王イザーク様だった。 でも、彼は私にだけは驚くほど優しく、私の地味な部分を「落ち着いた美しさ」と呼んでくれた。 やがて彼は、不正を働いて全てを失ったエルド様を、静かに、しかし確実に破滅させていく。 私は、そんな彼の隣で、穏やかに微笑む。もう、あなたを愛していません。

さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~

阿里
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」 婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。 けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。 セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。 「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。 ――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

阿里
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです

阿里
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」 そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。 社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。 そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。 過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。 そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。 「君が隣にいない宮廷は退屈だ」 これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。

「影が薄い」と 捨てられた地味令嬢は、王太子に見初められました ~元婚約者と妹は、どうぞご勝手に~

阿里
恋愛
「君は影が薄い」――そう言って、婚約者の騎士様は華やかな妹を選び、私を捨てた。 何もかもを諦めて静かに暮らそうと決めた私を待っていたのは、孤児院での心温まる出会いだった。 そこで素性を隠して旅をしていたのは、なんと隣国の王太子様。 「君こそ、僕の唯一の光だ」そう言って、私のありのままを受け入れてくれる彼。その彼の隣で、私は生まれ変わる。 数年後、王国間の会議で再会した元婚約者は、美しく気品あふれる私を見て絶句する……