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第6話
「……忘れろ、あんなやつ」
カイルの声は、私の心を読み取ったかのように力強い。
「忘れようとしてる。でも、簡単じゃない」
私はその言葉を口にしながらも、心の中で無理だと感じていた。あの出来事が、胸に重くのしかかっているみたいに、どうしても消せないでいる。
カイルは少し間を置いて、まっすぐに私を見つめながら言った。
「じゃあ、俺で上書きしろよ」
その言葉に私は一瞬、息を呑んだ。まさか、こんなことを言われるとは思っていなかった。
「は?」
驚きと戸惑いが声に乗った。それを聞いたカイルは、私が気づいていないことが不思議でたまらないようにさらりと続けた。
「俺がお前を好きだってことだけ考えてろ。そしたら、あいつのことなんてどうでも良くなる」
その言葉には、冗談なんて少しも感じられなかった。真剣そのもので響くような声だった。そして、カイルの深い緑色のような瞳が、私をただひたすらに見つめている。全てを受け入れてくれるような深い意味を感じた。
私はどうしてもそれに応えることができなかった。心の中で湧き上がる言葉を必死で抑え込んだ。
「……無理だよ」
その言葉が、どれだけ苦しいものだったか、カイルには分からないだろう。自分でも、そんな風に言ってしまうことに戸惑いがあった。
「なんで?」
カイルの声は、少しだけ硬くなった。その問いかけに、私は視線を下ろし何度も言葉を選びながら答えた。
「だって、カイルはみんなの王子様だから。私なんかが隣にいたら、また何か言われる」
その一言で、私の心はますます重くなった。彼の王子様としての輝きに、私はただの影のように思えてしまった。そんな私が彼の隣に立つことで、周りがどう思うかなんて簡単に想像できてしまうから。
フレックスの時もそうだった。公爵令嬢と王子の婚約。妬みやっかみは日常茶飯事で、陰口なんて数え切れないほど叩かれた。もう、あんな思いはしたくない。
兄のカイルは、学園中で『氷の王子様』と呼ばれるにふさわしい存在だった。弟のフレックスよりも何倍も魅力的で、はるかに上回るかっこよさと憧れを集める存在だ。そんなカリスマ性を持ち合わせている彼と恋人関係になれば、フレックス以上に嫉妬の対象となるだろう。
「他の女なんてどうでもいい。俺が好きなのはお前だけだ!」
その言葉は、何のためらいもなく私の目の前で放たれた。カイルの瞳は真剣そのもので、そこに揺るぎない決意を感じた。それでも、私は言葉を失っていた。こんなにも堂々とした宣言に、私の心は何も言えずに沈黙を貫いていた。
「……」
一瞬、時が止まったような気がした。彼が本気で言っているのか、それともただの遊びなのか、私にはその判断がつかない。ただ、もし彼が本当に本気で私に向かってそんな未来を語っているのだとしたら、私はどうすればいいのだろう。
カイルの声は、私の心を読み取ったかのように力強い。
「忘れようとしてる。でも、簡単じゃない」
私はその言葉を口にしながらも、心の中で無理だと感じていた。あの出来事が、胸に重くのしかかっているみたいに、どうしても消せないでいる。
カイルは少し間を置いて、まっすぐに私を見つめながら言った。
「じゃあ、俺で上書きしろよ」
その言葉に私は一瞬、息を呑んだ。まさか、こんなことを言われるとは思っていなかった。
「は?」
驚きと戸惑いが声に乗った。それを聞いたカイルは、私が気づいていないことが不思議でたまらないようにさらりと続けた。
「俺がお前を好きだってことだけ考えてろ。そしたら、あいつのことなんてどうでも良くなる」
その言葉には、冗談なんて少しも感じられなかった。真剣そのもので響くような声だった。そして、カイルの深い緑色のような瞳が、私をただひたすらに見つめている。全てを受け入れてくれるような深い意味を感じた。
私はどうしてもそれに応えることができなかった。心の中で湧き上がる言葉を必死で抑え込んだ。
「……無理だよ」
その言葉が、どれだけ苦しいものだったか、カイルには分からないだろう。自分でも、そんな風に言ってしまうことに戸惑いがあった。
「なんで?」
カイルの声は、少しだけ硬くなった。その問いかけに、私は視線を下ろし何度も言葉を選びながら答えた。
「だって、カイルはみんなの王子様だから。私なんかが隣にいたら、また何か言われる」
その一言で、私の心はますます重くなった。彼の王子様としての輝きに、私はただの影のように思えてしまった。そんな私が彼の隣に立つことで、周りがどう思うかなんて簡単に想像できてしまうから。
フレックスの時もそうだった。公爵令嬢と王子の婚約。妬みやっかみは日常茶飯事で、陰口なんて数え切れないほど叩かれた。もう、あんな思いはしたくない。
兄のカイルは、学園中で『氷の王子様』と呼ばれるにふさわしい存在だった。弟のフレックスよりも何倍も魅力的で、はるかに上回るかっこよさと憧れを集める存在だ。そんなカリスマ性を持ち合わせている彼と恋人関係になれば、フレックス以上に嫉妬の対象となるだろう。
「他の女なんてどうでもいい。俺が好きなのはお前だけだ!」
その言葉は、何のためらいもなく私の目の前で放たれた。カイルの瞳は真剣そのもので、そこに揺るぎない決意を感じた。それでも、私は言葉を失っていた。こんなにも堂々とした宣言に、私の心は何も言えずに沈黙を貫いていた。
「……」
一瞬、時が止まったような気がした。彼が本気で言っているのか、それともただの遊びなのか、私にはその判断がつかない。ただ、もし彼が本当に本気で私に向かってそんな未来を語っているのだとしたら、私はどうすればいいのだろう。
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