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お菓子が欲しいわけじゃない。
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休み時間、ひとりの同僚がお菓子を配りはじめた。
ズラッと横に並んでいるデスクの上にちょこんと置かれ、「お礼言わなきゃ」と内心そう思っていれば、私の机は飛ばされた。
べっぴんさん、べっぴさん、ひとつ飛ばしてべっぴさんな速度で。相手はもちろん、わざとだ。こちらをチラ見しては知らん顔。周囲にいた先輩たちも気まずそうに同僚にお礼を言いながら私を見ていたが、まるで反応を観察しているみたいで非情に嫌だった。
これが噂のお菓子外し。最初こそ不愉快な思いでいっぱいで、苛立ちのあまり眉をひそめずにはいられなかった。しかし、すぐにそれは動揺にも近い、悲しい気持ちでいっぱいになっていったのだ。
泣けるわけにもいかず、とぼとぼ帰りの支度に入って職場を後にしたとき、清掃員のおばちゃんに肩を叩かれて、こう言われた。
「あの人、くだらんなあ。気にすんじゃないよお」
そして小さいロールケーキを私に渡して「これ食べな」と一言を残せば、スタスタと去っていくおばちゃんの背中を見て大粒の涙が出てしまった。
他人が嫌いになりかけていた日、他人がもっと好きになれた日でもあった。
おしまい
ズラッと横に並んでいるデスクの上にちょこんと置かれ、「お礼言わなきゃ」と内心そう思っていれば、私の机は飛ばされた。
べっぴんさん、べっぴさん、ひとつ飛ばしてべっぴさんな速度で。相手はもちろん、わざとだ。こちらをチラ見しては知らん顔。周囲にいた先輩たちも気まずそうに同僚にお礼を言いながら私を見ていたが、まるで反応を観察しているみたいで非情に嫌だった。
これが噂のお菓子外し。最初こそ不愉快な思いでいっぱいで、苛立ちのあまり眉をひそめずにはいられなかった。しかし、すぐにそれは動揺にも近い、悲しい気持ちでいっぱいになっていったのだ。
泣けるわけにもいかず、とぼとぼ帰りの支度に入って職場を後にしたとき、清掃員のおばちゃんに肩を叩かれて、こう言われた。
「あの人、くだらんなあ。気にすんじゃないよお」
そして小さいロールケーキを私に渡して「これ食べな」と一言を残せば、スタスタと去っていくおばちゃんの背中を見て大粒の涙が出てしまった。
他人が嫌いになりかけていた日、他人がもっと好きになれた日でもあった。
おしまい
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