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一年生交流会
毎日がパーティナイト?(2)
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それは、百合子がまだ一年生だった頃の話。
A子さん(仮名)という、ルームメイトが百合子にはいた。入寮時に同じ部屋で、行事も一緒に参加していた。互いに寮にも慣れて、百合子は一年生交流会が終わると、特別仲の良い一刻寮生もおらず、頻繁に出入りをする事は無くなった。
しかし、A子さんはそうでは無かった。
B雄さん(仮名)という上級生の彼氏ができ、付き合い始めたA子さんは、B雄さんの部屋へ頻繁に行くようになった。
一刻寮へ頻繁に通う、というところで、思い当たる事があったのか、志信と和美、亜里沙と麻衣は、互いを見た。
「基本的に、どっちも部屋の造りは同じでしょ? ドアのところから小上がりになっていて、そこでスリッパを脱いで、フローリングの共有スペースの両サイドに二段ベッドがあるっていうのは」
百合子の言葉に、志信達は今いる部屋を見回した。
ベッドの下段はカーテンを開けて、今はソファ替わりになっている。
「千錦寮は今定員通りだから、空いてるベッドってないんだけど、一刻寮って、実は定員に対して三割くらい空きがあるのよ、だから、一部屋を定員通りに四人で使ってる部屋ってあんまりなくてね、どこの部屋もだいたい三人、下手すると四人部屋を二人で使ってたりする事もあるの」
そういえば、と、志信は、スタンプラリーで周った部屋のいくつかには、下のベッドを使わず、テレビ台替りにしている部屋もあった事を思い出していた。
そして、B雄さんの部屋は二人部屋だったらしい。
どちらも下段を物置にして、上段のベッドで寝ていた。
さらに、B雄さんの同室だったのは、後輩で、C三さん(仮名)一人だった。
「もしかして、その話って、スリッパが出てきます?」
恐る恐る亜里沙が尋ねた。
「ご名答」
百合子が、両手をひらいて拍手した。
一刻寮、頻繁に通ってくる女子、同室は一人だけ、さらに、話にはスリッパが出てくる、と、なると。
「A子さんは、スリッパを置きっぱなしにしなかった、……というより、意図的に隠すようになったわけよ」
本来の住人であるB雄さんのスリッパしかなければ、C三さんは気づかない。と、思ったのだろう。カーテンを閉めて、C三さんがいない間に出て行けば、部屋にいた事は気づかれない。
「それは……C三さんが気の毒ですね……」
和美が続けた。
「自分の部屋に、気づかないうちに出入りされるなんて」
「その、不埒なA子さんとB雄さんはどうなったんですか? 百合子先輩とA子さんがタメだったなら、B雄さんはもう卒業してる? とか?」
麻衣が尋ねると、百合子が答えた。
「二人とも、もういない、結局、A子は退寮したの」
「それは、自分から?」
志信が聞くと、
「一応ね」
百合子は、言葉を飲み込もうとした。
「百合子先輩、その話、続き、ありますよね」
杏奈はなかなか容赦が無いようだ。
「私達の時は、他山の石にすべしって言ってたじゃないですか」
「刺激的な話だしね、私も、思慮が浅かったからさ」
百合子は、少し唇に指をあてるようにして、数刻考えてから、言った。
「あまり、言いふらしたりしないでね、A子は、今、寮にはいないけど、在学中だし、一刻寮の新入生には特に」
百合子はそう言うが、ゴシップのネタとしては刺激的であるし、興味を引くトピックには違いない。
「C三さんは、隠しカメラを仕込んだのよ、B雄さんのベッドに」
それが事実であるならば、唾棄すべき出来事ではあった。
しかし、C三さんは、そんな風にせずにはいられないくらい、怒ってもいたのだろう。
「最後の理性からか、その動画をネットにあげるような事はなかったみたいだけど、そういうものが存在している、という事実だけで、B雄さんとA子さんには充分だったみたい」
結局、B雄もA子も自主退寮し、C三さんが残った。
「え、C三さんって、まだ寮にいるんですか?」
「卒業したよ、早希ちゃんたちと入れ替わりにね、当事者がいないからこそ、私はこの話をしたんだよ」
「……やっぱり、軽率だったね」
自重気味に百合子は言った。
「でも、それって、悪いのはB雄さんなんじゃないですか? 女子を連れ込んで、そんな」
心から汚らわしいという様子で和美が言った。
「着いてっちゃったA子にも問題はあったと思うけどね」
百合子はため息をついて、しめくくりに言った。
「結局、一番傷ついたのはA子だったわけだし、私には、えらそうにどうこう言うことはできないかな、でも、気をつけた方がいい、っていう、教訓になれば、って、思ってたんだよね」
そう言いつつも、どこか苦いものを噛み砕くような顔をしてから、百合子は続けた。
「それも言い訳かな、言い方を少しオブラートに包んだだけで、刺激的なゴシップを誰かに話したかっただけ、というオチよ」
確かに、大勢に語って、言いふらすような内容では無いかもしれないけれど、それが『事実』なのならば、『情報』として、共有されるに値するんじゃないか、と、志信は思った。
「そっか、共同生活って、そういうリスクも考えておかなくちゃいけないって事ですよね」
和美が言うと、
「基本は皆善良っていう前提な仕組みではあるけどね」
早希が言った。
「不安だよね。千錦寮は、男子禁制だし、夜は鍵もかかるけど、一刻寮の方は、そういうのないからね、今の状態は、田舎の家の玄関に鍵をかけないのとノリは一緒」
共同生活の楽しさは、メリットばかりではないという事なのだろう。そして、そういう共同体だからこそ、昔ながらの村社会のようなものを形成しようとしているのかもしれない。
「あー、なんか、ゴメンね、今日は和美ちゃんの快気祝いなのに」
バツが悪いのか、百合子は手にしていた350ml缶のビールを飲み干して、
「もー、杏奈がふるから」
そう言いつつ、軽く杏奈の肩を小突いた。
これ以上の追求をやんわり避けるような百合子の様子に、皆、それ以上は触れず、話題は一年生交流会についてに変わっていた。
A子さん(仮名)という、ルームメイトが百合子にはいた。入寮時に同じ部屋で、行事も一緒に参加していた。互いに寮にも慣れて、百合子は一年生交流会が終わると、特別仲の良い一刻寮生もおらず、頻繁に出入りをする事は無くなった。
しかし、A子さんはそうでは無かった。
B雄さん(仮名)という上級生の彼氏ができ、付き合い始めたA子さんは、B雄さんの部屋へ頻繁に行くようになった。
一刻寮へ頻繁に通う、というところで、思い当たる事があったのか、志信と和美、亜里沙と麻衣は、互いを見た。
「基本的に、どっちも部屋の造りは同じでしょ? ドアのところから小上がりになっていて、そこでスリッパを脱いで、フローリングの共有スペースの両サイドに二段ベッドがあるっていうのは」
百合子の言葉に、志信達は今いる部屋を見回した。
ベッドの下段はカーテンを開けて、今はソファ替わりになっている。
「千錦寮は今定員通りだから、空いてるベッドってないんだけど、一刻寮って、実は定員に対して三割くらい空きがあるのよ、だから、一部屋を定員通りに四人で使ってる部屋ってあんまりなくてね、どこの部屋もだいたい三人、下手すると四人部屋を二人で使ってたりする事もあるの」
そういえば、と、志信は、スタンプラリーで周った部屋のいくつかには、下のベッドを使わず、テレビ台替りにしている部屋もあった事を思い出していた。
そして、B雄さんの部屋は二人部屋だったらしい。
どちらも下段を物置にして、上段のベッドで寝ていた。
さらに、B雄さんの同室だったのは、後輩で、C三さん(仮名)一人だった。
「もしかして、その話って、スリッパが出てきます?」
恐る恐る亜里沙が尋ねた。
「ご名答」
百合子が、両手をひらいて拍手した。
一刻寮、頻繁に通ってくる女子、同室は一人だけ、さらに、話にはスリッパが出てくる、と、なると。
「A子さんは、スリッパを置きっぱなしにしなかった、……というより、意図的に隠すようになったわけよ」
本来の住人であるB雄さんのスリッパしかなければ、C三さんは気づかない。と、思ったのだろう。カーテンを閉めて、C三さんがいない間に出て行けば、部屋にいた事は気づかれない。
「それは……C三さんが気の毒ですね……」
和美が続けた。
「自分の部屋に、気づかないうちに出入りされるなんて」
「その、不埒なA子さんとB雄さんはどうなったんですか? 百合子先輩とA子さんがタメだったなら、B雄さんはもう卒業してる? とか?」
麻衣が尋ねると、百合子が答えた。
「二人とも、もういない、結局、A子は退寮したの」
「それは、自分から?」
志信が聞くと、
「一応ね」
百合子は、言葉を飲み込もうとした。
「百合子先輩、その話、続き、ありますよね」
杏奈はなかなか容赦が無いようだ。
「私達の時は、他山の石にすべしって言ってたじゃないですか」
「刺激的な話だしね、私も、思慮が浅かったからさ」
百合子は、少し唇に指をあてるようにして、数刻考えてから、言った。
「あまり、言いふらしたりしないでね、A子は、今、寮にはいないけど、在学中だし、一刻寮の新入生には特に」
百合子はそう言うが、ゴシップのネタとしては刺激的であるし、興味を引くトピックには違いない。
「C三さんは、隠しカメラを仕込んだのよ、B雄さんのベッドに」
それが事実であるならば、唾棄すべき出来事ではあった。
しかし、C三さんは、そんな風にせずにはいられないくらい、怒ってもいたのだろう。
「最後の理性からか、その動画をネットにあげるような事はなかったみたいだけど、そういうものが存在している、という事実だけで、B雄さんとA子さんには充分だったみたい」
結局、B雄もA子も自主退寮し、C三さんが残った。
「え、C三さんって、まだ寮にいるんですか?」
「卒業したよ、早希ちゃんたちと入れ替わりにね、当事者がいないからこそ、私はこの話をしたんだよ」
「……やっぱり、軽率だったね」
自重気味に百合子は言った。
「でも、それって、悪いのはB雄さんなんじゃないですか? 女子を連れ込んで、そんな」
心から汚らわしいという様子で和美が言った。
「着いてっちゃったA子にも問題はあったと思うけどね」
百合子はため息をついて、しめくくりに言った。
「結局、一番傷ついたのはA子だったわけだし、私には、えらそうにどうこう言うことはできないかな、でも、気をつけた方がいい、っていう、教訓になれば、って、思ってたんだよね」
そう言いつつも、どこか苦いものを噛み砕くような顔をしてから、百合子は続けた。
「それも言い訳かな、言い方を少しオブラートに包んだだけで、刺激的なゴシップを誰かに話したかっただけ、というオチよ」
確かに、大勢に語って、言いふらすような内容では無いかもしれないけれど、それが『事実』なのならば、『情報』として、共有されるに値するんじゃないか、と、志信は思った。
「そっか、共同生活って、そういうリスクも考えておかなくちゃいけないって事ですよね」
和美が言うと、
「基本は皆善良っていう前提な仕組みではあるけどね」
早希が言った。
「不安だよね。千錦寮は、男子禁制だし、夜は鍵もかかるけど、一刻寮の方は、そういうのないからね、今の状態は、田舎の家の玄関に鍵をかけないのとノリは一緒」
共同生活の楽しさは、メリットばかりではないという事なのだろう。そして、そういう共同体だからこそ、昔ながらの村社会のようなものを形成しようとしているのかもしれない。
「あー、なんか、ゴメンね、今日は和美ちゃんの快気祝いなのに」
バツが悪いのか、百合子は手にしていた350ml缶のビールを飲み干して、
「もー、杏奈がふるから」
そう言いつつ、軽く杏奈の肩を小突いた。
これ以上の追求をやんわり避けるような百合子の様子に、皆、それ以上は触れず、話題は一年生交流会についてに変わっていた。
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