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あの人と会話をしているのは誰?

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「……つかれた」

 譲二が買い出しに行っている間にも、子供たちはやって来た。救いといえるのは、未就学幼児が多く、受け答えの内容云々ではなくて、言ったことに対して何がしかの反応さえあれば大喜びしてくれる事だった。

 もちろん、意味のない罵声も多くはあったが、それについては子供たちもまともな受け答えを望んでいるわけではなく、反応があればそれでよし、なところだろうか。

 譲二が買ってきてくれたサンドイッチと飲み物で扉の内側の登弥と圭吾が一息つけたのは、十五時を過ぎた頃だった。

 昼過ぎの山は越したが、時間的にもうあと一山二山ありそうな事を考えると少しばかり気が重かったが、幼児の相手であれば、なんとかなりそうだ、と、二人は思い始めていた。

「……なんか、馬鹿馬鹿言われるのはもう慣れた」

「子供って案外オリジナリティ無いのな」

「あんまりオリジナリティのある質問にこられても困るんだけど」

「確かに……」

「つか、こんなやりとりだったら、AIいらないんじゃね?」

「見た目のせいかなあ、何か、今のこの感覚ってあれに似てる、住宅展示場のバイトで着ぐるみ着た時のやつ」

「言われてみると……」

 着ぐるみに入っている時も、子供たちが容赦なく突進してきたものだった。その時は、何かを求めているわけではなく、触ったり蹴ったりする事で、存在を確かめているだけのようにも思えた。

「あれってさ、何か不思議だったよな、めちゃくちゃ懐いてずっと後を着いてきた子供も、着ぐるみ脱いじまうと無関心、っていうか、同じ人間だと思われてないっつーか」

「あれって結局『ガワ』への関心ってだけなのかな」

 圭吾がつぶやくと、登弥がどーーーんと落ち込んだようにして椅子の上で膝を抱えるようにして体育座りになった。

「……そっか、紅緒さんが饒舌なのも結局『おしゃべりロボット』相手だからってだけなのか」

「落ち込むなよ、おい、めんどくせえな」

「落ち込んでねーよ、……ただ、なんつーか、ちゃんと会話がはずんだっつーか、それって俺自信を相手にしてでの事ってわけじゃないって事かなって」

「お前、今インターネット老人会のネカマみてーな事言ってるってわかってる?」

「なんだよ、ネカマって……まあ、語感から意味がわかるような気はするけど」

「どういう意味だと思う?」

 にやにやしながら圭吾が聞き返した。

「ネット上で女のふりをするって事だろ?」

「せいかーい、今日日掲示板に書きこんだり、オープンなチャットルームもそんなに無いからさ、SNSで性別を隠す人はいても、意図して自分と違う性別を明言する人っていなくね?」

「ネトゲは? オンラインRPGとか」

 登弥が考えながら答える。

「お前やってる? その手のやつ」

 すぐに圭吾に切り返されて、登弥は再び天井を眺めるようにして再び考えた。

「高校の頃はちょっとはやってたけど、今は……そうでもないかなー、スマホゲーくらいか」

「スマホゲーってリアルの本人との結びつきが強いし、何かコミニケーションとるわけでもないから、まあゲームにもよるんだろうけど、キャラを作んない気がするんだよね」

「言われてみるとそうかも、って、だからって今? 俺がネカマっぽいことしてるって事?」

「実際してんじゃん、お前の中でステノは女なんだろ? って事はお前は女のふりをして会話してるって事になんねーか?」

「性別は無いよ、よりユニセックスな方ってだけど」

「なんでもいいけど、あの人が見てるのは『お前自信じゃない』ってのは、わきまえておいた方がいいと思うけどな」

 圭吾は、自分がどうしてここまで登弥にキツく言っているのか自分でもよくわからなかった。何かのふりをして会話をする事に、どこか罪悪感を感じている自分に気づき、違和感を覚えたのかもしれない。だけどどうして、と、それを登弥自身に尋ねることはしなかった。
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