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【7】疾風怒濤の忘年会?

(6)千錦寮で会いましょう

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 渡り廊下が落ち着きを見せた所で志信は屋上へ向かった。階段の上の方はざわついており、言い争っているのか男性の声も聞こえている。

 そう、男性の声。

 施錠時刻の過ぎた千錦寮内において、男性の声がする事は平時であればありえない事だ。けれど、今は平時では無い。勢いをつけて階段を駆け上る志信が三階に差し掛かったあたりで熊谷遼子が様子を見守るように上階を覗くようにして見上げていた。

「熊谷先輩!」

「志信ちゃん、ダメだよ、上に行ったら」

 志信が監査委員の面々と行動を共にしていた事を知らない遼子は志信が好奇心で階段を昇って来たのだと思ったのだろう、行くべきでは無いと止めてくれた。

「さっき渡り廊下の所で佳織先輩と律子先輩が……で、音がしたので早希先輩と杏奈先輩が上に……」

「あー、お手伝いしてんのか、よし、したら私も行くよ」

 志信としても、一人で居るより遼子が共に居てくれた方が心強い。二人揃って三階から四階へかけあがり、屋上へさらに向かおうとしたところで、バタバタと足音が聞こえてきた。

「ッ!」

 常木、と、言おうとした遼子に驚いたのは常木も同様だった。

「あんた……」

 昨年の不名誉な記憶が蘇ったのか一瞬常木が足を止めると、すぐに早希と杏奈が追いついてきた。常木からしてみれば、前門の熊、後門の虎という状況だ。

「常木君、それ以上はダメッ!」

 早希の制する声と、遼子が常木の腕をとり、足をかけたのが同時だった。

「く……熊谷先輩ッ!」

 遼子がよろけて床の上に倒れた常木の上にのり、腕を締め上げると、常木がぐぇぇ、といううめき声をあげた。

 常木は、階段を駆け下りてどうするつもりだったのか、その場の誰もが思ったが、すぐにわかった。

 騒ぎを聞きつけたのか、四階の一番奥、階段から最も遠い部屋のドアが開き、中から二人出てくると、階段の方へ向かって歩いて来た。

 一人は部屋の住人である四年生の笠置仁美。そしてもう一人は……。

「え? 馬橋君?! 何で? いつの間に」

 驚く早希と杏奈、当然遼子と志信も突然の一刻寮生の出現に戸惑うばかりだった。

「馬橋さん、戻ったんじゃ……」

 階段を降りてきたのか譲二が言った。途中で戻ったはずの馬橋が、食堂に戻らず、千錦寮内部から現れた事に、常木以外の全員が驚いた。
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